38.怪しげな集団②
「逃がさん!」
「なっ……!」
大通りに出てきた私達だったが、四方八方にあの怪しげな者達がいた。かなりの人数だ。少なくとも、十人以上はいるだろう。
「どこに逃げても……駄目ということか」
「ええ、そうみたいね」
結果的に、私達は足を止めることになった。どこに逃げても、怪しげな者達に進路を塞がれてしまうからだ。
このように人員が配置されているということは、事前に私達が逃げる可能性が考慮されていたと考えるべきだろう。
「あっ……」
「ああ、やっぱり、そういうことなのね……」
そんなことを考えていると、集団は武器を構え始めた。剣や槍、短剣といった武器は、あの集団がどういうつもりなのかを端的に表している。
「……まあ、元々、荒事上等という感じだよね」
「まったく、どこの誰だか知らないけど、迷惑なことこの上ないわね」
ミルーシャは、ゆっくりと手を構えた。その手には、小さな炎が灯されている。
彼女は、火の魔法の名手だ。こういう時には、その火の魔法はとても頼りになる。
「仕方ないよね……」
ミルーシャと同じく、私もゆっくりと構えた。私には、武術の心得がある。ある程度なら、戦うことができる。
ただ、私が一番得意なのは剣術だ。剣がないのは、少し不安な所である。
「メルラム、エルッサさん、隙を見て、兄貴を呼んできてくれる?」
「兄貴……アラーグさんを?」
「うん、やっぱり、こういう時には兄貴に頼るべきだと思うし……」
私は、メルラムとエルッサさんに頼みごとをした。
兄貴とは、この町に駐在している騎士のことである。事件があった時には、その人物を頼るのが一番いい。
「貴様等……そいつを寄越せ!」
「……フェリナさん、その必要はないみたいだよ」
「え?」
怪しげな集団の一人がこちらに迫って来る中、メルラムは落ち着いた声でそんなことを言ってきた。
こんな状況で、どうしてそんなに落ち着けるのだろうか。それが、私は不思議だった。
「ぬわあっ!」
「……え?」
次の瞬間、迫ってきている人物の目の前に何かが突き刺さった。その光景を見て、私はメルラムの言葉を理解する。確かに、兄貴を呼ぶ必要はなかったようだ。
「ぐうっ! なんだ! これは!?」
「町中で武器を取り出し、少年少女に迫る。どう考えても、穏やかだとは思えないな……」
「何者だ! 貴様!」
槍を地面から引き抜きながら、一人の人物が私達の前に立った。その人物こそ、私が頼ろうとした兄貴、アラーグその人である。
恐らく、偶然近くにいたのだろう。これは、私達にとってとてもありがたい。兄貴がいれば、百人力である。




