36.伯爵家にて⑥
「結局の所、リルフは未知の魔法を扱うことができるかもしれないということだよね?」
「あ、うん。そういうことになるかな?」
「それなら、やっぱり、その子は竜なんじゃないかな? メモにも書いた通り、竜は人類が扱うことができないような魔法を使えるとされている。伝承と色々と一致しているし、その可能性は高い気がする」
「うん……そうかもしれないね」
メルラムの言葉に、私はゆっくりと頷いた。確かに、リルフの生態は伝承の竜とよく似ている。この子が竜である可能性は、かなり高いだろう。
「そうだとしたら、リルフの成体は、こんな感じになるのかもしれないよ」
「成体? これが?」
「うん。本に載っている絵なんだけど……」
そこで、メルラムは一冊の本のあるページを出してきた。そのページには、大きな生物の絵が載っている。
大きな体から続く長い首の先には、トカゲのような頭がある。大きく開かれた口からは無数の牙が生えており、四本の手足には、それに負けないくらい鋭い爪が携えられていた。
背中からは大きな羽が生えており、尻からは尻尾も生えている。さらに、その体には鱗のようなものがあった。
これが、竜であるらしい。なんとも迫力のある生物だ。
「もしくは、こんな感じかもしれない」
「もしくは?」
メルラムは、ページをめくって、別の絵を見せてくれた。そこには、先程とは少し異なる絵が載っている。
トカゲのような頭は同じだが、今度の竜の体は長細い。先程の竜とは、結構違う姿である。
「竜には、色々な種類があるの?」
「この他にも色々と姿があるし、そうみたいだよ。まあ、伝承だから、曖昧なだけなのかもしれないけど……」
メルラムの言う通り、伝承である限りその姿は曖昧なのだろう。だが、今までのことを考えると、この姿も的外れという訳ではないのかもしれない。
「ボクは、大きくなったら、こんな感じになるんだ……」
「リルフは、嫌?」
「よくわからない……でも、嫌という訳ではないと思う」
「そっか……」
リルフは、絵を興味深そうに眺めていた。自分がどのような姿になるのか、色々と考えているのだろう。
あの絵は、かなり迫力があった。小さな子であるならば、憧れてもおかしくはない姿であるように思える。だから、きっとリルフもそれ程嫌な訳ではないのだろう。
「とにかく、リルフのことはまだ完全に理解することはできないということか……」
私は、小さな声で自分にそう言い聞かせた。それが、今回伯爵家に来た私の素直な感想なのである。
結局、リルフのことはよくわからなかった。この子のことを知ることは、一筋縄ではいかないようである。




