34.伯爵家にて④
「まず、フェリナに聞いておきたいんだけど、あなたは魔法について、どれくらい理解しているのかしら?」
「どれくらい?」
数秒考えた後、ミルーシャは私に質問してきた。魔法のことをどれくらい理解しているか。それは、中々難しい質問である。
魔法に関して詳しくない私は、自分がどれくらい理解しているかがわからないのだ。一応、一般的な知識はあると思っている。ただ、その一般的というのは非常に曖昧な基準なので、ミルーシャの質問に対する回答としては正しくない気がしてしまう。
「そうね……例えば、魔法が大まかには四つの属性に分かれているということは、理解しているかしら?」
「あ、うん。それくらいは、もちろん理解しているよ」
悩んでいる私に、ミルーシャが助け舟を出してくれた。そういう風に質問されると、こちらも答えに困らない。
「そう……当然、リルフはわからないわよね?」
「え? あ、その……ボクにも、その記憶はあるよ」
「記憶がある?」
そこで、ミルーシャはリルフに質問を投げかけた。その答えに、彼女は首を傾げることになった。
そういえば、まだその話はしていない。リルフに関する大切なことなので、二人には素直に話すべきだろう。
「……リルフには、知識があるみたいなの。一般常識とか、言語とか、わかるみたいなんだ」
「へえ、まあ、それももしかしたら、記憶を他人に託す魔法とかもあるのかもしれないわね……」
「そうだね。そうかもしれない」
ミルーシャの言葉に、私は頷いた。考えてみれば、それも未知の魔法によるものなのかもしれない。他の現象も魔法だと考えるならば、それもそう考えるのが自然だろう。
「まあ、念のため振り返っておくと、魔法には四つの属性があるわ。火、水、風、土、その四つの属性に分かれている。基本的に、ほとんどの人はそのどれか一つに長けているというのが一般的ね。例えば、私なら火」
言葉とともに、ミルーシャは人差し指を立てて、ろうそくのように火を灯した。
彼女は、火の魔法に長けている。それは、ラナキンス伯爵家の特色でもある。
魔法の属性というのは、遺伝によって決まることが多い。ラナキンス伯爵家も、その性質によって、代々火の魔法が得意なのだろう。
「ほとんどの魔法は、その四つの属性によって行使される。当然、その現象もその属性に似ていることになるの。でも、変身というものはそのどの性質にも当てはまっているとはいえない。だから、少し不思議なのよね……」
そう言いながら、ミルーシャはまた考え始めた。どうやら、リルフの変身というのは、とても不思議なものであるようだ。




