30.変身の謎⑧
「あ、お母さん、腕がだるいよね?」
「え? ああ、大丈夫。リルフは軽いから」
リルフの質問に、私は少しだけ嘘をついた。腕は、結構だるくなっているのだ。
言っている通り、この子は軽い。それでも、私の腕はかなり疲れているようだ。
恐らく、寝ている間にリルフは人間の姿になった。ということは、結構な時間腕枕していただろう。
だから、疲れを感じているのかもしれない。それなのに、強がったのは少し失敗だっただろうか。
「……今の姿だと、流石に重いんじゃない?」
「まあ、多少は重いけど……」
「それじゃあ、退かないと……」
「ありがとう、リルフ」
リルフは、布団に少し潜り込み、頭を腕から退けてくれた。結構な開放感がある。やはり、腕は結構疲れていたようだ。
恐らく、リルフは私が本当は疲れていることを見抜いていたのだろう。そんな風に見抜かれてしまうのは、私がまだまだ未熟であることの証拠だ。
強がらないか、悟られないか、そのどちらかであるべきだっただろう。リルフに余計な気を遣わせるなんて、最も駄目なことである。
「リルフは、優しい子だね」
「え?」
「そう思ったんだ」
「そ、そうなんだ……」
私は、リルフの頭を自分の胸に引き寄せて、その頭をゆっくりと撫でた。
この子は、優しい子だ。こんな子に慕われているなんて、私はなんて幸せなのだろう。
「……そういえば、今日はミルーシャさんの所に行くんだよね?」
「え? あ、うん。そのつもりだよ」
「えっと……ミルーシャさんのこと、少し教えてもらってもいいかな? ボク、あんまりわかっている訳ではないから」
「あれ? そうだったかな?」
リルフに言われて、私は少し記憶を辿った。そういえば、この子にはミルーシャやあメルラムのことをあまり詳しく話していなかったかもしれない。
「えっと、ミルーシャとそれからメルラムは、この町……アルバナスというんだけど、そこの領主の娘と息子なんだ」
「領主……確か、町の支配者ということだよね?」
「えっと……まあ、そんな感じかな? ミルーシャがお姉ちゃんで、メルラムが弟で……えっと、私とは……昔からの知り合いなんだ」
「そうなんだ」
二人のことを話していて、私はあることに気がついた。リルフには、私の過去について話していないのだ。
別に、それを話すことは構わない。別に黙っておく必要がある訳ではないからだ。
ただ、今のこの和やかな空気で話すことは憚られた。もう少し、意識もはっきりとしていた状態で、伝えるべきだろう。
という訳で、私の過去は後で話すことにした。引っ張っても仕方ないので、ミルーシャの所から帰って来てから特に予定がなければ、話すことにしよう。




