26.変身の謎④
「あ、そうだ。エルッサさん、夕食は何がいいですか?」
「夕食……そうね、お昼が軽めだったから、がっつりしたものが食べたいわね」
「がっつりしたものですか……」
そこで、私は話を夕食に関することに切り替えた。丁度、聞かなければならないと思っていたので、話題の展開に良かったのだ。
エルッサさんのリクエストは、がっつりしたものである。確かに、昼食はサンドウィッチだったので、そういうものの方がいいのかもしれない。
「えっと……炒飯とかどうでしょうか?」
「異論はないわ。あなたの炒飯は、私の好物だもの」
「わかりました。それじゃあ、準備してきますね」
がっつりとしたものということで、私は炒飯を提案した。異論はないみたいなので、今日の夕食はそれで決まりだ。
早速、厨房で準備に取り掛かろうと思った私だったが、あることを思い出した。そういえば、この姿のリルフを厨房に入れてもいいのだろうか。
「あの、エルッサさん。リルフは、またこっちの姿になりましたけど、厨房に入れても問題ありませんか?」
「え? ああ、まあ、もう一回入っているのだし、問題ないわ」
「ありがとうございます」
「別に、お礼を言われるようなことではないわ」
私のお礼に対して、エルッサさんは微妙な顔をした。しかし、これはお礼を言うべきことである。
普通に考えて、人間以外の動物を厨房に入れていいとは考えない。場合によっては、人間でも駄目である。
それなのに、許可してくれたエルッサさんには、感謝するべきだろう。それが、不必要なことだとは思わない。
「そもそも、厨房はもうあなたのものみたい所はあるし、好きにしてくれて構わないのよ?」
「いえ、そういう訳にはいきませんよ。ここは、エルッサさんの宿なんですから」
「あなたも、真面目よね……」
「そ、そうでしょうか……?」
「ええ、そうだと思うわ」
エルッサさんの言う通り、厨房は私が管理している。だが、だからといって、そこで好き勝手していいはずはない。
この宿は、エルッサさんの宿だ。だから、何をするにしても、彼女の許可を取るべき。師匠も、そのように言っていたはずである。
ただ、エルッサさんはそういうことはあまり気にしていないらしい。大らかな人なので、自分が主人であるということに関しては、そこまでこだわっていないのだろう。
だからこそ、私の方が意識していなければならないのかもしれない。あくまで、エルッサさんがこの宿の主であると。
「ま、まあ、とりあえず準備してきます。あ、お客さんが来て、夕食が必要だったら、教えてくださいね」
「ええ、お願いね」
「はい! それじゃあ、行こう、リルフ?」
「ピィ!」
私は、リルフを連れて厨房に向かう。こうして、私はしばらく夕食の準備をするのだった。




