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Own Story〜薬師なので"ドーピング"して攻略トップを名乗ります〜

[Own Story]。フルダイブゲーム絶盛期のうちに発売された『問題作』のうちの一つ。ダイブによる副作用は無いに等しく、ゲーム性も全く問題ない。ジョブ毎の専用スキルもあり決してどれかの職業が腐るなんて事はない。(ソロプレイヤーは苦戦を強いられただろうが。)自由度も高く制限という制限はないこのゲームに付き纏う一つの大きな問題点、それは──


『有名となったプレイヤー達の行動が、自由を通りこして無法であったことだ』


Own Story サービス終了後、とある個人ブログのレビューに載せられていた一文より抜粋。

<フラットタウン>


 Own Story(以下OS)の地に、新たな一人のプレイヤーが降り立つ。緑髪緑眼の日本男児は、軽く体を動かしてこのゲームの操作感覚を確かめる。


「おお、ベータテスターのレビュー通り動かしやすいな、と…うし、早速ギルドにいくか!」


 と、今しがたギルドの方へと駆け出していった男の名はイゴロ。今作の主人公である。職業は…薬師を選択。専用スキルは[治験:EX]。『薬品系アイテムのCTを0にする』という効果を持つ生産職だ。


 ギルドの中はプレイヤー達の少ない平日の昼間だったということもあり、サービス開始直後の今朝と比べれば閑古鳥が鳴いているかのような様相だった。これ幸いとイゴロはチュートリアルの通り登録カウンターへと向かった。


「すみません!登録お願いします!」


「承知しました。登録されるのは冒険者、商人、職人、どれに致しますか?」


 冒険者ギルドはその名の表す通り依頼を受ける日雇い傭兵達の集まるギルドだ。実績だけを評価し付けられるランクによって受けられる依頼が変わったりする。

 商人ギルドは露天など商業的に稼ごうとするプレイヤーは登録する必要のあるギルドで、払う税金量に応じて場所提供のサービスや営業形態の許可が与えられる。

 職人ギルドは生産職の多くが所属するだろうギルドで、素材の有償融通や貸出設備、製作物依頼の発受注が可能となる。


 というわけで、イゴロは三つとも加入した。


「こちら、ギルドカードになります。紛失なさらないようにお気をつけください」


「くっそ…初期金10Kなのに一つ加入するだけで2K持ってくなよ……あ、はいわかりました」


 さて、イゴロは減った資金を取り返すべく早速調合に取り掛かるようだ。『[素材貸与]下級ポーション作り』の依頼を受けて、レンタル部屋へと駆け込む。そこには流石に機械はなくとも、魔女のいそうな大釜だけでなく、フラスコ、ビーカー、etc…といった現代でも十分通用しそうなガラスの使われた器具があった。当然ゲーム的な品質は最底辺だが。


「とりあえず…薬草をすり潰せばいいんだよな」


 乳鉢に入れた薬草を丁寧丁寧丁寧丁寧にゴリゴリと擦り潰し、薬草のペーストが完成。これを魔力と親和させ活性化させたものを水に溶かすことで下級ポーションは完成だ。イゴロも手を翳し、厨二な気分になりつつも掌から出てきた魔力をペーストに流し込んだ。淡く光ったので今回は成功だ。フラスコに水とペーストを入れ、軽く振って溶かし混ぜたのち納品用のガラス瓶に入れて依頼品の一つは完成だ。

 今の一連の流れでイゴロのレベルは2に上がり、調薬、植物鑑定、魔力操作スキルは初期段階のE-からEになった。このゲームにはステータスはなく、スキルとレベルがものをいうゲーム。そういう点では、生産職の方がレベル上げをするのは楽なのかもしれない。


──

イゴロ

職業:薬師

Lv:2

スキル

治験:EX

調薬:E

格闘:E-

植物鑑定:E

魔力操作:E

──


 そうして数日間依頼を繰り返す内、幾ばくかイゴロも成長した。レベルは5、同日に始めた生産職プレイヤーと比べてもそこそこ高い数値だ。お陰で調薬と魔力操作はC-、植物鑑定は種類が少なかったためD-になっている。ただ、戦闘はやっていないので未だに格闘だけがE-のままだった。


 そんなイゴロは、いい加減戦闘に出ると思いきや…同時に潤沢となった資金を携えて、プレイヤーマーケットへと足を運んでいた。そこはリアルが休日だった事もあり沢山のプレイヤー達でごった返していた。周囲のマップで取れた素材や生産職が作ったアイテムなどはここで本人達により露店の形式で売られ、そして必要な者の手に入る。まさに市場、といったところだろうか。


「こいつはリピターの森で取れたストロングビーストの角だ!いい素材だぜ!」

「スピファの丘にいる梟の素材を持ってきた。結構苦労したんけど誰もいらないの!?」

「プラウラーの巣で取ってきたリゲイン茸…だれか…」

「ヘムの岩山産の鉱石、安くしとくぜ」


 イゴロも他のプレイヤー達に倣いいくつか露店を回り、気になる素材を購入した。そして最後だと決めた露店には、こんなものが売られていた。


──

バーバリアングローブ

種類:装備

推奨:格闘:E-

効果:素手での攻撃力を少し上昇させる。

──


「へぇ…これはこれは…」


「アンタ格闘持ちかい?なら素手よりはこういうグローブをつけた方がいいよ。少なからず攻撃力が上がるからね。周りの武器を見たらわかるだろうけど、これは『僅かに』じゃなくて『少し』の上昇だし、10000Moneyを突っ込んでくれてもアタシの名にかけて損はさせないさ。……それと、カッコつけてるつもりだろうけどその訳知り顔、似合ってないよ」


 確かに、イゴロはこのゲームが開始されてすぐの段階で効果の説明に『少し』と表記されているアイテムは初めて見た。何故なら、いつも作っている彼の下級ポーションは…


──

下級ポーション

種類:薬品

効果:体力を僅かに回復する。

──


 という、まさに下級といったポーション。中級上級特級となって回復量は上昇していくが…やはり『体力の回復』に限っては薬師は劣る点が多い。それに加えて薬品系アイテムになるポーションはCTが付随するため、あくまでもお守りで普通の回復は味方の僧侶などに任せることが多い。…だからといって、薬師が劣っているかと訊かれれば、その答えは断じて否である。その理由は、もうじき明かすことになる。


「う、うっせいやい。じゃ、それでくれ。10Kだな」


「毎度あり。しかし…10000もポンと出すなんて心意気だけは男前だね。お得意様(フレンド)になってくれるかい?これからも贔屓にしてくれれば少しは勉強するよ」


「…マジで?助かるわ。俺のリアルの友達にこのゲームの生産職いなくてよ…装備の調達に困ってたんだ。ほら、申請送った。受理してくれ」


 もちろん、恰幅の良いおばちゃんな露店の主…鍛治師ラントは送られた申請を受理。晴れてイゴロの初フレンドの登場だ。これからも長い付き合いになる。


「へぇ…薬師なんてのを選んだのかい。あんまり知らないけど、ポーションより回復魔法の方が手っ取り早いってみんな言ってるよ。そこら辺供給者としてどうなんだい?」


「それは認める。けど、薬師ってのは『ポーション』だけじゃねえんだぜ。さっき素材も買ったし見せてやりたいんだが…この後って予定は空いてるか?一緒に狩りに行こうぜ」


「そうだねぇ…なら、三時くらいに東門で待ってるよ。家事を終わらせたらそれくらいになってるさ」


「了解。それまでに俺も準備を終わらせておく」



 イゴロはマーケットから出て、いつものレンタル部屋へと帰ってきた。そして、先ほど買った角、羽、茸、鉱石を机の上に並べてみた。


「うーむ…角と鉱石は砕く必要があるか。茸はそのまま擦るとしても…羽は厄介だな、後回しにしよう」


 という事で備え付けの小さなハンマーを持ち、角と鉱石を叩いてみた。すると何度か叩くうちに形が崩れていき、そのうち粉末状にまで加工することに成功した。茸も薬草と同様に擦り潰しペースト状にしている。


「じゃ、調薬開始だな」


 まずイゴロはナマモノな茸から手を付けた。軽く魔力を流し込み、淡く光って魔力許容量が飽和したのを確認し、容器を移し替えて水と混ぜたら、『強化薬』の原液は完成。今回はガラス瓶ではなく、注射器型の容器を購入し流し込む。量の問題で5本分しか作成できなかったが、予想通りのものが完成してイゴロ本人は満足げ。


──

粗悪な強化薬[再生]

種別:薬品

効果:このアイテムの服用者に少しの間だけ[再生:E]を付与する。確率で体が変質する。注射器に入っている為効果量は高くなったが、再使用までは時間がかかる。

──


 これこそが薬師の真髄、『強化薬』。ポーションという回復アイテムだけでなく、このように戦力の底上げができるアイテムも作成可能なのだ。イゴロもこのゲームをよく調べていなければ発見できなかっただろうこのアイテム達に彼は心が躍った。思う存分自己改造ができるぞ、と。残念ながらこれを投稿した先輩は別の職業を選んだようだが、やはりスキルの追加付与という効果は大きい。そして何より薬師は『治験』スキルにより再使用までの時間を踏み倒すことが出来るのがここで大きく役に立つ。何故なら薬品系のアイテムは全てCTを共有している為、強化薬大量使用という荒技は製作者たる薬師達にしかできないからだ。他にも[筋力増強]と[皮膚硬化]の強化薬を作成し、さっさと集合場所へと向かった。


<ウイング平原>


 初めての敵対フィールド。初めてグローブを装備して、初めてイゴロは敵と戦うのだ。


「もし危なそうだったらすぐ割り込むからね」


「ああ。見ていてくれ」


 目の前にいるのは5体のゴブリン。それを目の前にして、彼は…腕に注射器を3本一気にぶっ刺した。


「何だいそれは!?」


「ハハハハハハハッ!薬師の奥の手さ!」


 アドレナリンが溢れ出る感覚。現実で寝ているはずのイゴロの身体さえもが興奮して興奮してこの力を抑えきれない。アラートは無視され、彼の視界を邪魔するものは何もない。


『グギャギャ!?』


「テメェらぁ!臓物曝け出せやゴルァ!」


『グギャァ~~~~!』


 哀れ、凶拳の前にゴブリン達は空で爆発四散。ポリゴンとなりイゴロの経験値になった。


「な、なんというか…怖いね」


「ハハハハッ、褒め言葉として受け取っとくぜ!」


 血管を三色に光らせながら、イゴロはそう笑った。

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