表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

デスゲームの最初の犠牲者が出ないので緊迫感が足りません~デスゲーム運営の手引き~

作者: 城 初六

 赤松明はごく普通の大学生である。彼はバイトの帰りに何者かに襲われ、目が覚めると13畳くらいの部屋に首輪をつけられて監禁されていた。部屋にはモニターがあり、監視カメラがあり、怪しげなタイマーがあった。同じく誘拐させられたであろう男女も5人ほどいた。赤松は、これが俗にいうデスゲームってやつか、と考えた。

 

 誰からともなく自己紹介を始めた。参加者はそれぞれの名前と職業などを話し、誘拐されて目が覚めたらここにいた、ということを言った。


 まもなく、モニターに怪しげな仮面の男が移り、ゲームの内容を説明した。話の内容は、


 ⑴ 今からデスゲームをしてもらう。

 ⑵ 制限時間内に様々な「ゲーム」をしてもらい、失敗すれば死亡する。

 ⑶ 生き残った者には1億円を与える。

 ⑷ ゲームの進行に支障をきたすような行為をする者には死亡してもらう。


という、比較的よくある話であった。赤松は4つ目の事項を聞いて、これは誰か逆らう人が現れて、その人が処刑されることによって、血なまぐさいゲームがスタートするあれだと思った。しかし、意外にも皆んなは冷静だったので、誰も処刑されずにゲームがスタートした。


 ゲーム自体は某レクリエーション番組のような物であった。正直、本当にデスゲームであるかは不明であったが、まだ誰も死亡していないこともあってか、皆んな冷静にゲームをしていた。また、特に性格に難がある参加者がいないからか、皆んなで助け合ってゲームをしていた。人は極限状態に置かれると本性を現す、というが、まだ極限状態というほどでもないからか、参加者は全員で協力し合った。


 そうこうしているうちに、警察がこのゲームに気が付き、参加者は全員解放された。ゲームマスターの男は逮捕され、赤松ら参加者は無事に元々の生活に戻った。





 田崎はお金がなかった。彼は会社をリストラされ、非常に貧窮していた。そんな中、デスゲームのゲームマスターのアルバイトをすることになった。まずは適当な人を5人くらい集める。そして全員に爆弾付きの首輪をつける。そして指定の時間になったら原稿を読み上げる。状況が唐突すぎて乱心になる者、逆らう者がおそらく現れるだろう。その時はこのボタンを押し、みせしめとして一人を処刑する。そうすることで参加者は主催者を恐れ、疑心暗鬼になり、血みどろのデスゲームが開幕するのだ。

 

 しかしながら、誰も逆らわない。これでは処刑する必要性がない。困ったものである。ランダムに一人を処刑してもいいが、それは理不尽すぎる。参加者は主催者に決められた理不尽なルールに従わされる、これがデスゲームの醍醐味である。しかしこのルールをこちらが一方的に破ってしまったらただの理不尽である。これでは正規社員の方たちが黙っていないだろう。田崎はアルバイトのゲームマスターに過ぎないのだから。


 しかし、参加者を誰も処刑しなかったせいで、皆んなが次々とゲームをクリアしていく。大体、デスゲームの内容なんてただのレクリエーションだと思えばそんなに難しいものではない。ところが、極限状態に置かれることで、ある者は本来の実力を発揮できずに脱落し、ある者はかつてない才能を開花させる。もっとも、今は皆んな本来の実力を発揮している。やはり、最初に誰も処刑しなかったことに起因しているのだろうか。


 よくよく考えればだれも一億円に反応していないことに田崎は気が付いた。参加者全員のプロフィールを見ると、全員が全員、そこまで困窮しているわけではなかった。奨学金やローンの返済でかつかつの生活を送っていても、誰かを蹴落としてまで一億円を手には入れたくないようだ。この時、田崎は気が付かなかったが、誰も処刑されていない以上、一億円も本当にもらえると信じている参加者が皆無であったことも理由の一つである。


 そうこうしているうちに、田崎が潜伏していた群馬の倉庫を警察に抑えられ、田崎は逮捕された。



 


 以上のことから、ゲーム開始直後に参加者を処刑することは重要であるし、処刑されるような人がいるように、参加者のバックグラウンドまで考慮して、この不幸な犠牲者たちを選ばなければならない。


 

 



 これは、警察が押収した、某デスゲーム管理会社の「デスゲーム運営の手引き」の冒頭を一部改訂したものである。通常の手引きでは説明が頭に入ってこないアルバイトのゲームマスター向きの冊子であるからか、やや物語じみていることが特徴だ。この冊子には具体的にどうするべきかが一切書かれていない。しかし、解説が分かりやすいので初学者はついつい分かった気になってしまう。参考程度に読んでおくのがベストだろう。


 私個人としては弊社の「デスゲーム運営入門」をおすすめする。こちらはデスゲームの進行段階を、「準備」、「運営」、「緊急事態」、「アフターケア」の4段階に分けており、「緊急事態」はもちろん、「準備」がかなり充実している。実際問題、参加者の抵抗や第三者の乱入などの「緊急事態」の多くは「準備」で防ぐことが可能だからである。「準備を制する者はデスゲームを制す」という格言を念頭に、この講義を受講していただきたい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ