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第九話 魔術からの進路選択

 伯爵家次期当主の正式な許可も出たことだし、早速三ヶ月ぶりの魔術習得チャレンジをやろうと思う。


 ちなみに、魔術は三ヶ月ぶりだけど書斎は毎日通っていた。実際に何もできないにしても知識があるだけで違うし、発語できないだけで読めないわけではない。

 ということで、魔導書を熟読したり薬草図鑑や植物図鑑を見たり。さらには薬学事典や教本を読みながら、手遊び風のイメージトレーニングをした。


 おかげで、引っ越しのときには確認のための教本と図鑑を借りるだけで済むというものよ。

 まだまだ赤ん坊と言っても過言ではないのだ。できれば荷物を減らしておきたい。


 ……んー……。改めて思うが俺って異常なくらい成長が早くないか? 閉鎖的な村すぎて気づかれていないのかな? とわずかな不安も一応抱いている。


 さて、いつものモップ置き場でバケツを借りて行かねばならないな。地属性はともかく水属性は事故が怖い。周囲の書物が水浸しとか洒落にならん。


「いよいよだ。いよいよ夢にまで見た魔術が使えるようになるんだ!」


 あまりの嬉しさとワクワク感に思わずスキップをしそうになりながらも、なんとか自制し気配を殺す。書斎は俺の領域ではないし、赤ん坊のときよりも警戒されているのだ。


 書斎に入るときも気配や魔力感知で様子をうかがいながら慎重に入室する。許可をもらったから良いとは思うが、獣人族は魔術が使えないという劣等感を、魔術に頼る卑怯者という考えで上書きしているようで、魔術を使う者を毛嫌いしているのだ。

 これについては筋金入りで、本来勇者になるはずだった神子ですらほとんど習熟しないらしい。


 お前はやれること少ないんだから魔力訓練くらいやれよ。基本的に寝ているだけでできるから、赤ん坊でもできるほど簡単なんだぞ。

 しかも俺は助かっているからいいけど、書斎で全く会わないってことは本を読まないのだろうか。だとしたらいったい何をしているんだ? と日々疑問に思う。


 そんなことを考えているうちに目的の書斎に到着して、夢の魔導書を手にしている。右手はバケツへ向け、上丹田である眉間からは制御済みの極小魔力を出している。あとは呪文を唱えるだけである。


「水よ、恵の水よ、湧き上がれ《創水》」


 魔術陣を見ながら呪文を唱えると目の前に魔術陣が現れ、やがて収縮していき眉間にある上丹田に吸い込まれていく。

 直後、鍵が鍵穴にカチリとハマる感覚があり、これが魂に刻む行為なんだと納得する。


 そして発動した《創水》の魔術はバケツの中へ向かって放出された。


 結果は成功。


 文句のつけようがないほどの結果に喜びが内側からあふれ出た。思わずその場でジャンピングガッツポーズを決めたほどに。


 それからは可能な限りドンドン魔術を読み込んでいく。幸いなことにハイスペック赤ちゃんである恩恵を最大限利用した魔力訓練の成果が出て、中級までの魔術はあらかた習得できた。


 さらに一つの法則も見つけた。


 《創水》の呪文である「水よ、~湧き上がれ」の中央の部分を変えるだけで、別の魔術を発動できるということだ。


「水よ、清らかな水よ、湧き上がれ《清水》」


 といった具合に。


 つまりは、属性への呼びかけ、イメージの具現化、命令の構成となっているのだろう。具体的なイメージを持てれば、短縮詠唱や詠唱破棄も夢ではないだろう。


 結論、短縮詠唱は簡単にできた。


 今見たばかりの現象を思い浮かべながら《清水》の魔術を発動をすると、思いの外簡単に発動でき、魔術自体も安定していた。


 赤ちゃんのからだって本当にすごいんだな。何でもすぐに吸収してくれる。こうなると神子が心配になってくる。


 世界的に十五歳が成人って言っても、獣人族は十歳で体格も能力もほとんど決まってしまい、成長度も十歳以降は緩やかという早熟型である。

 俺がまもなく一歳ということは、神子は七歳である。もう時間はほとんど残されていないのに、神子は弟である俺を虐めることに精を出しているだけだ。


 アルテア様曰く、勇者たちは制限があって強くなりにくい。そこに唯一勇者以外の職業を与えられる予定である過去最弱な神子をサポート役にすると……。


 …………大丈夫か? 霊王様を探している間に世界終わらないよね? いきなり魔王軍とこんにちはしないよね? 本当に頑張ってくれよ?


 魔術成功の興奮を神子への不安で抑制し、次の展開に胸をはせる。そう、実践だ。

 正確に言えば生活魔術の使用や魔力の増減による変化など。さらに言えば、魔物との戦闘も視野に入れている。


 アルテア様がおっしゃっていた魂の格を上げたいと常々思っていたのだが、いかんせん攻撃手段がない。しかも比較的安全な方法が望ましく、今回習得できた魔術は最良と言えるだろう。


 しかし、ここで思わぬ事実が判明する。


 魔導書の最後のページには作者のあとがきのようなものが記されている。いつもは読まないページなのだが、魂格という文字が目に飛び込んできた。

 次の展開として行うことに関係があるのなら読んでおいて損はない。


 そしてこの判断が間違いではないことは記述を読んですぐに確信できた。


『魂格のレベル上げは職業授与の儀式を終えてから行うことを推奨する。レベル上昇による魔力量加増補正の割合は、永続的に初期レベルの一割だと言われている。精霊もこの説を否定しない。ということは肯定という意味で間違いないだろう。

 五年間魔力量をできるだけ増やしてからレベル上げをすることは、魔力量増大効率の適齢期と合わせて重要だと言えることは間違いない』


 と記されていたのだ。


 思わず「マジか……」と呟くほどには驚き、魂格のレベル上げを断念せざるを得ないことに落胆した。


 でも将来的にプラスになることならば、今は魔力訓練を含む魔術関係や種族特性スキルの習熟、武術関係の習得と習熟に力を注ぐべきだろう。

 金策についてのあてはあるが、まだ確実ではないから保留にする。


 これらを踏まえて今後の予定をまとめてみよう。


 まずは小屋への引っ越しまでだ。多くの書物を必要とする理由から、引っ越しまでの三ヶ月間は魔術関係メインの習熟が良いだろう。

 それに対策が立てられるまでは安全に気絶することができるとは限らない。


 続いて引っ越し後から職業授与の儀式までの予定だが、以前からやりたかった木工スキルの習熟と調合スキルの実践だ。

 現在は手遊びによる擬似成功体験をしただけのガリ勉くんである。調合の説明はできるが、現場では何もできない役立たずくんなのだ。


 子どもに優しくない大人しかいないせいで、薬は自分で調達しなければならない。つまり生命線である調合スキルを役立たずくんのままにしておきたくないのだ。


 幸いなことに小屋は屋敷の裏にあり、柵を越えたらすぐに森である。危険と隣り合わせだが、相手を殺すことなく採取だけはさせてもらう。


 まぁ本音を言わせてもらえるなら、木工スキルで木像作りを、調合スキルで薬作りをし、売ることで金策にできないかな? なんて思っている。

 ただやり過ぎると、追放ではなく奴隷にされそうで怖い。


 親子で同じ職場って……絶対に嫌だ!


 モフモフが俺を待っている。俺もモフモフを待っている。でもまだ現れていない。毎日それだけが辛い……。


 とりあえず悲しみの底から現実に意識を戻し、最後の予定を考える。


 問題の武術スキルだが、獣人族全体での種族特性スキルは体術らしい。そこに緋猿族の種族特性スキルである棒術または槍術が加わるらしい。


 個人的にはどうせなら杖術が良かった。


『突けば槍、払えば薙刀、持たば太刀、杖はかくにも外れざりけり』


 という有名な言葉があるほどの、多様な攻撃手段を持つ武術である。

 同じ棒術だというなかれ。前世ではどうだったか知らないが、異世界では長さが違うのだ。


 杖術は地面から胸までの高さであり、棒術は最低でも等身大である。唯一良い点は刃をつければ槍になるから、一部流用できる型があるところだ。

 これまた棒術と槍術を一緒にするなと言われるかもしれないが、槍術の訓練でたんぽ槍を使うことにより緋猿族は同じだと思っている。

 でなければ種族特性スキルにこの二つが並んでいないだろう。


 結局、体術と棒術を選択した。理由は簡単。


「斉天大聖孫悟空様とはオレ様のことだーー!」


 と言ってみたいからである。緋猿族と棒術って聞いた瞬間、狙っているのかと思ったほどだ。

 ここまで決めると急に追放が現実味を帯びてきて、追放に対する覚悟が決まった。


 よし! やるかっ!



お読みいただきありがとうございます。

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