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第八十一話 熊猫からの報復作戦

 翌朝。日課を終えたあと、報復しに領都に向かう。今回関わった指揮官クラスの邸を襲撃し、全て接収したあとは見せしめに爆破する予定だ。


 不動産は俺のものにできないから、奴隷商などの目を向けてほしいもの以外の邸は木っ端微塵にする。特に利益は欲しいが、バレたくないと町に引きこもっている【総合職業組合】の部長どもだ。


 組合に行っている間に吹き飛ばされて、帰る家もなくして路頭に迷えばいい。


「今日はどうやって行くの? 馬車で行く?」


「その方がいいかな。奴隷たちの物資も必要だしね。イムさん、いっぱい収納してね!」


「うん! でも、そろそろラビくんみたいに『イムちゃん』って呼んで欲しいな!」


「うむ。吾輩も同じように思うぞ!」


「……どうしたの? なんかあった?」


「結構長い付き合いだというのに、なかなか敬語が取れないのは寂しいぞ? 公爵家の娘には即日に取ったのだろ?」


 それを言われたら断れないな……。


「イムちゃんでいいのかな?」


「呼び捨てがいいな!」


 クッ……。イムちゃんでいいって言ったじゃん。


「なんか照れるね。……イム」


「うん!」


「吾輩は?」


「いつもありがとう、レニー」


「うむ!」


「「ブルルッ!」」


「アイラとメルもありがとう!」


「「ヒヒーン!」」


 カーさんとラビくんが気配を消している。きっと邪魔をしたら戦争が起こると思っているからだろう。多分正解だ。


『ラビくん、みんなは何があったと思う?』


『名前を呼ばれるのは嬉しいと思うよ! アークもぶーちゃんに呼ばれて喜んでいたでしょ?』


『なるほどね。もっと早くから呼んであげればよかったな』


『今からでも遅くないよ!』


『そうだね!』


 さすがラビくん、お兄ちゃんらしく従魔たちの気持ちを理解している。


「アーク、オレはいいことを思いついたぞ!」


「どんな?」


「地魔術が得意なんだろ? 邸ごと頂いちゃえばいいじゃないか。土地は動かせないからオレたちのものにはならないけど、切り離した家は勝手に持って帰っちゃえばよくないか?」


「いいですね。でも人間は?」


「眠らせて木箱に詰めとけばいいだろ? どうせ物資を買うつもりなんだからさ。奴隷がいたらもらっていけばいいし、仕返し要員以外は連れ帰った方が禍根を残さずに済むんじゃないか?」


「さすが【大老】の部下……。やることが鬼畜だ……」


「ラビくん、上司といっしょにしないでくれ。オレはあそこまでじゃない」


 ラビくんとカーさんが【商神】様の話をしているけど、話を聞いていると怖い神様に思えてくる。


「怖いことする神様なの? 個人的には気にかけてもらっている優しい神様なんだけど?」


「それは間違っているわ!」


「タ、タマさん……。いきなりどうしたんですか?」


 昨日も早々にいなくなったのに、まさかこんな話に食いついてくるとは……。


「あんたはまだ怖さを知らないのよ!」


「どんな方なんですか?」


「見た目は色違い……模様違いの熊親分よ! 雰囲気もそっくりだけど!」


「分かるーー! オレはこの間連チャンだったから、すげー長い時間に感じたんだよな……」


 カーさんはタマさんに共感しているようだけど、俺は見た目の方が気になって仕方がない。


「……熊? 熊なの? でも模様が違うって事は……パンダ?」


 急いで世界の生物図鑑『獣&鳥類』を取り出し、タマさんにパンダを見せる。


「そう! これよ! 色は違うけど、二足歩行のパンダよ!」


「うおぉぉぉぉぉーーー! 俺、精霊で一番好きかも!」


「精霊なら許す! モフモフ全てって言ったら拗ねてたよ?!」


「モフモフはラビくんが一番だよ!」


「もぉーー! 照れるーー!」


「イムは?」


「スライムで一番好きだよ!」


「むっふーー!」


 上機嫌で抱きついてくるイムを抱き留めて、戯れている間に町に着いた。


 ちなみに自作の装備は身につけていない。絡まれて面倒なことになるのは、今日じゃない別の日がいいからだ。


 回収する建物は、クソババア関係では住居兼商館および倉庫と娼館兼宿屋だ。塵一つ残さず持っていく。商会の馬車には人間を箱詰めして運び、演習中の補給物資ということにする。


 跡地にはデカい穴を残しておこうかな。


 奈落の底に神隠しにあったように感じ、大規模侵略に多少なりとも関わった者たちへの戒めになればと思う。


 奴隷商幹部および傘下の奴隷商たち関係の物は、商館や倉庫に住宅を回収する。家族は、地下の奴隷たちが入っていた部屋を地上に押し上げ、外装を小屋風に施した檻に入れる予定だ。


 水や食料を用意しておけば、救助が来るか追っ手が来るまでは無事に生きていけると思う。

 ただし、約束通り奴隷たちを大切に扱っている人たちなら箱詰めして連れて帰る。


 代官は領主官邸に住んでるから住居の回収はしない。代わりに、神子母との関係の証拠が詰まっている密会用の隠れ家があるらしい。いつも護衛をしているという団長が死ぬ間際に教えてくれた。


 もちろん、もらっていく。


 暴露本に神子誕生の場所と明記して、フルカラーで挿絵を入れてやろうと思っているからだ。神子母の顔がどうなるか、今から楽しみである。


 団長と組合の冒険部長と商業部長は、家族ごと屋敷をもらっていく予定だ。商業部長は個人的に商売もしているらしく、彼の商館と倉庫も奴隷村の資産に加える予定である。当然、人材も。


 馬車は基本的に箱詰め用だが、別の用途もある。


 早晩、ゴブリンの襲撃によって壊滅する恐れがあるエルフ村の移設用である。戦士階級を全部投入したあげく、一人残らず失ってしまったエルフは、いつゴブリンに滅ぼされてもおかしくないのだ。


 我が奴隷村のように防衛設備も整っていないエルフ村は、ゴブリンのレストランになっている状態だ。


 戦士階級の降伏条件がエルフ村の移設交渉だった。立場が下のくせに、降伏条件とかどの口が?! とも思わなくもないが、ドロン農園という多大な貢献を果たし、家族の一員になったエルフ娘たちの願いもあって承諾した。


 タマさんもドロン農園の貢献を認めていて、珍しく後押ししたからだ。


 だから今日はエルフ娘たちも一緒に来ている。


 でも首輪があるから入門料は取られない。一応所有物扱いだからだ。俺もまだ新年じゃないから、お金を取られることはない。


 エルフが増えるなら川から水でも引こうかな、なんて考えながら目立たない場所から回っていく。日中だから娼館通り辺りがいいのかもしれないが、宿屋も兼ねているから悩む。


 結局、利用客は昏倒させて《鑑定》をかけ、仕分けしていく作業をする。

 その後、俺たちにとって当たりだったり犯罪者だったりする人材を、宿屋にある木箱や樽も使って詰めていく。宿屋をやっているだけあって捨てるほどあるから助かる。


 馬車に載せたあとは、次々と敷地外に出して行く。昼間ということと、森魔術で造った目隠しをしているから大丈夫だと思うが、序盤でバレるわけにはいかない。


 馬車を送り出したら、建物の土台を切り離して《ストアハウス》に収納していく。


 これを娼館通りのほとんどの店で行っていく。どうやら奴隷商たちと組んで、ここら辺一帯を占有していたらしい。


 だが、おかげでいい作戦を思いついた。


 昏倒させた客は無事に残っている宿屋の敷地内に寝かせ、建物がなくなった場所に開けた大穴に薪をくべて火をつける。


 全ての店舗跡地で行い、娼館通りが大規模火災に見舞われていると思わせる。


 警備や商会関係者の注意が集中している間に、建物の回収を終わらせる予定だ。多少奴隷が減るが、面倒が減る方を選ぶ。


 この作戦が思いの外当たり、火事騒動が終息する頃には建物の回収と奴隷商の家族の新住居が完成した。


 今は問題が解決して戻ってきた商会員を捕獲している最中だ。

 スキルを活用して、隠れたり逃げようとしたりする者も、もれなく捕獲している。


 途中、大声お姉さんが通りがかった。


 俺の《威圧》を覚えていたようで、目が合った瞬間卒倒してしまったから、彼女も連れて帰ることになった。まぁ元々クソババアの部下だから構わないだろう。


 捕獲終了後、物資を買い付けにいつものおっちゃんのところに行く。


「頼もーー!」


 カーさん、適当なあいさつだな。


「お……お、お、お久しぶりです!」


「ん? どうした? 今日は買い物と船のことを聞きに来たんだが?」


「……買い物ですか?」


「そうそう! 使用人の人数が増えてさ。二万弱分の物資を補充しようと思ってるんだわ!」


「二……二万……。運搬は……?」


「倉庫がある。それにしても困るよな。移住者が多すぎて先住民が移住するとか! まぁ今度は大丈夫だろうよ。全員奴隷だから!」


 めちゃくちゃキレてる……。


「二……二万の……奴隷……」


 しかも、伯爵閣下が鍛え上げた屈強な兵士が三分の一を占めている。今や奴隷だけで領都を蹂躙できる戦力だ。


「まぁ撤退するオレたちには関係ない話だな! さぁ物資をよろしく! このあともやることがあるんだわ! あと船は?」


「明後日、新年祭初日の朝に出港します。新年祭最終日に何か発表があるらしくて、新年祭までは予約でいっぱいなのです……」


「いや、王都に用があるわけじゃないからな。【一の島】に行きたいんだが、船は出ているか?」


「【一の島】ですか? 一度本土に渡ってからなら当商会の船を紹介できます。この時期はあまり混んでませんので即日に出せますよ。あらかじめ知らせておきますし」


「じゃあそれで頼むわ。【迷宮都市】に行く予定だから、縁があれば会えるだろ?」


「【迷宮都市】ですか……。なるほど……、絶対に向かいます!」


 珍しくデレたのか? カーさんにしては優しくないか?


『アーク! ラビペディア大先生の出番かな?』


『大先生、出番です!』


『うむ! 任せよ! カーさんが【商神】の部下なのは知っているよね? 【商神】は〈忍耐〉を持って活動している者が好きなんだよ。だから、その者には加護を与えるんだ。このおっちゃんは加護を持っていないけど、真面目に努力してきたし、カーさんの理不尽な物言いにも真面目に応えてきたんだ!』


『じゃああれって試練でもあったってこと?』


『そうだね! 文句もあっただろうけど、試してもいたんだよ。だから、カーさんの言葉は精霊からの褒美の助言なんだ! これを世間話と捉えれば、そこまでの人間。でも助言に気づければ、【迷宮都市】は次の加護地であり、商機がある場所に聞こえるはず! そしておっちゃんは気づいた! カーさんはおっちゃんを気に入っているんだよ!』


『でも王都の商人でしょ?』


『魔境や迷宮産の取り扱いのプロだよ? 王都に魔境がないから魔境に来たのに、撤退することになったら大損だよ! だから、新たな候補地を捜すなら【迷宮都市】にしろって言ったの!』


『なるほどね! パンダ大精霊様みたいに優しいんだね!』


『……【大老】をパンダ大精霊って言うのはやめた方がいいよ』


 え? ダメかな?


『ぬいぐるみ作ろうと思ってるんだけど……』


『作ってどうするの?』


『プレゼントする!』


『自分のぬいぐるみなんかいらないでしょ!』


『本当は【霊王】様のぬいぐるみをあげようと思ったんだよ!? でも、誰も教えてくれないんだもん! 強そうな姿ってなんだよ!?』


『……じゃあしょうがないね! あっ! 荷物入りの馬車が来たよ!』


『……この話になると毎回話を逸らしてないか? 本当は知ってるんじゃないかい?』


『濡れ衣だよ! ほら! エルフのところに行くんだからさ! 早くぅぅぅーー!』


 そこまで言うと、伏せて寝ているリムくんのお腹の下に潜り込んでいった。……怪しい。


 最初は倉庫を出すつもりだったが、詰め替えが面倒だったから馬車ごと買い上げた。

 おっちゃんの部下が町の外まで馬車を運んでくれ、街道に出た後は連結馬車を作って御者の人数不足をカバーする予定だ。



お読みいただき、ありがとうございます!

多くのブックマーク登録と評価をしていただき、本当に嬉しく思っています!

ありがとうございます!

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