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第七十七話 企みからの奴隷準備

『お願いしますよ? お金は振り込み済で、獲物はそちらの好きにしていいという条件なんですから、絶対に例の子どもを表社会から消してください! 私の主君にとっては邪魔でしかないんですから!』


『えぇ、えぇ。もちろん分かっています。こちらも本気だと証明するために、領兵の三分の二を投入するのです! この私自ら指揮を執りますぞ!』


『たった一人にそこまでやってくださいますか! 頼んだかいがありました! いや~、報告を楽しみにしていますよ。それでは失礼します』


『お任せを』


 組合にある通信魔道具だが、邸に集まっている人物の一人が用意し貸し出していた。おこぼれに預かるための手土産である。


「みなさん、聞いての通りです。依頼は事実で、私はおよそ六千を率いて捕縛に向かいます。あなたたちは少数の動員だったから、全て失敗してしまったのです。厄介な伯爵家一同が王都に移った今なら、大規模な動員も可能です。名目は、来るスタンピードに向けた実戦訓練です。辺境を守るための行動ならば、話が通らないはずありません! あなた方はどうされます?」


 町の上役の内、商人と職人を除いた全ての人間が領主官邸に呼び集められていた。


 依頼を受けてプレゼンをするのは、領都を預かる代官である。文官家系で分家筆頭である彼は、常々機会があれば指揮官として戦場に立ちたいと思っていた。


 近くに自力で伯爵まで上り詰めたイグニスがいたことも、代官の気持ちを加速させてしまう要因になっている。


 そこに一見楽そうな依頼が舞い込んできた。


 真面目で堅物の副団長は止めるが、団長は領兵の訓練になると言って、副団長と新兵を除く三分の二の動員を決めてしまう。


 ただ、元々は文官であるため、一人でリスクを負う勇気はない。

 そこで領都の裏の商人と呼ばれる伯爵の第一夫人に声をかけると、彼女は【奴隷商組合】の元締めと、【総合職業組合】の商業部と冒険部の部長を連れてきた。


 話が本当かどうかを確認するために、わざわざ通信魔道具を持参して使わせたのだ。


 結果、順調に話が進み、みんなで利益を分ける代わりに足並みを揃える形で話はまとまった。


 伯爵家の村を野営地にし、雑用のために冒険者を派遣する。商人は物資の提供をするために村に行き、奴隷商は娼婦を提供するという、それぞれが村にいても怪しまれない建前をでっち上げた。


「では、迅速に動きましょう!」


 すでに指揮官気取りの代官が、意気揚々に指示を出す。


「生きていたのね……。絶対に私のものにしてあげる……。ふふふっ」


 伯爵第一夫人は狂喜をはらむ光を瞳に浮かべ、一人呟くのだった。


 ◇


 ところ変わって、緑色の豪邸に一人の男が駆け込んできた。


「おい、聞いたか!?」


「……えぇ。まさかこんな日が来るなんて……」


「【奴隷商組合】と国は精霊様に喧嘩を売ったってことだ。組織や国は尻尾を切ろうとするだろうが、成功すれば何とでも言い訳ができると考えているだろうよ!」


「成功するはずはないでしょ……。一万近くの人は森に飲み込まれてしまうでしょう……。問題はそのあとです。町への報復は? 国や組織に対する報復はどうでしょう? 事前に防げたはずの私たちに対しては? などなど……。考え出したらキリがありません!」


「まぁそうだが、職人街の俺に参加にいる者や関係者は撤退を決めた。迷宮がある南方にも知らせを出して置いた。だから、商会長には船を頼みたい」


「船はすでに手配しています。大陸本土にある方も空荷で呼び寄せています」


「何でだ?」


「精霊様が船に乗るからです。その時点で撤退以外の選択はありませんから……」


「俺たちの予想よりも早く撤退を決められていたか……。俺の手は焼けないよな……」


 魔の森へ大規模な派兵を行うと聞いた商人と職人は、あらゆる手段を使ってやめるように抗議に動いた。

 しかし聞く耳を持ってくれた組織は一つもなく、大規模侵略は止められないものとして精霊経由で高位精霊に伝えられてしまった。


 精霊は基本的に同族思いである。


 精霊に危害を加えた者や関係者に大精霊が神罰を下しても、何ら不思議はなかった。


 職人が手を焼かれる心配をしているのは、火の大精霊の神罰で一番有名なものだからだ。職人の大切な手を奪うことは命を奪うのと同等で、神罰としては最上級である。


 二人は神罰を心配しつつ、今後の対応について話し合っていくのだった。



 ◇◇◇



「アーク! 何するの? 遊ぶの?」


 ラビくんが可愛い。俺の足にコアラみたいに抱きついて、遊ぼうと強請っている。


「穴掘りをしようと思っててね」


「何で?」


「洞窟の周りにある落とし穴みたいなものを造ろうかと」


「あれ? タマさん用の奴隷は?」


「クソババアが大規模侵略に加担するなら、あの村を拠点にすると思うんだ。それに組合で俺の特徴を聞けば、未踏破領域で生きていたって予想して、俺が通ってきた道を通って来るはず」


「ふむふむ」


「俺が最初に追撃者を撃退したところは拓けていて、そこを少し拡張した後に落とし穴を設置する。ただし、人がたくさん乗っても落ちない強度にし、深さは二メートル弱。《泥沼》を仕込んでおいて、ドボンしたら《硬化》で動きを封じる寸法だ!」


「ふむふむ。それで?」


「周囲の木々は森魔術の荊で擬似的な壁を造る。通って来た道は、通過後に同様に塞ぐ。逃げ道は森の小道だけにして、出口で《鑑定》して神器用と奴隷用で仕分けていき、それぞれの檻に入れていく。レニーさんたちにも手伝ってもらって、俺は指示出しと逃亡者の対応に徹しようかと。埋まっているやつはゆっくりやればいいしね!」


「……エ、エグいよ」


 ラビくんがドン引きだ。だが、鬼畜天使の注文がきっかけなんだから、仕方がないと思う。


「奴隷は基本だよ? でも闇属性は欲しいじゃん? エルフは全員農奴だし、冒険者諸君は迷宮奴隷だよ?」


「ん? そんな制度あったっけ?」


「……ないけど」


「だよね! じゃあ何なの!?」


「俺の代わりに留守番してもらう要員だよ! 迷宮を放置してたら、スタンピードが発生しちゃうでしょ!? だからお手入れしてもらいつつ、鉱山奴隷のように鉱石やお宝に魔物素材を集める作業をしてもらおうと思ってね! 《家事》スキルや《料理》スキルを持っていれば、寮母奴隷として働いてもらう予定だよ。適材適所の『奴隷の奴隷による奴隷のための施設』をつくろうと思ってるんだ。俺たちはおこぼれをもらうだけ!」


「……もう奴隷の町じゃん」


「それよ!」


 なんとなく発したラビくんの言葉にタマさんが食いつき、目の前に光る板が現れた。


「……どうしました?」


「奴隷の町じゃなくて国を創って、ドロンの大規模な農園を造ればいいのよ! もちろん国有地にして、不法侵入は即刻死刑!」


「「鬼か!」」


「……冗談よ」


「「嘘くさぁーー!」」


 とりあえず奴隷のことは横に置いておき、目的の場所で落とし穴を造っていく。等間隔に支柱を設置して、支柱に火の魔石と魔核のセットを埋め込み、メルさんの子どもたちの皮で包んだ人工ミスリルを地面の下に隠して設置する。


 支柱を爆破するための爆破装置だ。


 魔術で爆破してもいいが、冒険者の中に魔術師がいた場合、魔術発動前に警戒態勢を取られてしまう可能性がある。罠は油断しているときにこそ真価を発揮するゆえ、余計な警戒は不要である。


 泥水で穴を満たした後、支柱の上に厚めの岩盤を載っけて完成だ。


 次に、周囲の木々をレニーさんと手分けして囲っていく。潜ることも切断することもできずに、唯一の道に入るがいい。


 続いて、洞窟周辺の改装を行う。


 尖塔用に造った【始原竜】三体を、図鑑を見ながら手直ししたり色づけしたりした後、《ストアハウス》収納する。


 南側にあるゴミ捨て場に向かって生活排水が流れるように、洞窟の外周に側溝を造る。トイレはスライムポットン式だから、生活排水だけだ。


 西側の蛙プラントは、メルさんの子どもたちの住み処にリフォーム済みである。南北の東端に仕分け用の檻を設置して、南側の訓練場後に奴隷住宅を増設していく。もちろん、家具や作業着などの備品付きで。


 服は町で買った生地で作った。他のものも基本的に町で仕入れたものだ。


 風呂は大衆浴場を男女離して造った。ラッキーは絶対に起こらない。

 生産系のスキルを使いたい場合の施設も用意したが、素材は自分が採取したものに限る。迷宮で採取したものの割合は決まっていないが、ほとんどは俺のものだ。


 不労所得を皮算用してニヤついていたら、ラビくんに可哀想な子を見る目で見られた……。悲しい。


 ドロン農園を含む住宅の外周を剣山付きの堀と柵で囲い、尖塔の代わりに四方に物見櫓を設置した。


 迷宮には解体所に直通で行けるように設置した側面の扉を開放し、住居スペースには東側の玄関からしか入れないようにする。管理人はエルフ娘たちだ。


 新たな拠点を見つけるまで、ドロン農園と奴隷を管理しておくように頼んである。


 これで迎撃から旅立ちまでの準備は完了した。


 ◇


「来ましたぞ! 来ましたぞ!」


「ラビくん、どうしたの!?」


「興奮するね! だって一万人近いんだよ!? ここに入るかな!?」


「あぁ……。それね! ここに住むのは女性と選ばれた男だけだから。基本的に男は落とし穴のところに造る予定の、大部屋主体の住居に住む予定だよ。特別な芳香剤を使いつつも、性行為は一切禁止する。そして心を砕くのだ!」


「……鬼畜」


「師匠の薫陶を受けまして! でも駐車場も兼ねているし、未踏破領域手前だから防衛設備さえ整えれば、この洞窟周辺よりは安全だと思うよ」


 そもそも荊で囲ってある時点で、出入り口は二箇所だけだ。井戸も掘ってあげる予定だから、危険を冒さず開拓村を作れたと思ってもらいたい。


 対価は奴隷になることだけだ。


 侵略してきた捕虜が受ける罰としては、至れり尽くせりの作業奴隷だと思うけどね。なんてったって尊厳を殺す性行為は禁止するのだから。


「では、作戦開始!」


「「「「「おぉーー!」」」」」


「ガウゥゥゥゥゥーーー!」


 ◇


「来た来た! 予想通り馬車が最後尾だね!」


「馬車の足止めはレニーさんに任せよう。ラビくんは、先頭の冒険者が新人奴隷たちの装備を見つけて止まったら……」


「このスイッチを押すんだね!」


「その通り!」


 発破のスイッチを押す役目は、ラビくんがやりたいと主張したためラビくんに任させることに。


 スキルを駆使して草陰に隠れていると。


「貴族様! 伯爵家の紋が入った剣が落ちてますぜ!?」


「どれ! 見せてみろ!」


「どうぞ、団長殿!」


「ふむ……。確かに兵士のもので間違いないようだ。つまりはここで魔物に襲われたということか……」


 と、団長が足を止めたことで、部下の足も自然に止まる。六千という大規模な人数が止まれば、それ以外の者の足も自然に止まる。


 そして完全に止まるかどうかというときに、ラビくんがスイッチを押した。


 ――ドンッ!


 直後、鳴り響く爆音とともに足元が崩れ落ち、逃げ場のない中央部にいた多くの者が穴に落ちていく。


「うわぁぁぁーーー!」


「きゃぁぁぁぁあーーー!」


「――なっ! なんだ! いったい何が起こっているんだ!?」


 ――《硬化》


 二メートル弱という、ほとんどの人を拘束できる深さの落とし穴に落とし、《硬化》して捕獲する。


 あらかじめ圧縮して隠蔽してあった地魔術を《無詠唱》で放ち、速度と強度を両立させた。


「レニーさんたちも後方を塞いだって!」


「よし! 仕分け作業のために戻ろう!」


「うん!」


 洞窟に戻ると新人奴隷を除き、我が家族全員が集合していた。


 ちなみに親分たちは上空で見ていて、カーさんやネーさんと白虎親子は引っ越し準備中だから、この場にはいない。


 よって、従魔とエルフで全員なのだ。


「次々に《鑑定》していくから、奴隷と言ったとき以外は北側の檻へ。さすがに死体とは言えないからさ。武装解除して放り込んでおけばいいからね。あと南側にエルフ専用の檻を用意しておいたから、抵抗しないでくれれば、誰も傷つける予定はないからさ」


「「ありがとうございます!」」


「うん! それじゃあ、作業開始!」


『おおーー!』


 こうして残党狩りを始めるのだった。



お読みいただき、ありがとうございます!

ブックマーク登録と評価もしていただき、二日続けて狂喜乱舞しています!

これからも頑張りますので、引き続きお読みいただければ幸いです!

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