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第七十四話 紫色からの横一文字

 公爵令嬢は蛙石のアクセサリーも追加で購入していた。メイドのダリアとお揃いで、ドロンの花をあしらったものだ。令嬢はペンダントで、メイドは髪留めである。


 全部で金貨七枚(七十万フリム)になったが、躊躇いもなく普通に払っていた。さすが公爵令嬢である。


「あのお名前を教えてもらってもいいですか? わたしはクロエって言います!」


「これは申し遅れました。アークと言います。以後お見知りおきください」


「はい。……そちらの子は?」


「この子はラビくんと言います。私の従魔です」


「従魔……。可愛い……」


「えぇ。可愛くて大切な家族です」


『もぉーー! 照れるーー!』


 それにしても公爵令嬢なのに護衛はいないのか?


「あの……不躾なことをお聞きしますが、護衛はいないのですか?」


「いますが、捜しているうちに連れ去られてしまい……」


「え? はっ? 護衛を捜す? 護衛を捜す意味が分からないのですが……。近くにいない護衛は護衛ではないのでは? それとも凄腕の魔術師で常に遠隔魔術が使えるんですか?」


「全て違います」


 公爵令嬢が何かを言う前に、ダリアさんがバッサリとぶった切った。


「確かに、身分を偽るために遠巻きに護衛をするようにお願いしましたが、いなくなれとは言っていません! それにお嬢様の護衛に魔術師はついていません!」


 あぁ……、サボタージュね。


 しかも、それが許される扱いを日々受けているということか。


 うーん……。このまま放置は気持ち悪いし、もう少し突っ込んで聞いてみるか。後頭部に貼り付いている子も期待しているようだしね。


「つかぬことをお聞きしますが、『紫』が好きなんですか?」


「それは……」


 ダリアさんが初めて言葉に詰まった。


「友達が欲しかったんです。わたしの周りには紫の体毛や瞳を持つ人がいません。だから、友達が欲しかったんです……」


 何故か目がウルウルしている。


「……あの、紫が何か? 獣人であれば喜ぶ方が多数では? ド……じゃなかった。【勇者ノヴァ】と同じなんですから」


「勇者は雷属性を持っていましたが、お嬢様は持っていません」


「は? ――失礼。一応被害者の身元を確認するために、馬車の中にいるときに《鑑定》を使わせてもらったのですが、お嬢様は風と火を持っていますよね? 十分ではないですか?」


「え? 《鑑定》……。え? 年齢は?」


 お嬢様がプチパニックだ。


「年齢は三人とも同じく九歳の年ですね。二人はまだ八歳ですけど」


「……もう《鑑定》?」


 お嬢様はどうしたんだ?


『十歳になってないのに、人物鑑定ができるレベルになっているから驚いているんだよ! いつものコントで誤魔化さないと!』


『なるほど!』


「《鑑定》は生まれつき持っていたスキルですし、孤児ですので毎日必死なんです」


「そ、そうなんですね……」


「それで十分とは?」


 ダリアさんは属性の方が気になるようだ。


「生まれつき雷属性を持っている可能性が高いのが、勇者のような紫色の体毛持ちですね。ですが、複合属性の雷属性は風と火があれば、訓練次第で誰でも使えますよ」


「そんなわけありません! 公爵家の騎士団にもいません!」


「御言葉ですが、事実です。信じなくても構いません。ただ、失礼を承知で言わせてもらえるなら、鍛練が足りないのでは? 公爵家の騎士団は最強ではありませんよ?」


 世界は広いのだ。自分の周囲の者ができないから、世界の人々が一人もできないという考えは間違っている。


「そ……それはそうですが……」


「アークさんはできるんですか?」


「私のことはアークとお呼びいただいて結構です。その身分がおありですので」


「では、友達として呼ばせてください! わたしのことはクロエと!」


 数秒前の自分を殴りたい。


「かしこまりました。それで複合属性についてですよね」


「はい」


 さて……どうしたものか。できないと言ったら机上の空論と言われ、できると言えば面倒事の予感がする。


「できますが、内緒にしていただけますか? 今日見たこと全て」


「もちろんです! いいですね、ダリア!」


「はい、お嬢様」


 契約もしていないが信じるしかないか。乗りかかった船だし、美少女だからしょうがない。


「まずは、火よ、《火弾》。風よ、《風弾》」


 遠くの地面に向かって初級魔術を放つ。両方の魔術を使えることを証明するためだ。


「すごい……。《詠唱破棄》に多重発動……」


 ダリアさん驚いているところ悪いが、勘違いはやめて欲しい。


「ちゃんと詠唱してましたよ」


「どこがですか?」


「火よって言いましたよね?」


「あれは詠唱に入りませんよ!」


「……なるほど。そっちの大陸ではそうなのか……。個人的な認識としては、術式名だけを言うのが《詠唱破棄》です。何も言葉を発さずに魔術を発動するのが《無詠唱》です。まぁ今は置いといて、この二属性を混ぜていくので、よく見ていて下さいね!」


 普段はやらないけど、両手の手のひらを上に向け、それぞれの属性を励起していく。ちょうど両手の真ん中に魔力を集めるようにイメージして、コネコネしていくと……。


 ――バチッ! と音が鳴り、属性が変化していく。


「そ……そんな……。本当に……」


「すごい……」


 最後は遠くに放てばおしまいだ。


「どうでしょう。嘘ではなかったでしょう? でも、属性だけじゃないでしょ? 獣人で二属性持ちは、雷属性を持たなくても十分優遇されるはずです。他に理由があるんじゃないですか? 良ければ教えてください。力になりますよ」


「アーク……」


 いきなり抱きつかれて泣かれてしまった。


『あーー! 泣かしたーー!』


『今まで静かに観覧してたのに……』


『や……柔らかい?』


『それどころじゃないわ!』


『人生を楽しもう! アークの訓練はちょっと異常だよ?!』


『ラビくんのお腹の柔らかさを楽しんでいるから大丈夫!』


『もぉーー! 仕方ないなぁーー!』


 グリグリと柔らかいお腹を押しつけてくれる優しいラビくんで現実逃避をしつつ、泣き止むのを待とうとしたら、ダリアさんがジェスチャーで背中をポンポンしろと指示してきた。


 おい! メイドが、それでいいのか!


 指示通り背中をポンポンして、先を促すために声をかける。


「クロエ様、大丈夫ですか?」


「クロエ」


「はい?」


「クロエがいい。敬語もいや……」


「……クロエ、大丈夫?」


『ついに……春が……』


『まだ冬だよ』


『やれやれ……』


 相当ため込んでいたんだな。人のことを言えない環境だったが、俺は望んでいた環境だったし、いろいろ優遇してもらっている。


「……紫色の体毛や瞳で、お母様が不貞したって。わたしは公爵家の令嬢じゃないって。お母様も責められて……」


 この子もか……。俺はガチ不貞だったけど、体毛だけで不貞って……。いろいろおかしくないか?


「父君は連合王国のオラージュ公爵ですよね? 母君は?」


「武煌大公国の王女だよ」


「それで風と火か……」


「知ってるの?」


「有名な王族だからね。貴族名鑑の一部に載ってたよ」


「え?」


 ヤバい! 貴族しか見ない本だった!


「商人になるには必要な知識だよ。それで、その家柄にその属性は普通だとして、色だけが問題だとしたら……」


『獣人版の上位血統だね! 獣人は血が薄くなりすぎて人族同様、上位血統はないって言われてるんだけど、たまに先祖返りに近いほど濃い特徴を持った子どもが生まれてくるんだ! この子は【紫兎】の家系だと思うよ。証拠の一つに、獣人の割りに基礎魔力が高いはず!』


『やっぱりか……。でもバレたら、引く手数多だろうな』


『結婚したいの?』


『違うから! まずは【霊王】様を捜さなきゃ!』


『そ……そうだね』


「何か分かった?」


 さっきからずっと抱きついたままだから、上目遣いになっているんだよな。ダリアさんがニヤニヤしてるし……。


「先祖返りだね。【四霊獣】の一角を担う【紫兎】様の先祖返りが最有力だね。母君は兎獣人なんだよね? それなら父君よりも母君の遺伝子の方が強かったってだけだし、そもそも親子関係は高レベルの《魔力視》持ちに確認してもらえばいいだけだよ」


「ど、どうやって?」


「両親の魔力の波長がクロエに受け継がれているなら、特徴や色がクロエに受け継がれているよ。嘘つかないように神殿契約か、最上位の契約の神前契約をさせればいいだけだしね。あと先祖返りのことは信頼できる人以外には言わない方がいいよ」


「ありがと!」


 ムギューー! と抱きつかれ、胸に顔をグリグリと押しつけてくる。


『どうかな? 今度は余裕があるんじゃない?』


『……柔らかいです』


『ぼくとどっちが!?』


『ラビくんに決まってるじゃん』


『うむ!』


 クロエが落ち着いたあと、歩きにくいという理由から御者台に乗ってもらい、馬車を走らせて日がある内に南門前に到着した。


 遠目に見ても分かるくらい輝く鎧を身につけた騎士が、辺りを見回しながら仁王立ちしていた。


「クロエ、俺はもう帰らないと」


「え? お礼は?」


「もうもらったからいらないよ」


『何をーー?』


『……何だろうね』


「それよりも護衛の相手が面倒くさそう――ほら、来た……」


「お嬢様ーー! ――ん? 何ヤツ!? 賊め! お嬢様から離れろ!」


 いきなり剣を抜きやがった……。そりゃあサボタージュしてたもんな。顔が真っ赤でフラフラじゃん。酔っ払いすぎ……。意地悪してやろ。


「《掘削》」


「うわっ!」


 小さな穴を作って転ばせた。が、フラフラ状態で剣を抜いたせいで剣で額を切り、横一文字の傷ができていた。


『名誉の負傷! って、帰国したら言うんだろうな……。強敵だったって!』


『そりゃあ世界最強の相手だろうよ。……地面って言う名の!』


『プッ! やめてよ……。苦しい……!』


「貴様、公爵家の騎士に攻撃したな?!」


「どこの公爵家ですか? この国の公爵家でないのなら、たかが騎士ごときに外交特権があると思うなよ? あんたは酒を飲み過ぎているのに、金属鎧を着て剣を抜き、重さに堪えられずに勝手に転んで剣に頭突きしたの。相手は世界最強の地面だよ」


『こ……殺す気……? クロエちゃんたちを見て! 笑いを堪えて腹筋が崩壊する直前なんだよ! ぼくみたいに体を揺らさないことを褒めたい!』


『貴族だからね。訓練しているんだよ』


「酒? 酒など飲んでいない?」


「あっそ。でも言語スキルは持ってないでしょ? 命令が分からないんだから」


「はぁぁぁ? 命令ーー!?」


「ご・え・い! あなたはー、御令嬢のー、護衛をするんだよーー! どうしてー、近くにいないのーー?」


 バカにする意味もあるが、言葉が通じない酔っ払いに分かるように、ゆっくり丁寧に話してあげる。


『何……その話し方?』


『幼児に話し掛ける方法』


『……おじさんだよ?』


『言葉が幼児並みだからいいんだよ』


「はぁ? お嬢様がはぐれたんだよ!」


「あはははーー! ウケルーー!」


「わふーー!」


『こら! わふーーじゃないでしょ!? キュイーー! って言わなきゃ!』


『そうだった……。狼なのに……』


 俺の笑い声に隠れて気づかれてないようだ。危ない危ない……。


「護衛が護衛対象からはぐれたとか言い訳する時点で、あなたは三流以下だ。俺が公爵なら首を切るけどね。もちろん物理的に! 離れないから護衛の意味があるのに……この時点であなたがここにいる意味はない。言っちゃ悪いけど……複合属性できなくても納得だわ……」


 ダリアさんとクロエが恥ずかしそうにしている。公爵家の騎士は、目の前にいる地面に敗北したおじさんが基準だからね。俺なら逃走したいレベルの恥ずかしさだ。


「ほら、賊を捕まえてきてやったから手柄を持っていきなよ。お酒飲むためにはお金が必要でしょ? あと、おじさん。クリームは女性が使うんだよ? どうしておじさんから臭うの?」


「な、な、何を言って……」


「アレを作ったことあるから、匂いですぐに分かるんだ。ねぇ、どこにつけたの?」


「何をつけたの?」


「おじさんがつけたのは――「お嬢様! 手続きもありますし、早く中に参りましょう!」」


 気になるクロエに教えてあげようとすると、騎士が話を遮って阻止する。


「え……? でもまだ……、また会える?」


「機会がございましたら」


「来年! 絶対に会いに来るから! お店で待ってて!」


「かしこまりました」


 門のところにいる従者と騎士に睨まれたから、満面の笑みを浮かべて手を振る。


 その後、急いでみんなの所に向かった。みんなは時間を考えて先に進んでいてくれたから、暗くなる前に洞窟に帰れた。


 ただ、みんなのところに戻ったあとに遅かった理由を話し、巨乳美少女に抱きつかれたことをラビくんが報告すると、第二次災害大戦が勃発する。


 でもラビくんにも言ったとおり、胸じゃないと説明するとすぐに終息した。そのあと気絶するまでずっと、どこだと聞かれ続けるのだった。


 もちろん、ラビくんをモチモチの刑に処するのは忘れていない。


「ウギャァァァァァーーーー!」



お読みいただき、ありがとうございます!

ブックマーク登録と評価もしていただき、本当に感謝しております。ありがとうございます!

これからも頑張りますので、引き続きお読みいただければ幸いです!

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