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第六十二話 名前からの神罰予告

 翌朝、今日は町に行く。


「ハイドラさんとメーテルさんは、お馬さんで移動してくださいね。森が拓けてしまうので。リムくんは普通の狼モードで。エントさんとスライムさんは人型かな? 馬車は二頭引きだからさ。三頭以上だと、いろいろマズいからね」


「イム、人間で行くの!」


「今日は名前を呼んでもらえそうだ」


 そうだったーー!


 町で種族名とか不自然極まりない。ついに、避けてきた現実を直視するときが来たということか……。

 おそらくはめたであろうモフモフは、今も俺の腕の中で爆睡中だ。


「では、全速力で森を出ましょう! いってきます!」


『いってらっしゃい』


「ナァーウ!」(いってらっしゃい!)


 白虎ママと白虎ちゃんに見送られながら出発し、全速力で森を駆けた。

 本当は生家がある村を経由した方が早いのだが、バレるわけにはいかないので、森を突っ切る方を選択する。結果、早朝から全速力で森を駆けるハメになった。


 一時間ちょっとして街道が見えた。


 もう少し早く辿り着けたが、帰りを考えて多少走りやすく整えていたせいで時間がかかったのだ。


「では馬車を出します。座席は前向きで四つありますから、エントさんとスライムさんが前に乗って、後ろに俺と精霊様が乗ります。リムくんは真ん中の通路で。狼に襲われてるって間違われても嫌だしね。ラビくんはまだ寝てるから、俺の膝の上で!」


「「……」」


「ん? どうしたの?」


「名前」


 もうか……。心の準備はくれないのか……。それとも時間をもらいすぎたのかな?


「レニーさんとイムさんは前ね!」


「うむ」


「うん!」


「じゃあハ……アイラさんとメルさんも、お馬さん役をお願いね!」


「「ヒヒーーン!」」


 ステータスの従魔欄を見るのが怖い……。呼べと言っておいて契約していないなんてことはないだろうから、絶対に契約済みなんだろう。


 まぁ可愛いと思えるまで愛着が湧いたから、今さら手放すつもりもないけどね。


「それじゃあ出発進行ーー!」


 早朝だから街道には人がいない。俺たちの馬車の車輪の音だけが響いていた。それも爆走と言ってもいいくらいの速度で。


「そろそろ着くみたいだから、速度を落とそう!」


 エントさん改めレニーさんに指示して、レニーさんが口頭で「遅く!」と言っていた。なんと簡単な操作なのだろう。普通の馬車では考えられない。


 速度が緩まったら、荷台に売却予定の薬が入った木箱を積んでいく。今回は『オークリーム』と『オーク丸』だけの販売で、他は侵入者たちの不要品だ。不要品は高位精霊様の伝手で売却する。


 町に来たのもその人物に会うためらしい。


「大精霊にしか真名はないから、オレや綿花にはない。だからここでは『コウ』って読んでくれ。知らないうちに契約とかにはならないから安心しろ」


「それはぼくのことを言ってるのかな?」


「起きたの?」


「もうすぐ着く頃かなって思って! 心構えをしておかないと話してしまいそうだからさ!」


「それもそうだね」


 というか、ラビくんもはめた自覚はあったんだね。つまりは、わざとということか……。


「違うんだよ! 一緒に暮らすのに仲間はずれはダメだと思ったの! でもアークは森に帰るように言ってたから……。ごめんね……」


「怒ってないよ。ラビくんはみんなのお兄ちゃんなんだね」


「うん! ぶーちゃんみたいに、種族が違っても家族のようになりたいの!」


「そうだよね! 親分はみんなの父親だもんね!」


「ぼくにとっては親友なの!」


「羨ましい……」


 親分談義に花を咲かせている今は、開門後の審査待ちだったりする。街道には人がいなかったが、街門の前にはすでに行列ができており、俺たちはドロンの干し果実を食べたり魔力水を飲んだりして待っていた。


 もちろん、馬役の二体も飲食している。


「次!」


「お願いします」


「許可証を持っているのは一人だけか……。何しに参った?」


「物資の購入と薬師様の薬を売りに来ました」


「職業訓練か?」


「そうです」


「それと、従魔は二体か。狼と兎が一体ずつだな。これが仮の従魔登録証だ。首から提げておき、帰りに返却していくように。入門料は一人銀貨二枚(二千フリム)だが、十歳未満は不要だ」


 今回はレニーさんとイムさんの二人分を支払うから、銀貨四枚(四千フリム)を財布から出して払った。財布といってもみすぼらしく見えるように、ただの麻袋だ。


「問題を起こさないように」


「ありがとうございます」


 何の問題もなく門を入ると、高位精霊様のコウさんの指示に従って道を進んでいく。


「ぼくは兎じゃない……! 狼だよ!」


 違った……。問題はあった。


「あそこで狼ですって言ってたら、ラビくんだけ連れて行かれてたよ。この町だけは兎で通させて。俺が身分証を取るまでだからさ! ね?」


「うーん……。離れるのは嫌だから……我慢する!」


「ありがとう!」


 良い子良い子とモフる。手が幸せだ。


「あそこの緑色の屋根の建物がある敷地に入ってくれ!」


「うむ」


 俺がラビくんをモフってる間にコウさんの目的の場所に着いたようで、ロータリーがある大きめの邸に馬車が入っていく。

 玄関前に横付けすると扉が開き、少々ご立腹な様子で誰何する。


「どちら様でしょう? アポはおありですか?」


「アポなしで来たのはお前たちの方だろ? 主人を呼んで来い。来ないなら後悔するのはお前たちだと伝えろ!」


「なんと無礼な……。主人を呼ぶまでもない! お引き取りを!」


「いいんだな? 吐いた唾は飲めねぇぞ?」


 こちらは少々どころか、大変ご立腹な様子だ。


「何事だ! いったい誰が来たんだ!? 報告しないか!」


「オレだよオレ!」


 肉料理さん?


「――何故……ここに……?」


「何でだろうな? でも、もう会うことはないみたいだぞ? 主人に会わせるまでもなく帰れってよ! みんなで()に帰るわ!」


「おい! お前……、何故そのようなことを! 謝れ! 地に額をこすりつけてでもお許しの言葉をもらえ!」


「いい、いい! 帰るから! 唾は飲み込まないんだもんな?」


「家に帰るだけでビビりすぎだろ……」


『あー、あー! 聞こえますか? こちらラビくん! 今は念話のテスト中です!』


「聞こえるよ」


『ノンノン! 心で話したい相手を思い浮かべ、矢印を向けるようにイメージして話し掛ければ、相手次第で念話ができます! 内緒話にはピッタリです!』


『こうかな?』


『バッチグー!』


 こっそりサムズアップするラビくん。


 なるほど。これがあれば黙っていても大丈夫だ。だから黙っているって立案したのか……。納得。


『それでビビっている理由は、多分だけど、精霊の撤退をほのめかしているんだと思うよ。魔境から完全にいなくなると、精霊が浄化している瘴気が溢れて、魔素溜まりができやすいんだ。結果、スタンピードの発生や災害級の魔獣の誕生に繋がるんだよ』


『最強の手札じゃん』


『うん。多分精霊が先に棲んでて、間借りする代わりに不可侵の契約を結んでいたはず。実際に伯爵は禁止していたんでしょ? 町の有力者は知っているはずだから、このおっちゃんもその一人だと思うよ!』


「お待ちを! 訪問の理由だけでもお教えくださいませんか?」


「ふむ……。アポなし訪問のお礼参りだよ」


「……それは森にってことですか?」


「他にあるか?」


 可哀想に……。顔面が真っ白になってしまったじゃないか……。それもこれもクソババアのせいで。


「――被害は……」


「幻獣のヌシの息子と、幻獣の子どもが数体だ」


「そ、そんな……。すぐに捜索します!」


「必要ない。始末をつけてくれた者がいるからな。それで、この服や装備をいくらで買う?」


「ま……まさか……」


 おっちゃんが俺を見る。正解だけど、化け物を見るような視線を向けるでない。魔力の偽装を解いちゃうぞ。


「お金を用意しますので、中に入っていただけませんか?」


「使用人に襲われるかもしれないだろ? 目障りらしいからさ」


「……さようですか」


 おっちゃんは暴言を吐いた使用人の首根っこを掴んで、お金を取りに邸に入っていった。


「今回は許すんですか?」


「いや? 今回のことは上司である大精霊様の耳に入っているから、オレがわざわざ何かしなくても近いうちに裁きが下るだろう。【商神】だから契約には厳しい上、契約相手は高位精霊であるオレたちだ。ただ、裁きが下るまで静かに暮らしたいから警告しに来たってわけだ」


 商売の神様に目をつけられたら、商人としては詰むな。確か、伯爵家で読んだ本によると、神罰は神様ごとに違っているらしく、【商神】である森の大精霊様の罰は有名だ。


 体に荊が絡みついたみたいなあざができたり、樹木のような肌になるらしい。一目で契約破りと分かるようにと、森の大精霊様が考えられたそうだ。


「しかも服や装備は売ったが、身分証は売ってないから証拠は残ったまま。さらに服や装備だけだと、生死が分からないだろ? 商人は基本的に慎重だから、情報の裏付けを行うんだ。つまり、時間稼ぎになる」


 なるほど。時間稼ぎはありがたい。奴隷受け入れ態勢が整っていないからだ。


「お……お待たせいたしました!」


「そんじゃもらっていくぞ。次はないからな? まぁお互い(・・・)次がない者同士、仲良くやろうぜ!」


「……? は、はい。まだ仲良くしていただけるのであれば、望外の幸せでございます!」


「じゃあ、また来るわ! 他の顔も覚えておいてくれ。オレの関係者だからさ」


「もちろんでございます!」


「それじゃあ撤収!」


「誠に申し訳ありませんでしたーー!」


 発進する馬車を見送るおっちゃんは、深々と頭を下げていた。


 それと、代金は袋いっぱいの金貨だった。


 今までは全て銀貨だったが、今回は一枚で十万フリムという金貨である。それが袋いっぱいに詰められている。


 金貨を見たラビくんの目の色が変わった。


 きっと、お酒を俺に強請ることなく、山ほど買えると思っているんだろうな。


「ほれ。アークのお金だぞ」


 俺に手渡されようとする袋を、ラビくんがインターセプト。


 真ん中にいたことも幸いして、俺よりも先に袋を受け取ることに成功した。そして大事そうに抱えたラビくんは、必殺技の上目遣いを発動する。それもリムくんと一緒に。


「……預けておこうかな」


「うん!」「ガル!」


「狼兄弟強し……だな」


 俺たちのやり取りを見たコウさんが若干呆れていたが、モフモフの上目遣いは必殺技の一つだから回避できないのだ。


 いい加減、ステータスに耐性スキルを表示して欲しい。《精神異常無効》で効果がないなら、《精神攻撃耐性》が必要だろう。


 ……うん。精進しよう。


「おい。ついたぞ。【総合職業組合】だ」



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