第六十一話 帰還からの来客予告
親分と深層に行った日の翌日に、馬車は無事に完成した。
馬車は少し変わった形の幌馬車に姿を変えた。軽トラみたいな形をしていて、四人乗れるトラックの座席の背面から荷台に行けるようになっている。幌は、比較的軽く伸縮性がある蛙の皮革を使用している。
ちなみに、この蛙はメーテルさんの子どもとは別の蛙だ。蛙プラント内はおびただしい数の卵で溢れているが、まだ一つも孵っていないから、メーテルさんも能力獲得の旅に行けたのだ。
そして彼女たちは協力者を得たことにより、無事に《変身》持ちのスライムを捕獲して戻ってきた。しかも優しいペットたちは、リムくんとエントさんの分も捕獲していたのだ。
ペットたちの行動を見て、抜け駆けをしようとしていたリムくんは大いに反省し、一体ずつ丁寧に謝っていた。……ラビくんやエントさんも少しは見習うべきだ。
リムくんの謝罪行脚が終了した頃を見計らい、四体分の《吸収》と《変身》を切り取り、それぞれに移した。
しかし人間は農奴にしたエルフが二人しかいないから、残された同行方法は馬になるしかない。
何故なら、人間の姿で冒険者として活動する予定の彼女たちは、従魔として魔力紋を登録されては後々面倒になるからだ。
農耕馬を従魔登録したら「従魔登録しないと馬も操れないのか」と、ボロクソに言われるから選択肢は農耕馬だけだ。
これが軍馬だと話は変わってしまうから、気をつけて狩りをしてくるように伝えた。経験者のスライムさんを連れて、再び狩りに出掛けて行くペットたちを見送った。
見送った後は親分とオークちゃん用の魔水晶製のタンクなどを作ったり、採掘した鉱石や金属の精錬をしようと思っていた。が、メーテルさんたちを手伝ってくれた方たちを迎える準備をすることに。
手伝ってくれたときにアポを取って欲しいとお願いされたらしく、成果を携えて急いで帰ってきたと言っていた。
「今日はカメレオンで唐揚げでしょ? 白虎ママと白虎ちゃんが来るんだから、お肉がいいと思うよ!」
「……君たちが唐揚げばかり食べるから、パクってきた小麦粉が完全になくなってしまいました。だから無理です! ……野菜スープかな」
「そんなぁぁぁーー! 狼は肉を食べないと死んじゃうんだよ!? いいの!?」
「ラビくんたちは魔力だけで生きていけるじゃん……」
「……狼の心が死ぬの!」
「じゃあ肉入り野菜炒め」
「……野菜から離れよう? 筋肉つかないよ? ぶーちゃんみたいに大きくなれないよ? いいのかな?」
親分を出されては言い返す言葉が見つからない。なんてったって、俺の目標は親分だからね!
「初めて来るから鳥さんのステーキにしよう! もちろん、ホルモンの串焼きも作るから鳥三昧だね!」
「……迷宮岩塩だけ?」
「……ハーブ塩ならぬ薬草塩もあるよ」
「塩味だけ?」
「よし! なんちゃって醤油を使ったニンニク醤油味もつけよう!」
「いいでしょう!」
毎朝の日課であるダブルパンチは、ハイドラさんたちが棲み着いたおかげで半分以下の量になった。でも、ここ数日不在だったせいで元の数くらいに戻ったのだが、今日は尖塔も兼ねている【始原竜】の石像の角に鳥さんが刺さっていた。
日課の途中で気づいて、あまり登りたくない石像によじ登り、苦労して角から外した鳥さんだ。きっと美味しいだろう。
それからなんちゃって醤油とは、世界の植物図鑑に載っていた『セウの実』という、ほおずきに似た木の実を搾ってこした汁のことだ。
ほんのり醤油みたいな香りと味がする。
最初は薄すぎて捨てようかと思ったが、神器を使って旨みだけでも抽出しようと思って使ったところ、なんちゃってというほどには品質が向上した。
元々前世の料理を再現したかったという理由で、全種類の植物図鑑を購入したのだ。少しでも成果が出たなら、無駄ではなかったと安心できる。
さすがにあの金額は後ろめたくあり、無駄ではなかったかと考えない日はない。
前世は料理はしなかったけど、レシピを見ることが趣味みたいなものだったから、レシピを全く知らないこちらの料理よりも作れる可能性はある。
こちらの料理で知っているレシピは、ドロンの干し果実くらいだろう。あれを料理と言っていいかはわからないけど。
ラビくんも納得するニンニク醤油は、魔境でこそ手に入りやすいニンニクを使い、初めて作った調味料だ。呑兵衛はお酒に合うニンニク醤油の虜になり、それを使った唐揚げの虜にもなってしまった。
さらにニンニク醤油に合うお酒を欲しがるようになり、町に捜しに行こうなどと言い始めたのだ。
まぁ気持ちは分かる。
個人的には甘いお酒よりもビールとかの方が合うと思う。前世では飲めなかったから断言できないけど、料理を作っている感じではそう思う。
そして呑兵衛たちの念願が叶う日が明日に迫っているのだが、呑兵衛たちは相変わらず宴会をやる気満々だ。
寝坊助のラビくんは「起きれなくても馬車に乗せて行ってね!」と、寝坊前提で行動していた。……森を抜けるまでは歩きなんだけどね。
「ラビくん、エルフはどうするって?」
「別だって!」
「粘るねぇ」
農奴たちは未だ馴染めずにいる。同じものを食べてはいるが、魔物やハーフエルフとは一緒に食べたくないそうだ。
まぁ親分が来たときに失礼を働くよりはいいかと思って放置している。
「シュルルーー!」「ゲコーー!」
「ただいま!」
「おかえりーー!」「ガウーー!」
「おかえり」
「おかえりなさい」
なんだかんだ言って、ペットたちが可愛く見えるようになった。余所のハイドラや蛙は無理だけどね。
「お客さん、連れてきた!」
『久しいな』
「ナァーウ!」(久しぶり!)
「久しぶりーー!」「ガウーー!」
「お久しぶりです!」
駆けてくる白虎ちゃんを抱きしめて再会を祝う。ラビくんやリムくんはスリスリしたり、クンカクンカしていたりと体調の変化とかも確認し合っていた。
「それでそちらの方は?」
白虎ママの後ろにいる深緑色の角が二本生えた、二足歩行の黄緑色のゴリラさんが気になり、紹介される前に聞いてしまった。
世界の生物図鑑『獣&鳥型』に載っていた、『カイザーコング』という魔獣に似ていなくもない。
『こちらは精霊領域のヌシである【樹の高位精霊】だ。領域を守ってくれたお礼をしたいそうだ』
「これはこれは……。でもあれは親分との約束を守っただけですから、わざわざお礼に来られるようなことではないかと……」
「いや。オレの怠慢が招いた事件を代わりに解決してくれたんだ。是非、お礼を言わせて欲しい。ありがとう!」
「いえ、十分です!」
「……【大老】に怒られた?」
「――お見通しですか……」
「ん? ラビくんに敬語?」
「――ほ、ほら! ぼくは精霊とお話できるから、報告されると思ったんだよね!? ねっ!」
「そ……そうだ……」
「ふーん……。ラビくんが有名な理由を知っているかと思ったんだけどな……」
「お……同じ森に棲んでるからだよ!」
それもそうか。幻獣だけでも珍しいのに、二足歩行で話せるなら噂にもなるか。
『それから謝らなければいけないことがある。実は……お酒の材料に特殊な薬草を使っていることを息子から聞いてしまった』
「あぁ。ドロン酒のことですか。許可なく造ったり販売しなければ大丈夫だと思いますよ。アルテア様の管轄だから、権利を侵害したら罰が下りそうだから気をつけてください」
『すまない。忠告ありがとう。気をつけよう』
「ナァーウ……」(ごめーん……)
「いいんだよ。美味しいもの食べて元気を出そうね!」
「ナウ!」(うん!)
『待て。謝っているのに元気づけてもらってどうする……。あと贈り物をするんだろう?』
「ナァーウ!」(そうだった!)
「何かくれるの?」
「ナァーウ!」(これー!)
フワフワと浮かぶ物体を、おでこで押しながら運ぶ姿が可愛い。これが贈り物と言われても許しちゃうほど可愛い。
「ん? こ、これは――! 陽光樹の若木!」
「「来たぁぁぁぁぁーー!」」
今まで沈黙していたタマさんも絶叫するほど待ち望んでいた、陽光樹の若木。
タマさんが沈黙していた理由の一つが解決してしまった。あと一つは陰陽草の栽培法だが、これは怖い取引相手に会いたくないという理由から捗っていないらしい。
「オレからは陰陽草の栽培法だ!」
「「またまた来たぁぁぁぁぁーー!」」
これで問題が全て解決だ。農奴を酷使して栽培し、ドロン酒を量産することだろう。
ちなみに、白虎さんや高位精霊様にはタマさんが見えないから、ラビくんが絶叫しているように見えている。だからか、二体の目が狂喜乱舞しているラビくんに集中している。
ラビくんは恥ずかしくないのかな?
「う、うん! それでは御祝いに酒宴を開きましょう! こちらです!」
やっぱり恥ずかしかったらしく、無理矢理誤魔化して食堂に案内した。
「ほう……。これがドロンで造ったお酒か……。楽しみだな!」
グラスはお客様用のシンプルなデザインだ。
「ナァーウ!」(ぼくも飲む!)
「舐めるだけなら大丈夫だと思うよ! たぶん!」
ラビくんが無責任なことを言っているけど、白虎ママが止めていた。
「うまぁぁぁーーい!」
高位精霊様の口にも合ったようで何より。
『この串焼きも美味いな』
「よかったです。それと……精霊様の髪の中にいる方は食べないのですか?」
ずっと気になってたけど、一人だけ食べないのは可哀想だと思って声をかけた。
「なっ! 分かるのか!?」
「はい。今はそういう訓練中でして……」
魔力を偽装して《魔力探知》を使用するというものだ。タマさんに言われて《偽装》の有用性に気づいたのだが、訓練しなければ上手く機能しないため、常時発動状態にして訓練中なのだ。
「……そうか。それは失礼した。オレの補佐をしてくれている【綿花の高位精霊】だ。姿を悪く言われたせいで人見知りになってしまってな……」
「そうですか。無理にとは言いませんので、良かったら食べてください」
「アリガト」
「どういたしまして」
初期のスライムさんを思い起こす話し方だ。声も可愛かった。
「ありがとな」
「いえ、当然のことです」
「……それで、明日は町に行くって?」
「えぇ。創作物や不要品を売却して、生活必需品や食料を購入して来るついでに、奴隷商人についての情報を得ようかと」
「なるほど。それならオレも行こう!」
「――え? どうやって?」
「ん? 一緒にだが?」
いや……。そういう意味ではない。
「もぉーー! お馬鹿さんだなーー! その姿だよーー!」
すでに出来上がっているラビくんがストレートな言葉をぶつける。
「なるほどな! 大丈夫だ! オレは人型になれる! 角ありだから、ドヴェルグの上位血統に見えるんじゃないか?」
ドヴェルグっていうと……戦士型のドワーフのことで、ドワーフと違って長身になるんだっけ。
珍しいけど、ドヴェルグは武者修行で世界を旅する者も多いらしいから、魔境がある辺境伯領にいてもおかしくないだろう。
「それなら大丈夫そうですね」
「ナァーウ!」(いいなぁ!)
『無理を言うでない。また捕まって怖い思いをしてもいいのか?』
「ナゥ!」(いや!)
『なら我慢することだ。ここにはまた連れてきてあげるから』
「ナゥ?」(ホント?)
『本当だ』
「ナァーウ!」(やったー!)
可愛い。
「いつでも来て下さい。ただ、オークの女王様と【武帝獣】だっけ? 熊さんが来るので、もめるのはやめてくださいね。お願いします」
『気をつけよう』
「……もめたくないのはオレの方だ。次は死ぬんだからな……」
「ぶーちゃんにも怒られたの? ……珍しいな。あっ! この間の殺気のとき?」
「……そうだ」
「うん! 気をつけた方がいいよ! あの【霊王】にも勝ったと聞いたからね!」
「親分……すごい! ――ん? 親分に聞けば【霊王】様の姿が分かるのか?」
「ど……どうかな!? 傷ついた【霊王】は昔と姿が違う可能性が高いから、ぶーちゃんには分からないと思うな!」
「そうか……。残念だ……」
どうやって捜すべきか……。
まぁ今は宴を楽しもう!
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