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第五十五話 白虎からの獣神降臨

 突然の襲撃者の正体は、大型の白虎だった。


「もしかして……白虎ママ……?」


「グルルルァァァァァーーー!」


 返事ととっていいのかな?


「ナァーーウ!」


「グルル……グルガァァァ!」


 こういうときのための通訳士ではないかな? 何してるのかな?


「ワニジャーキー美味いね! お酒が欲しくなるーー!」


「ガウーー!」


 おやつ食べてる……。


 一撃で大木をなぎ倒した猛獣がいるのに……のんきにおやつ食べてるとか……。大物従魔は違うな……。


「グルガァァァーー!」


「おっと! 現実逃避してる場合じゃなかった!」


 絶え間なく続く攻撃を反撃せず避け続ける。俺には敵対する意志などないからだ。だから少しだけ話を聞いて欲しい。


「お子さんはこの通り無事です! すぐにママさんに返したいと思ってます! しかし、攻撃されては返せません!」


 白虎ちゃんを掲げながら主張してみた。


『我が子を盾にするとは……いい度胸だな!?』


 ……逆効果だった。


 しかも念話できるのか。それなら話ぐらい聞いてくれや。


「白虎ちゃん! ママを説得してくれ! ラビくんが食べてるものと同じものをあげるから!」


「ナウ?」


「本当だよ!」


「ナァーウ! ナウ! ナウナウ!」


「グル……?」


 止まった! チャンス到来!


「ほら! ママのところにお行き!」


「ナァーウ! ナウナウナウーー!」


 白虎ママの体を前足でポムポムしながら説得しているおかげで、白虎ママが落ち着き始める。俺はすぐに、のんきにおやつを貪っている通訳士を確保しに行き、白虎ママへの通訳を頼んだ。


 念話ができるといっても、実際に使って話してくれるとは限らないのだ。


 何故知っているかというと、親分がそうだからだ。親分も念話ができるらしいが認められていないのか、一度も使われたことはない。それゆえ、親分の言葉は《心話》スキルと《念話》スキルによる傍受で、単語くらいしか分からない。


 オークちゃんは使ってくれるから分かりやすい。基本的に優しい師匠なのだ。


 では、目の前の白虎ママはどうかというと、きっと親分タイプだろう。似たような空気感があるし、何より出会いが最悪すぎた。


「ぼくの名前は『ラビ』です。幻獣ですから仲間ですね!」


「ガル!?」


「幻獣です! お話ができる幻獣なのです!」


 幻獣かどうかは今は良くないか? 早く誤解を解いてくれよ……。


「ガル……」


「よろしい! さて、ぼくたちはエントのレニーさんを通して、幻獣が危機に遭っていると聞いて救助に来たのです! 悪い奴らは馬車の中にいます! 報復は必ずやりますが、ここではできない上に用事もあるので移動しなければいけません! 早速移動しようと、白虎ちゃんがお礼を言いにアークに抱っこされているところにママさんが来たのです! 彼は【武帝獣】の子分で、ぼくの従魔契約者です! 悪い人間ではないので襲わないで欲しいのです!」


『【武帝獣】が人間を!?』


 話の流れから察するに親分のことだよな? あれが種族につく二つ名か? カッコいい!


「そうです! この領域に侵入してまで助けに来たのは、彼との約束があったからだそうです!」


『それにシ……ラビ殿の契約者……。では、先ほどの魔力は……!?』


「アークだよ! アークはモフモフが大好きだからね! モフモフを捕まえるヤツらを許せなかったそうです!」


『モフモフとは?』


「毛皮のことです! さらに言うと毛皮持った獣のことです!」


『【武帝獣】も……?』


「まぁそうだけど、念願は叶ってないみたいだよ」


『……そうか。あの魔力はあの人間が……』


「魔力がどうしたの?」


『アレのおかげで薬から目が覚めた。魔力の発生源を辿ったおかげで息子に会えた。……危うく殺してしまうところだったか。すまないことをした。そして、息子や領域の幻獣を助けに来てくれてありがとう』


 まさかのオークちゃんタイプ……。母親だからかな?


「いいんですよ。子どもを連れ去られれば誰でも敵に見えますもんね。俺もラビくんたちが連れ去られたら、疑わしいだけで殺すかもしれませんから。それより薬を使われたなら万能薬を使いますか? たくさんあるので、他に被害を受けたモフモフがいれば使ってください」


 正直怖かったけど、親分の威圧を受けたことがあるから正気でいられた。それにワニさん効果もあって回避できたから怪我もない。おそらく薬のせいで鈍かったのだろうが、運も実力のうちと言うから良しとしよう。


 本音を言うならモフモフに嫌われたくない。


 よって、ネチネチ言わない。その分、味わった恐怖は囚人共にぶちまけさせてもらう。


『すまない。助かる』


「エントさん、ちょっと行ってくるから馬車を逆向きにしておいて」


「任された」


「ありがとう!」


 なんせ俺は馬車を動かせないからね。


『こっちだ』


「ナァーウ!」


「あぁ、おやつか。はい、どうぞ。ワニジャーキーだよ! ママさんもどうです? 薬を飲んだ後の口直しに!」


『頂こう!』


「ナァーウ!」(うまぁ!)


 おっ! 傍受できるようになったぞ。親密度が上がったってことか。めちゃくちゃ嬉しい。頑張ってワニを倒したかいがあるってもんだ!


 帰ったら迷宮産岩塩でワニジャーキーを量産せねば……。そしてモフモフに食べてもらって仲良くなろう。


「ぼくにも追加を求む!」「ガウーー!」


「通訳お疲れ様でした。二人ともお納めください!」


「うむ。苦しゅうない!」「ガウ!」


『ここだ』


「では、少々お待ちを。白虎ママもそちらへ集まってください。回復魔術を使用しますので」


『……まとめてか?』


「はい。すでに二回ほどやりましたので大丈夫ですよ」


 処刑用とは別の清潔なバケツに万能薬を入れ、特濃魔力水を少し入れる。


「《操水》」


 初めて《詠唱破棄》を使ってみたが、思いの外スムーズに使えた。魔術の強度や操作性には変化はないが、発動速度が段違いだ。


「水よ、癒やしと安らぎを与え、生命を回復せよ《水龍の祝福》」


 さすがに規模がデカい魔術になると出力の操作や安定化が必要で、詠唱した方が魔術を発動しやすい。でも、毎回回復魔術の度に水龍を出してたら面倒事になりそうだから、別の回復魔術を創ろうかな。


『これは……。すごいな』


「首輪がある子はいないね。よかった」


「ガァーーウ!」「ピュオ!」「ブモ!」


「みんなお礼を言っています!」


「どういたしまして! 可愛いなぁ!」


 さて、この子らの親が来て悪夢を見る前に退散しよう。エントさんも待っているだろうしね。


「ではこの辺で!」


「ナァーウ!」(また遊ぼうね!)


「今度はドロンがあるときにね!」


「まったねーー!」「ガウーー!」


『必ず会いに行く!』


 帰りはリムくんに乗せてもらいました。御褒美というか、ドロンの採取をしたいそうだ。諦めてなかったのか……。


「エントさん、お待たせーー!」


「早かったな。それでどういうルートで帰る?」


「確か馬車が通れる領域って、北回りだけだったよね?」


 俺が初めて洞窟に行ったときの道だ。森の小道と呼んでいた場所は東側だけど、今いる場所からは北から回り込むしかないし、他は馬車が通れるような場所ではない。


「ではドロンと薬草の群生地を通りつつ、北から東へ抜ける道を辿るということでいいか?」


「お願いします!」


「うむ」


 ◇


 道すがら白虎ママや侵入者たちが切り倒した木々を回収しては、森魔術で保護をしていく。エントさんに頼まれたということもあるが、車輪の跡がついていたりすると侵入者の道標になりそうだったからだ。


「うわぁぁぁーー! ドロンだぁぁぁ!」


 ようやく群生地に辿り着いたとき、ラビくんは壊れたようにはしゃいだ。ドロン酒は熟成とかないから、材料があればすぐに飲める。


 そう、材料があれば。


 目の前に山のように材料がある今、ドロン酒依存症患者たちが正気を保っていられるはずないのだ。


「今はまだ無理だよ。ナイフにスキルが入っているから封印状態になっているからね。それに魔水晶タンクを作ってないからね」


「じゃあ早く帰らないとね!」


「ガウガウ!」


「それなら、ラビくんは数株の陰陽草をプランターに詰めていってくれない? 最後に魔力水をあげれば収納できるからさ」


「はーい! 陽光樹は?」


 陽光樹はドロンと違って挿し木じゃ増えなかったんだよな。だからといって栽培法は知らない。希少素材の育成法は一般公開されないからだ。


 伯爵家の書斎にもなかったから、公爵家以上でないと持ってないと思われる。


「あれは若木を探している最中だから葉っぱだけでいいかな。葉っぱは馬車に積めるだけね。取りすぎないようにね!」


「はーい! 任せて! リムくんは警戒よろしくね!」


「ガウ!」


「吾輩は?」


「葉っぱの採取をお願いしようかな!」


「了解だ、ラビ殿」


 俺は熟したドロンの果実を手早く採取していく。終わり次第、陰陽草の採取に移らなければいけないからだ。


 果たしてこのうち何割がお酒になるのだろうか。ドロンの干し果実、特に半生に挑戦したいから全部はやめて欲しい。多数決で決めるのもやめて欲しい。絶対に勝てないから。


「よし! いいでしょう! 帰りましょう!」


「もうちょっと……!」


「また来よう! ね!」


「くぅ……!」


「ほら、早く帰ってお酒を造らないと!」


「そ、そうだね!」


 ラビくんを納得させ、馬車の横について帰途につく。痕跡を消すのは忘れずやっている。というか、そのために歩いているのだから忘れるはずもない。


「帰ったら忙しくなりそうだなぁ……」



 ◇◇◇



「誰だぁぁぁーー! オレの領域に侵入した不届き者はっ! 好き勝手やりやがって! あの魔力の持ち主か!?」


 チビ共の言うとおりだったってわけか!?


『私が言えたことではないが、勘違いはやめてもらおう! 彼らは【武帝獣】との盟約によって救助に来てくれたのだ! むしろ、責められるべきは精霊であろう!』


「白虎が何の用だ!?」


『この森のヌシを自称しておきながら、問題を放置そてきたから嫌みの一つでも言おうと思ってな。此度の侵入者に一番被害を受けたのは我ら幻獣だが、ここまで案内してきたのは精霊である。よもや、我ら幻獣と戦争をしたいわけではあるまいな!?』


「……精霊だと!?」


『あぁ。エルフにくっついて姿まで消してな。おかげで我が子は首輪までつけられた! あの人間が来なかったら助かっていなかった! この落とし前、どうつけるつもりだ!?』


「……高位精霊のオレとやるつもりか?」


『それも良いだろう!』


 マジか……。霊獣ならともかく幻獣の白虎になら負けないつもりだが、それでもやるっていうってことは白虎が言ってることは本気か。


『それなら俺も白虎につこうではないか』


「【武帝獣】……っ!」


 いきなり空から声が聞こえてきたと思ったら、次の瞬間には目の前にいるとか……。マジでバケモンだわ。


『俺との約束を守った子分が、約束を守ったせいで言われなき罪を負いかけている。ここで子分を守らなければ俺の名が泣くわ! 決死の覚悟でかってこい! 全身全霊をもって打ち砕いてくれる!』


 この殺気だけで下位精霊が消えるぞ……?


「……誤解だ。情報が足りなかったとはいえ、試すような発言をしたのは悪かった。一部の中位精霊が騒いでいたから、精霊を害するものだと勘違いした。幻獣に対しては、こちらの過失だ。領域深くまで入ってくれていい。こちらで守ることを約束し、該当する精霊を処罰することを約束する。本当に申し訳なかった」


『白虎、どうだ?』


『結構です』


『そうか。それなら今回は大人しく引こうではないか。次はない。肝に銘じよ』


 ……死ぬかと思った。


 そもそも、高位精霊を殺せる魔獣ってなんだよ。反則だろ……。次はないって言ってたけど……どうすれば? 会いに行く? 会いに行って味方になれば次はないよな?


「なぁ、その人間にお礼をしたいんだが、人間のところに連れてってくれ」


『残念ながら私も知らない。だが、匂いを覚えているから捜すことはできる。時間がかかってもいいなら引き受けよう』


「頼む!」


 一人で会いに行ったときに【武帝獣】がいたら死ぬからな。ここは知り合いに紹介してもらうに限る。


 次はありませんように……。



 ◇◇◇



お読みいただきありがとうございます。

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