第三十九話 助言からのクエスト
「ラビくん……どうしたの?」
ラビくんの笑顔は可愛いけど、今の状況を考えると嫌な予感しかしない。
「ラビくんのモフモフアドバイスの時間です!」
「……アドバイス? 逃げるための?」
「違います! 勝つためのアドバイスです!」
アドバイスをもらっても、こっちを見ているワニの相手をしたいと思えない。
「魔力を増やす方法は魂格のレベルアップに気絶訓練、【宝珠】吸収に精霊契約、魔力含有食材の摂取の五つが基本です!」
アドバイスが始まってしまった……。
「【宝珠】の吸収と精霊契約は属性を増やす方法ですが、属性を増やす過程で魔力量も増えます。他はいつもやっているから分かるでしょう。しかしアークは知らないことがあるのです! 何だと思いますか!?」
学校の先生のようなジェスチャーを交えた本格授業が魔境で行われている。危険で異常なことだと分かってはいても何故か先が気になってしまう。
「それは……魔物肉の摂取の重要性です! 魔物肉は脅威度が低くても動物よりも魔力保有量は多く、肉という素材に姿を変えても鮮度次第ではほとんど変化がないのです! では脅威度が高い魔物はどうなると思いますか? ヤツらは能力次第では魔獣という扱いになりますよ!?」
「魔力の塊?」
「そう! そうなのです! 魔物がアークを御馳走だと思うのと同じように、脅威度が高い魔物や魔獣は魔力的にも味的にも御馳走なのです! 強ければ強いほど美味い! これは常識です!」
もっと早く知っていれば赤ん坊補正で魔力量を増やせたのに……。
「……アイツを食えってこと?」
「さすが! 物分かりがいい生徒です! あのワニは階級は低くとも竜種なのです! 魔力保有量も高く、素材としては超一級! どこをどう見ても損はない! 高位冒険者垂涎の魔獣であることは間違いない!」
力説しているラビくんには悪いけど、前提条件が違いすぎて話の中身が全然入ってこない。
「ラビくん……重要なことを二つ忘れてるよ?」
「ん? 何か忘れてた?」
「毒持ちで毒に浸かっているワニは食べたくない。そして俺は五歳児であって、決して高位冒険者ではない」
「冒険者のことはともかく、毒はナイフの力があるじゃん!」
それも欠点があるじゃん。一度しか使えないから毒を取り除いたら、竜種の魔力や能力などが無駄になってしまうじゃないか。それは御免被る。
「リムくんの強化ができないから毒抜きはしません!」
「えぇーーー! 竜肉は美味いんだよ?! お酒に合うんだよ?! しかもあんなに大量にあるんだよ?! 何とも思わないの!?」
「……倒したことを前提に話を進めるのはやめてください……。どうにかして逃げようとしているんだから……」
「逃げれません! それに親分も料理した竜肉を食べたいと思うなぁーー!」
「親分は草食系だから竜肉は食べません! ドロンの果実が主食なんだからさ!」
熊親分の可愛らしい体は主食のドロンの果実により作られたと聞いた。よって肉なんて献上しようものなら、俺が肉片に変えられてしまうはずだ。
「タ、タマさん……まだ? ぼくだけじゃ力が足りないよ……」
「ん? タマさんが何だって?」
「――お待たせー! いやー、なかなか口を割ってくれなくて苦労したー! おかげでドロン酒を根回しと賄賂に使ってしまったけど、ドロン酒と最高のおつまみのためなら惜しくはない!」
今まで光る板だけ存在して沈黙していたタマさんだったが、話し出した途端不穏な言葉がいくつか聞こえてきた。
「ラビくん、バトンターッチ! ここからはあたしに任せて!」
「うん! お願いね!」
光る板と肉球がハイタッチをする光景を見せられたわけだが、気を引き締めないといけないと本能が警鐘を鳴らしている。
「ここからは天使アドバイスの時間ですー!」
「ドンドンパフパフーー!」
「ワウゥゥゥウゥゥゥ!」
なんだこの茶番は……。
「……アドバイスは間に合ってます」
「天使のアドバイスとは……ズバリ! 神器の使い方です!」
聞けよ……。聞いてくれよ……。
「ラビくんとの話を聞いていたところ、アイツが毒塗れだから食べらないし素材の価値が見出せない。さらに能力などの回収に神器を使いたいから、ナイフの使用による毒の除去は拒否するってことでしたね?」
「それ以前に戦いたくないです!」
「つまりは毒に塗れていないか、毒の除去と能力の移動に神器を使えれば問題は解決するってことですね?」
話を聞いてくれない……。
有無を言わさぬアドバイス方法に対してラビくんは、「ふむふむ。勉強になる」と言って感心している様子だった。ということは、ただでさえモフモフの体で断りづらいのに、話を聞かないというセコい戦法を使う予定があるということだ。
天使アドバイスってラビくんに対してのアドバイスなのか? と、思ってしまったのは仕方がないだろう。
「神器を製作した者から話を聞いてきたところ、もっと雑な使い方でいいそうです。まぁ条件さえ満たせればですが」
アドバイスの時間は初対面のときのようなできる天使を演じているようだが、本当の姿を知っているから残念感が凄まじいな。
「製作者ってアルテア様ですか? よく教えてくれましたね?」
「違います。アルテア様は召喚獣を生み出す術式を作ったり、移動した能力などを魂に固定するシステム面の担当です。ナイフ自体の製作や神器の機能を創り出したものは別にいます。今回はその者に話を聞いてきました。アルテア様にバレたら折檻されるので内緒です! あんたも言うんじゃないわよ?」
折檻が確定していることを聞く上に、実戦させられるのか? い……嫌だ……。巻き込まれ事故はもうたくさんだ。
「……拒否権は?」
「弟子に拒否権はない! あたしの言葉は熊親分やオークちゃんの言葉だと思いなさい!」
「親分は草食系だと思いまーす!」
「残念! 親分はお肉も大好きなのよ。それも調理済みのお肉がね! 魔物の中にも料理みたいなことができるやつがいるんだけど、親分はそいつに料理を作らせてスローライフを満喫しているのよ!」
マ、マジか……。親分って王侯貴族みたいな生活をしているのか? 生活風景を見てみたい。洞窟周辺に別荘を造ったら泊まっていってくれるかな?
「現実逃避してないで本題にいくわよー!」
「……はぁ~……。聞きたくない……」
「アーク! 生活が便利になるなぁって思えばいいんだよ! ねっ!」
便利になる反面、やらされることが増えそうで怖いとも思っている。
「条件は三つ。一つ目は魔核周辺は傷つけない。二つ目は素材の九割は綺麗な状態であること。三つ目は死亡から三分以内であること。この三つさえ守れば、『解体』の一言でバラバラになり、魔力や能力などは全て宝珠のような状態で入手できる。さらに毒などの状態異常はスライム状態で小分けされるそうよ。まさに神器って感じよね!」
「……何で最初から教えてくれなかったのでしょうか……?」
「便利すぎるし欲に走りそうだからってことで、ドM勇者の頃に口外禁止を命じられたそうよ」
「え? じゃあ何で言ったんですか?」
「……もう時効だからよ。あんたはドM勇者じゃないからOKってことよ!」
へ、屁理屈……。
「はい! ということで、師匠からの特別クエストを発行します! 万能薬作りを言い訳にしそうなので、万能薬は水場を浄化するのに必要な分を作りなさい。森に散らばった毒は散布ではなく掘り起こして全部まとめて浄化すること。次にあのワニを可能な限り速やかに討伐すること。当然、三つの条件は満たしなさい」
「ワニの討伐は予想してたんでいいですが、何で万能薬の散布はダメなんですか?」
「万能薬はあんたの魔力水を使うんでしょ? それじゃあ森にマーキングするのと同じで、魔物の生態系が変わってしまうかもしれないのよ。神器を使って毒だけ移すって方法もあるけど、食品にも使うナイフを毒につけるのは嫌がると思ったのよ」
「なるほど。じゃあ万能薬を余分に作ってナイフを洗浄するのに使おうと思います。掘り起こすだけだと染みこんだ毒が森を汚すと思うので」
「アーク……! 森への感謝の気持ちが芽生えたんだね……! 成長したんだね! ぼく、嬉しいよ!」
君たちの荒業のおかげでね。でもモフモフさせてくれたから良しとしよう。
「水場の浄化に万能薬を使ってもいいんですか?」
「うーん……毒の除去だけを考えれば神器の使用だけでいいんだけど、毒を喰らった水生生物のために万能薬を使って欲しいのよ。魔境が泉ってこともあって綺麗になれば、あんたの魔力の残滓も時間が経てば消えるだろうし」
「まぁできるだけ魔力の残滓が早く消える方法を考えておきます」
「じゃあお願いねー!」
「はい。では蓋をしたあと、薬草を採取しながら帰りましょう」
俺たちに向かって《咆哮》でも放ちたいのだろう。一生懸命鼻先を持ち上げようとしているが、荊でできた網が邪魔をして押し戻されている。
頑張っているワニさんが安らかに眠れるように特大のプレゼントを贈ろうと思う。
「地よ、《天蓋》」
水場の周りを囲う岩壁の内側ギリギリの大きさの巨大な一枚岩の円盤を、岩壁で囲われた水場に落とした。
「喰らえ! 落とし蓋! 毒の中で窒息してくれると最高に嬉しい!」
「あっ! ちょっと浮いたよ! あの隙間で呼吸しているから窒息はしないよ!」
「地よ、《重岩》」
追加で巨大な岩を出して落とし蓋の上に乗せる。落とし蓋が割れたら意味がないからね。
「喰らえ! 漬物石! そのまま漬物になってしまえ!」
先ほど微妙に浮いた落とし蓋も完全に沈み、このまま戦わずに済むかもしれないとい淡い期待を抱いていた。
――しかし……。
「――なんか来る!」
水場から漂う魔力が膨れ上がった直後、漬物石の中心から空に向かって水の槍が放たれた。水の槍は天高く伸びていったあと弾け飛んだ。
水の槍を喰らった漬物石は、割れることなく綺麗な穴が残されているだけ。つまりは粉砕型ではなく、あえて貫通型の《咆哮》を選んだわけだ。力の差を見せつけるために。
もちろん、そこが換気口の役目を負うことになるから淡い期待は消え去った。
「もしかして……怒っちゃった……?」
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