第三話 不貞からの地獄生活
本日三話目です。
俺が決意を固めている間に、ようやくアルテア様も気持ちを落ち着けられたようだ。
「ごめんなさい。ついカッとなっちゃって」
「いえいえ。気持ちは痛いほど分かりますので」
「ありがとう。なおのことあなたにお願いするのが最良の結果を出せそうな気がしてきたわ」
美人のアルテア様にニコリと微笑みながら褒められると照れてしまう。モフモフの耐性も弱いけど、美人の耐性の方がもっと貧弱なのだ。
「では異世界での詳しい説明をするわね」
「お願いします」
これからの生活がかかっている内容だ。聞き逃さないようにせねば。
「まず先ほども言ったようにエクセリクには【職業】というシステムがあるわ。職業は一般職、上級職、超級職と三段階あって転職して昇格していくの。ただしこのシステムは剣士なら剣術系のスキルを習得できるけど、全く関係ない生産系のスキルは不可能に近いほどの時間がかかるの」
「職業を得るとスキルが使用できるのですか?」
「そうね。二つ目がそのスキルについてよ。言語や算術など誰でも身につけられる行動スキルや、職業に関係がある職業スキル、特定の条件を満たすことで習得できる固有スキルがあるわ。それと三つの括りとは別で、種族特性スキルというのがあるの。これは例えばドワーフが戦士の職業に就いたとしても、鍛冶のスキルが生まれつきあるまたは習得しやすいというものね」
ドワーフ……やっぱりいるのか。
「いるわよ。エルフとか天使っぽいのからいろいろいるわ。元々人型二種族とモフモフ二種族と竜種を、霊王と精霊のお手伝いのために創造して送り出したんだけどね。今はたまに先祖返りがいるくらいで、ほとんどが劣化版になってしまったわ。といっても、人型二種限定の話だけどね」
どこの世界も人の欲は海より深いな。
元の世界でも自然を壊してまで「それ必要?」ってものを、体裁という名の旗を掲げて作りまくっていたものな。そして環境問題という自業自得で苦しむことになる。種類は違うが、災害を被るというところは同じだ。
それはさておき、俺の転生先次第では詰んでしまうのでは?
神獣は弱っているというし、唯一無二のモフモフを欲しがらない者など存在しないはず。俺なら奪わないまでも側で見ていたいって思ってしまうだろう。そしてそんな気持ち悪いヤツから守る必要があるということだ。
生産系職業に就いたら戦闘系スキルは絶望的で、魔王が誕生する時期に自衛能力低下で異世界に挑むとか、自殺願望があるとしか思えない。
「あら? 不安そうにしているところ悪いけど、あなたは先祖返りどころか世界創造の頃に送った神族のうち、【鬼族】という種族になってもらうわ。この種族は物理戦闘よりで生産系も得意な万能種族よ。魔術も得意だったしね」
鬼族……。それに魔術か。魔法じゃなくて。
「鬼族の今の子孫は、エルフ族とドワーフ族に獣族および獣人族が該当するわ。獣族っていうのは二足歩行の獣で毛を少なくしたのが獣人族ね。エルフとドワーフもいくつかに分かれているけど、まぁそのうち図鑑でも見てちょうだい」
ってことはこのどれかの種族特性スキルを入手できるのか。
「魔術の説明の前に鬼族を選んだ理由だけど、消去法というのが最大の理由ね。というのも、【霊王】の回復を促すためには大量の魔力量が必要なんだけど、今いる劣化版ではどれくらいかければいいか分からないのよ。捜索の時間も必要だしね。そこに現れたのが我らが救世主であるエルフと獣人よ」
両手をほのかに朱色に染まる頬に当て恥ずかしがるアルテア様に、俺もドキリとさせられた。
「彼らは密通しちゃってたのよ」
えっ!? ってことは俺は不貞の子!?
「本来彼らはハーフ迫害傾向にあるから関係を持つことはないし、獣人は魔獣扱いされてた期間があるからエルフとの仲も良くないの。さらにエルフは生殖能力が弱いから、多種族との間で子どもができる確率は限りなくゼロに近いという前提があるわ。まぁエルフ男性もそれを見越して密通していたんだろうけど」
待て待て待て待て! 俺はどっち側の子だ!? 転生先が獣人かエルフかで事情が変わるぞ!
「でもこちらの都合としては感謝の言葉しかないわ。だって祖を同じとする二種族の子どもなら、加護次第で簡単に上位種族に引き上げられるんだもの。これは神がお告げになったのでしょう。コイツらを利用しろと」
「神様はアルテア様じゃないですか!」
「私は私の神様パワーでズキュンと決めてやったわ。そして見事懐妊して転生先の完成よ。女性は当然アリバイ工作もしてたから、どっちの子どもか分からず毎日不安な日々を送っているみたいよ。まさにパンドラの箱状態ね! ふふふっ!」
無視かよ! それにパンドラの箱を知ってるのかよ!
上手いことを言ったとつぶやきながら微笑んでいるアルテア様に、モフ丸も足の甲をフミフミすることで讃えていた。
「不安なせいで流産するかもしれないのでは?」
「神様パワーで殴っても転んでも刺されても魔術を撃ち込まれても、全力回避か神様ガードが発動するわ。つまり神様のお墨付きを得た子どもが必ず生まれるようになってるの。なんて素晴らしいのでしょー! パチパチパチー!」
「わふぅ~!」
芸でも仕込んだのか、拍手を促すと「わふぅ~!」と鳴きながら足をフミフミするモフ丸。……相変わらず可愛いな。
「そ、それで俺はどちら側なんですか?」
「あなたは……獣人側よ!」
「…………詰んだ」
「しかも伯爵家の三男よ!」
「では女伯ってことですか!?」
「答えは……ノー!」
うん……。分かってた。これは地獄を見るヤツだ。鬼族に転生するからか、地獄行きが決定して鬼の住処に住むわけだ。
「上手い!」
「全然嬉しくないです」
「そんなあなたに追加情報があるの。彼らは緋猿族という赤い体毛に赤い目、さらに猿の尻尾が生えているわ。獣人族は魔力的技術を捨て身体能力を取った種族であるため、緋猿族も稀に火属性持ちが生まれる以外は全人類が持っている無属性しか持てないのよね」
嫌な予感がするぞ……。やめてくれよ……。
「獣人族全体が属性を持って生まれてくることは稀だから、本来無属性以外に二属性を持って生まれればエリート街道まっしぐらなの。種族特性スキルも猿らしい跳躍や歩法に、獣人族共通で武術スキルのみよ」
これはすぐに回収するフラグだ。次々と立てては、このあとすぐ全回収するんだろうな。
「そしてあなたなんだけど、まだ角は生えていないわ。体毛の色は深緑色で天色の瞳に尻尾はなし。耳は角張ってはいるけど、エルフらしく長くはないから見た目普人族ね。属性は無属性に水と地属性のエリートよ。最後に種族特性スキルは木工と調合がついているハイスペック赤ちゃんよ」
ぐはっ……。俺はその場に蹲るのだった。
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