第二十四話 撃退からの拠点獲得
巨大なリュックを背負った瞬間、即座に身体強化を発動する。
今までは爆速ハイハイモードと呼んでいたけど、本当のスキル名を知って意識的に使用するだけで、効果も効率も遥かに良くなっているように感じる。
綿でも背負っているかのように身軽に動け、重さよりも大きさが気になる程度である。
まずは魔力察知と気配察知を意識して追撃の兵士の存在を確認しよう。幸い森の中では魔力の垂れ流しは気にしなくていいし、俺に襲いかかってきたのを誘導して兵士にぶつけてもいいし。
「レベル上げもしたいなー。人間じゃあレベルが上がらないから、魔物がわんさか出る環境はある意味助かったかも」
のんきに森に向かう子どもを装い、未踏破領域に向けて歩いて行く。
未踏破領域への行き方は説明を受けた上で、簡易の地図ももらったから大丈夫だろう。
それに追撃の兵士は未踏破領域に着く前に襲ってくるだろうことは簡単に予想できる。彼らの装備は俺みたいに重装備ではない。日帰りを想定しているからこその軽装備だ。
「朝から動き続けたからちょっと休憩ー!」
阿呆の子のフリをして拓けた場所で休憩をとる。巨大なリュックを降ろして「ふぅ~」と息を吐いてその場に座る。
自然に地面に手をつきリラックスした姿勢をとると同時に、辺り一面を覆い尽くすほどの魔力を放出し詠唱の準備をする。
岩を背に座る俺の前方から四人の兵士が短剣を持って近づいて来た。
緋猿族の諜報担当の者たちらしい。俺が普段訓練している兵士が表の戦力だとしたら、彼らは裏の戦力だ。
そう言えばあの頭がお花畑の実母の実家が裏方の筆頭家臣だったな。まぁやることは決まっているけど。
「地よ、《泥沼》」
すでにこちらに駆けていた四人の兵士の足元を泥沼に変えて、首まで沈んだところで。
「地よ、《硬化》」
固めて元の地面に戻した。今の彼らは生首状態である。
「やぁ、こんにちは。お仕事お疲れ様です。頭が腐っている実母からの依頼ですか? 報酬は体ですかね?」
あのお花畑頭は実家では姫と呼ばれて慕われているらしい。
「このクソガキがっ! お前さえいなければ姫様は幸せになれるんだ!」
「なれるわけないじゃん。密通したんだもん。あっ! 聞くの忘れた。何回も会うほど楽しい時間だったのかって」
「殺してやる! ここから出せ!」
「頭がお花畑のおばさんと同じで頭が腐っているんですね。殺すって言っているのに出すわけないじゃん。伯爵には感謝しているけど、実母は地獄を味わえって思ってますよ」
「クソックソッ!」
「俺を殺すならまずは地面に勝ってください。じゃあちょっと準備してきますので待っててください」
俺はとあるものを取りに行くために席を外す。その前に保護用の防護壁を用意してあげよう。
「地よ、《岩壁》」
四方を岩の壁で囲み、目隠しと侵入防止対策をする。
「おい! どこに行く気だ!」
「ここから出せ!」
文句が聞こえてくるが全部を無視して近くの草むらに行く。
「おぉぉぉ! いっぱいいる!」
――《取り出し》――
木工スキルで自作したバケツに大量に放り込み、追撃の兵士がいる囲いまで戻る。
そして囲いの中にバケツの中身を後頭部側からぶち込み恐怖を煽る。
「さぁ、お行き!」
「なんだ!? 何をした!?」
「いずれ分かりますよ。あっ! そうそう。本に載っていたんですけど、陸で溺死する方法って分かりますか?」
暗殺部隊も兼ねる諜報員なら分かるだろうことを質問すると、即座に分かったのか命乞いを始める。
「た……助けて……。仕事だったんだ。……恨みはない。助けてくれたら、何でも言うことをきく! だから……だからぁぁぁぁぁーーーーー!」
彼らはスライムの大群に飲み込まれてしまった。
追撃の兵士が来るのは分かっていたし、死体を綺麗に残したかったことと、装備品をパクろうと思っていたから綺麗なままがよかったのだ。
でも溺死にすると濡れて乾かさなきゃいけけないから面倒だ。それならばいつぞや本で読んだ事件の再現をしようと思い、スライムの量が少量で済む生首方式を採用した。
本当の事件は汚物処理を行っているスライムの交換中に誤って転落して、スライムで溺れたというものだった。
いつか来るだろう人型の魔物との戦闘対策として用意していたものだが、まさか本物の人間相手に使うことになろうとは……。
「ドロンの干し果実、うまっ!」
この待ち時間に食事時間も取っているのだが、異常とも思える行動はスキルのおかげで何とも思わない。虐待のおかげで取得した精神異常耐性スキルが働き、防衛のためとはいえ殺人を行ったことも、その後の食事も普通に行えている。
むしろ一番最初に魔物を解体したときの方がキツかった。
これを見越してオークちゃんや熊親分が鍛えてくれたのかな? とも思う。
「そう言えばあいさつできずに出発しちゃったけど、また森で会えるかな? まだ勉強したいところあったのになぁ」
急な放逐での心配事は師匠たちへのあいさつだけである。もしかしたら化け物並みの魔力のおかげで居場所を伝えられるかもと思って、広範囲魔術を使おうと大量の魔力を放出したのだ。
「さてと。終わってるかな-?」
スライムが鼻と口を塞ぎ、完全に終わっていた。そして気づく。
「あっ! 《泥沼》使ったら泥だらけじゃん」
と。まあ《硬化》のときに固まっているだろうから、地面から出すときは《掘削》を使ってゆっくり引きだそう。
周囲を掘りながら一人ずつ引き出していき、持っているナイフや手甲などの防具に、回復薬などを全て回収して袋に詰めていく。
もちろん、これから大量に必要になるお金は全てもらい受ける。冥土にはお金は不要だしね。
今の彼らはパンイチの状態で寝転がっている。パンツの下に危険物はなく、再びパンツを履かせた結果である。
――《取り出し》――
次に取り出したのは木工スキルで作った小さい荷車だ。木製のリヤカーという感じで、素材が丈夫だから耐久力が高くかなりの量を運べて重宝している。
これに死体を乗せて移動していく。
彼らは未踏破領域で囮をしてもらうのだ。危険を感じたら彼らを投入して罠の有無を確認したり、潜んでいる魔物がいた場合は囮となってもらったり。
ピュールロンヒ伯爵家の筆頭諜報員の死は絶対に無駄にはしない。そして肉壁要員をはなむけに送ってくれた実母に感謝を伝えたい。
「この先か……。確かに入りづらい感じがにじみ出ているな」
おそらく未踏破領域の入口だろう場所は明らかに余所者を寄せつけない雰囲気があり、なかなか足が進まない。
まるで門を象っているかのように二本の巨木が入口らしき部分に生え、周囲を背の高い植物や木の上から垂れ下がる蔦が内側を覆い隠していた。
「……誰か住んでるのか?」
門と塀を構えた屋敷に不法侵入するような感覚に陥り、早速帰りたくなった。
「でも……。何故か進まなきゃいけない気がするんだよな……。もしかして夢のモフモフがこの先にいるのか? だとしたら……、行くしかない!」
深呼吸を数回繰り返し、気合を入れて一言。
「お邪魔します!」
◇
巨木の通路の先は庭にあるような小道になっていた。それにアルテア様が言っていたように幻想的な景色が森の小道に映えて、とてもきれいで見とれてしまっていた。
これが精霊か。
感想としては乏しいものだが、景色が圧倒的すぎてほとんど絶句だったのだ。個人的にはよく声が出せたなと思うほどに。
エルフたちが精霊を見ることができる自分たちは特別だ。精霊に愛された種族だ。と他種族を見下す気持ちも分からないでもない。
一生の思い出に残りそうな経験をした後は自慢したくなるのも無理はなく、その中の一部が言い始めたんだろうなと予想する。
俺の中ではエルフよりもモフモフの方が特別だけどね。多くの者の心を癒す力を持っている存在が特別でないはずがない。
「モフモフ♪ モフモフ~♪」
モフモフの歌を歌いながら進むと規模は違えど、護衛業の拠点に使っていたような拓けた土地に洞窟が一つあった。
「おっ! 拠点にするには絶好の場所じゃん!」
まさに「拠点にして下さい」と言っているかのような佇まいに、若干の不安を感じて肉壁の投入を決行する。
出るわ出るわ、魔物の群れが。
木だと思っていたら、いつぞやオークちゃんに討ち取られたイビルプラントの小型版や、巨体の優秀な食肉担当であるビッグボアに狼の群れ。
まさに群雄割拠。
すまんが、俺がここの領域を得る。そのために散ってくれたまえ!
「地よ、千刃を持って、敵を討ち滅ぼせ《地槍剣舞》」
魔導書には魔力制御のレベルが最大値であれば、高位の範囲魔術も使用可能だと記述があった。魔導書を使用することはできなかったが、以前に習得した魔術をアレンジしてみたのだが……。
「威力が凄まじいな……」
範囲を指定したからよかったものの、地面からは槍が突き出して串刺しにし、短剣から長剣に至るあらゆる剣が宙を舞って斬りつけていた。
これはこれで魔力を大量に消費するから、使い切りからの気絶がしやすくなるわけだけど、もっとスマートで発動速度が速く、威圧感のない魔術を開発しよう。
そう心に決めるほどの凄惨な光景だった。
戦闘終了後はお片付けが待っているのだが、その前に魔力によるマーキングをしておこう。
「ふんっ!」
魔力をダム方式で放出し、「ここは俺の場所だよぉぉぉぉーー!」と念じながらマーキングを終えた。
次に洞窟と森の小道から少し離れた場所にゴミ処理場を作っていく。当然《掘削》を使用しての簡単土木術だ。
貯水池みたいな大穴を開けたら魔物の死体の不要部分を放り込んでいく。今までは料理をしなかったし、調味料もなかったから肉は捨てていたけど、今回はビッグボアなどの食肉は保管しておくことにした。
内臓は不安だからゴミ処理場行きであるが、いつかはモツ料理を食べたいと思っている。
「やっと終わったーー。最後は洞窟内の探索か」
ちなみに肉壁は消滅している。彼らも魔物と同様にゴミ処理場行きであるから、再びスライム地獄を味わっていることだろう。
大きな外見からもだいたいの広さがうかがえたが、洞窟内はかなり広かった。これなら豪邸も夢ではない。
魔物もおらず罠もない。比較的綺麗で最高の場所だ。ここでスローライフしてもいいんじゃないかとも思える。
「――ん? なんかいる?」
洞窟の奥の隅の方に丸まっている物体を見つける。おそるおそる近づいて行くと、両手に乗るくらいの小さな子兎だった。
初モフ来たぁぁぁぁぁーーーーー!
心の中で快哉を叫ぶ。俺は急いで抱き上げて外に連れて行くと、巨大リュックから布を取り出して汚れを拭いてあげる。
――《カスタマーサポート》――
ようやく相談窓口を使うときが来た。
「あいさつもなしにすみません! また今度ちゃんとしますので、この子の治療方法だけでも教えて欲しいです!?」
「承りました。神子を治した回復薬の小瓶にお客様の特濃魔力水を入れてかさ増しして飲ませてみてください」
「やってみます!」
限界ギリギリまで魔力を放出して圧縮していく。この場合の魔力水は《清水》の方が良さそうだと判断して、通常ではあり得ない圧縮の仕方で小瓶に収まる量しか出さないようにイメージした。
本来は魔力を込めた分の量が放出されるのだ。その法則を無理矢理曲げることで特濃魔力水が完成した。
「す……凄まじいですね。あと加減という言葉を知らない子なのかしら?」
「あの! それでどうすれば混ざりますか?」
「あぁ! 軽く振って青色が広がれば大丈夫ですので飲ませてあげてください」
「はい!」
俺は軽く振って色を確認した後、少しずつゆっくりと飲ませていった。
それにしても顔は兎っぽくないのな。異世界の兎はこんな顔してるのか? と思いながら、手に触れるモフモフを堪能している。
ヤバいやつと言うなかれ。
柔らかさがハンパなくフワフワモフモフ。モフ丸以外で久しぶりのモフモフに我慢の門が開門してしまったのだ。仕方がないだろう。
「そしたら体を冷やさないように抱いて寝てあげれば、明日には目を覚ますと思いますよ」
「ありがとうございました!」
「まだまだ危険地帯ですので、洞窟内でテントを張って入口を塞ぐことをオススメします。ではまた会いましょう」
「本当にありがとうございました!」
お礼を言い終わると画面が暗くなり通信は終了した。やっぱりアルテア様の部下らしくしっかりした方だった。
そして俺はと言うと、テントを準備した後は洞窟の入口を特大の魔術で封鎖して、念願のモフモフ抱き枕を堪能するのだった。
お読みいただきありがとうございます。
序章『貴族転生』完結
閑話を2つ挟んでから次章を開始します。
ここまで読んでくださり本当にありがとうございます。
進みが遅いと感じるかと思いますが、いくつかの伏線も張っていて、意外にも重要な章だったので省略せずに序章として書きました。
次章からはモフモフも本格的に出てきますし、【トイストア】も本格的に使い始める予定です。
まだ読んでもいいと言っていただければ幸いです。




