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第二十三話 完治からの祝福授与

 ところ変わって、アクナイトと伯爵が小屋で魔力契約をしている頃、屋敷の方では大騒動が巻き起こっていた。


「ノア! ノア! 大丈夫なのですか!? また発作なの!? あら、どうしましょう!?」


「奥様、落ち着いてください!」


「落ち着いていられるわけないでしょう! あなたたちがいながらなんです!? なぜノアが一人で儀式に行ったのです!? きっとあの平民のせいよ! さっさと処分してきなさい!」


「旦那様の指示に従ったのです」


「今時の使用人は口答えをするようね!?」


 使用人もアクナイトと同じことを思っている。二人とも同じ病気ではないかと。だから伯爵が毎年行っている鎮静手段を知っている者は、同じ事を神子の実母にもやって欲しいと切望していた。


 当然叶えられることはなく、現在も周囲に当たり散らしている。


 そんなとき自他共に認める神子の金魚の糞が、体中傷だらけで部屋に駆け込んできた。


「奥様! やりました! 入手しました!」


「――っ! よくやったわ! 皆の者は出て行きなさい!」


 使用人は不思議に思いながらも実母から離れられると喜びそそくさと部屋を出て行く。神子の部屋には神子親子と神子の金魚の糞だけである。


「さぁお願い!」


「かしこまりました」


 神子の金魚の糞が懐から小瓶を出し、蓋を開けて中身を神子に飲ませていく。

 すると神子の体は光り輝き、胸の辺りに黒いものが浮かび上がったかと思えば砕け散るように消えてなくなった。

 見た目はガリガリヒョロヒョロのままだが、血色は健康的になっている。その姿を確認した実母と金魚の糞は大いに喜び歓声を上げた。


「やったわ!」「やりましたーーー!」


 そして神子が起きるまでに今回の報酬と証拠隠滅の相談をするのだった。


「そうだわ。この小瓶をアイツに持たせればいいのよ。どうせ森に放逐されるんだから、魔物が処分してくれるわ。餞別に私からプレゼントしてあげようかしら」


「でしたら簡易鑑定の魔道具を持っていきましょう」


「何故? 私からもらったものを疑うの?」


「私たちは疑いませんが、平民という存在とはそういうものです。それに保証があれば死の間際まで持っていてくれそうでしょ?」


「……なるほど。さすがね」


「光栄です」


 本当は敵対している相手からもらったものを信用するものはいないと言いたかったが、同じ立場に立つという言葉が親子揃って嫌いであるため、喜びそうな言葉を選んだにすぎない。


 こうして神子は見た目はそのままに、病気は完全に回復することになるのだった。



 ◇◇◇



「さっそく【ストアハウス】を試してみるかな」


 アルテア様の雰囲気や言葉を思い出すと、このスキルにはいくつか抜け道があるように感じた。最初から全部を収納できるスキルにすると既存のスキルと被るから、わざとスキルに制限を持たせた可能性もある。


 重要なのは自分で作ったもの限定の無限倉庫って部分だ。購入したものを入れるのは当たり前だしな。収納できなかったら買いづらいし。


 この自分が作ったものの範囲がどこまでか。そこがポイントだろう。


 まずはオークちゃんや熊親分にアルテア様の木像を収納してみよう。


 ――《収納》――


 念じてみると半径二メートルくらいの製作物が自動的に選別されて消えた。

 オークちゃんのようにスキルで加工したものから、薪のようにただ割っただけものものまで様々な条件で手を入れたものが収納されたのだ。


 つまりは今までコツコツと貯めていた素材も、主食であるドロンの干し果実も収納できるということだ。善は急げと小屋の南側にある倉庫に行き、片っ端から倉庫が空になるまで収納した。


 調合スキルで作った薬とドロンの干し果実も収納して、残すは布団などの備品だけである。


 ちなみに、袋や瓶は加工しないと選別で弾かれて残されるようだ。最初に袋で試してよかったが、中身が液体だと取り出すときにヤバいことになりそうだ。

 おそらくこれに関しても抜け道があるんだろうが、今は分からないから保留である。


 手には一応訓練用に作った棍を持っていこう。手ぶらだと何か言われそうだ。

 というか準備って言ってたけど本当に持っていくものがない。服くらいかな。早く袋を持ってきてくれよ。


 その思いが通じたのかは分からないが迎えが来たようだ。


「……あんたの出発が今日に決まったわよ。この袋に必要なものを入れなさい」


 いつもの忠臣メイドである。


「助かります」


 俺が用意してあった服を袋に突っ込んでいくのを見た忠臣メイドが、何やら不思議に思ったのか話し掛けてきた。


「……準備早くない? 木像とかここら辺にあったものは?」


「処分しました。他人に利用されるくらいならと思って。それに伯爵様が今日の可能性もあるって言っていましたので」


「それにしてはドロンの干し果実もないじゃない」


「ここに引っ越す前に儀式までの仮処分だって言ってましたので、出発が今日でなかったとしてもなにがしかの処分はあると思い、作ってませんでしたよ。メイドさんにあげたのが最後です」


「……あんた怖くないの? 森に行くのよ?」


 全く怖くない。自由にモフモフを探しに行けるんだよ? 幸せしかない。この五年は準備期間として大人しくしてきたつもりだけど、もう我慢はしない。何をしてでもモフモフの従魔を手に入れる。


 まぁ正直には言わないけども。


「怖いですが、世の中どうにもならないことはあります。お互い生きていましたら、また会いましょう。では行きましょうか」


 さらば、忠臣よ。また会う日まで。


 ◇


 屋敷の表にやってくると血色の良くなった神子が二足歩行で立っていた。養父の鉄拳制裁を喰らった割りには顔が腫れていない。


「皆様、私の成人(・・)の儀式のためにお集まりいただき誠にありがとうございます。この度無事に職業を得ることができましたので、ピュールロンヒ伯爵家の伝統である未踏破領域の調査に行ってきます。必ずや成果を持ち帰ってみせます」


 使用人を含む伯爵家の者たち全員が揃う場で、大いに皮肉を含んだあいさつを行った。

 そのほとんどの者たちは皮肉を聞き顔を歪めていたが、分からずに満足げに頷いている者も複数いる。


 その阿呆筆頭はやはり神子くんである。


「なかなか殊勝な態度ではないか。常日頃からそのような態度を取っていればいいものを。まぁもう関係ないか」


「これは兄上。病気が回復されたのですか? 顔色が随分よろしいように見えますが?」


「おっ? 平民にしては良い目を持っているな。私の神への祈りが通じたのだ。ついに活躍のときをお与えになってくださったということだ」


「なるほど。あの祈り方は全身で祝福を受け止める効果があるのですね? 不治の病を治すほどの効果とは……。聖職者も賛辞の言葉を兄上に贈るでしょう。是非発表してください!」


 どこからか「ぐふっ!」という声が漏れた。


「お前もたまにはいいことを言う。私もそのように思っていたのだ。是非そうさせてもらおう!」


 数人の使用人は限界を迎えようとしていた。きっと彼らはアレを見たことがあるのだろう。


 養父は養父でやめろと目で訴えかけているし、神子の実母は賛辞は贈られたいが広まるのは困ると思っているのだろう。いろいろな顔に変化させていて面白かった。


 そして俺の実母はというと、据わった目つきで俺を睨んでいた。だから養父が神子を窘めている間に、実母には最大のドヤ顔を贈ってあげた。


 俺からの宣戦布告だ。


 妹を産んだせいで立場の回復を図れなかった今、実母は俺の首を取ることに執念を燃やしているだろうことは明白だからだ。

 殺しに来るのなら返り討ちにするという意味と、可能にする自信があるということを顔だけで表現したのである。


「……ノアを褒めてくれるなんて嬉しいわ。お礼に是非これを受け取って」


「ありがとうございます。ですが使い方が分かりませんし、空のように見えますが?」


 神子の実母から空の小瓶を渡される。たぶんこれが神子を治した回復薬だろう。


 空を渡すってことは証拠隠滅に使われているわけか。ムカつくわー!


「そう言うと思って鑑定の道具を持ってきたわ」


 【神薬の空き瓶】

 迷宮産の回復薬としては最高  

 あらゆる怪我や病気を完全に回復する

 その空き瓶


「これは素晴らしいものを手に入れたのですね。伯爵様が用意されたんですか?」


「心配性の旦那様には内緒で部下が迷宮に潜ってくれていたのよ。まだ下に少し残っているから何かあったときのお守りにしてちょうだい」


「お気遣い感謝します」


「いいのよ」


 このクソBBAがっ!


 残っている様子のない空き瓶を無理矢理ポケットにしまわれ、養父の目に入らないようにしたらしい。


「……これが野営道具一式だ。養育費から捻出したから全てお前のものだ。それと金銭は十万フリム用意した。あとは必要なものはないか?」


「十分です。お気遣い感謝します。それからお世話になりました」


 神子を黙らせた養父は五歳児が持つにはおかしいサイズの巨大なリュックを持ってきた。いくら成長が早くて小学生の高学年並みの身長であったとしても、テントや毛布などがくくりつけられたリュック

を背負って森に入れば瞬殺されること間違いなし。


 ピュールロンヒ伯爵家には同じ伝統の儀式は確かにある。男子は職業を得て五年間習熟をして十歳に大人同伴で儀式を受けて、軍に行くなり学園に行くなりするようだ。


 歴代で唯一行っていないのは神子だけで、それゆえ先ほどのあいさつは皮肉に塗れていたのだ。


 それを五歳の職業の把握すら行っていない者を、身動きできないようにした上で死地に送ると。


 喜びすぎて笑みを隠しきれていない神子派の兵士がウザい。鬱憤晴らしに嫌がらせをしてみよう。


「兄上。神子様の祝福が詰まったそちらの兵士が持っているナイフを私に預けてくださいませんか? 窮地に陥ったとき神に愛された兄上の祝福が籠もったナイフが私を導いてくれると思いますので。……どうでしょうか?」


 普段なら間違いなく「ノー!」一択だろう。だが、今日は病気が完治して神子として認められたと勘違いしている最高の日である。

 今までの神子は偽物で、本当は慈愛に満ちているというパフォーマンスを行い、使用人からの信用を取り戻す大チャンスだ。

 乗らない手はないだろう。それもナイフ一つでとは、価値を知らない神子からしたらラッキー以外の答えはない。


「うむ。今日は機嫌が良い。いいだろう!」


「そ……そんな……!」


「ん? どうした? 早く寄こせ!」


 嫌々神子に渡すと神子が「我が祝福を与えん!」と言って俺に手渡す。

 俺は跪いてナイフを受け取ると兵士を一瞥し、神子に感謝の言葉を伝える。


「この御恩は忘れません」


 嫌がらせに協力してくれた恩をな。


「よいよい!」


「それでは皆様いってきます!」


 巨大なリュックを背負って森に出発する。


 さらば、鬼の住処よ。

 俺はモフモフの住処に引っ越します。



お読みいただきありがとうございます。

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