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第十八話 忠告からの魔術攻撃

本日6話目です。

 新しい朝が来た!


 やってきました。ついに運命の追放の日ですね。仮に奴隷になりそうだったら殺してでも逃げてくれる。


 さて、さすがに今日は我が家に迎えの者が来た。まぁいつもの忠臣メイドだが。


「ほら、支度しなさい。今日はあんたの職業授与の儀式なんだから」


「あれ? では神子様はようやく職業を得たわけですか?」


「……あんた分かってて言ってるでしょ?」


「いえ。素直に祝福を贈ろうかと思っただけですよ? 他意はないです」


 嘘ぴょーん! 知ってて聞きました。


 今年も一緒に儀式に行くことは全員が知っている。当たり前すぎて、あえて誰も触れていないだけで全員がまだかな? って思っているらしい。

 神子じゃなかったら、とっくの昔に見限られているだろう。


「それよりもなぜメイドさんが迎えに?」


 五年経つが未だに名前を知らず、ずっとメイドさんと呼び続けている。そのメイドさんは神子の妹専属のメイドに転職を果たしたはず。

 何度かドロンの干し果実をねだりに来る以外は接点はないのに、今日という記念日にわざわざ来るとか普通はあり得ない。


「……あんたの姉が同行するのよ」


「なるほど。情報感謝します。たぶんこれが最後になるかと思いますが、どうぞお礼です」


「……あんたねぇ、少しは危機感を持ちなさいよ。姉はすでに職業を得て三年経っているのに、あんたに何もしなかったのよ? つまり機会をうかがってきたってことじゃない。今まで顔も見せなかったのに、いきなり今日になって同行するとか、今日何かやりますって宣言しているようなもんじゃない。……まぁもらうけど」


「確実にやるでしょうね。でも伯爵様は神子にだけ優しいんですよ? 大事な今日という日に粗相をした者にまで寛容でしょうかね? 町からわざわざ司祭様が来て下さるのに、伯爵家の恥をさらすことになったら……ね?」


「……毎回思うけど、あんた本当に五歳?」


「もちろん。可愛い盛りですよ」


「どこがよ」


 家族よりも多くの時間を共有したであろう忠臣メイドはいつもの感じで話していたが、今日お別れが確定していることは屋敷に住んでいるから知っているだろう。

 護衛業の方で動きがあって、今日辺りに神子の完治の目処が立ったという話を聞いたのだ。


 まぁ神子が喜ぶということは誰かが悲しむということなのだが、神子である自分が良ければ下々の民がどうなろうが関係ないと思うような人物だから仕方がない。


 忠臣メイドもあと二年したら姉と一緒に王都に行って、学園に通うサポートをするそうだ。都会に行けるのはいいが、サボれなくなるのは困ると話していた。


「あっ! そうそう。メイドさんも気をつけた方がいいですよ」


「何がよ」


「自分より先に職業を得て、自分が行けなかった学園に行く妹を妬み、邪魔をしようとする人物に心当たりはないですか? 妹は誰を盾にして逃げようと思いますか? その場に僕がいれば僕でしょうけど、いなければ身近な平民か使用人って相場は決まっていますよ?」


 ここまで言うとメイドさんも気づいたようで、顔面蒼白のまま黙り込んでしまった。


「一番いいのは転職でしょうけど、伯爵家に勤めた者がやめるときは死ぬときか配置転換のときくらいじゃないですか?」


「……じゃあ……あんたも……?」


「ですね。ではそろそろ行きましょうか」


「……えぇ……」


 何故か処刑場に送られる罪人のごとく肩を落として歩くメイドを連れ屋敷の玄関に向かう。

 玄関には二台の馬車が停められていて、その前に神子らしき人物がいた。


 貴族らしい豪華な礼服を聞いているが、ヒョロヒョロしすぎて服に着られているようにしか見えない。赤い瞳に赤い体毛にお猿の尻尾と養父の特徴そのままだが、武官らしき精悍な顔立ちにゴリマッチョな養父とは似ても似つかない。


 神子は歩き方はヒョロヒョロして風に煽られているのかと思ったが、服から出ている手首などを見ると肉なしのガリガリくんだった。陰険な顔つきも相まってリッチと言われても納得しそうだ。


 本当に神子? これで勇者やろうとしてたの? 世界は本当に大丈夫? 最弱勇者の案内役でしょ? モフモフの世界はなくならないかい?


 一気に溢れ出す不安は、追放されるかもしれないという不安よりも凄まじいものだった。


 神子と目が合った瞬間、こちらを見てニヤついた気がした。直後、首の後ろがゾワリと反応する。いつも垂れ流しにしている魔力で周囲の状況を把握し、忠臣メイドを掴んで後ろに飛び退いた。

 それと同時に垂れ流している魔力で神子に向かって弾くように操作する。


「ちょっ!」「うわ!」「えっ!?」


 他にも神子派の使用人などが神子と一緒に被害を受けたようで、地面に転がっていた。幸いなことに馬車は無事だ。


「な、何をする!? き、貴様……し、正気か!?」


「これはこれは兄上。初めまして、アクナイトと申します」


「聞いているのか!?」


「なかなか会う機会がなくあいさつが遅れたこと、誠に申しわけありません。本当なら昨年の十歳の誕生日にお祝いを申し上げたかったのですが……」


 と、神子の質問を無視して話を進める。この嫌みは絶対に言いたかったのだ。準備してきたのに、神子の馬鹿な妹の襲撃のせいで不発に終わりそうだ。


 俺がやっていないことなど、この家の全ての者が知っているから答えるだけ無駄だ。もしこれが俺がやったというのなら、俺は今日から伯爵家の一員である。


 理由は、飛んできた魔術が火属性だったからだ。俺は火属性がなく、エルフが持っていそうな種族特性スキルを持っていたから不貞の子が確定したのだ。放って置いても養父や使用人が勝手に処理してくれるから相手にしなくても全然いいのである。


「いったい何事だ!?」


 神子がいきり立っているところに養父登場。さっさとやっちまってくだせぇ!


「コイツが私に魔術を放ったのです!」


 そこは使用人含む「私たち」にしようぜ。倒れているのは、あんたを守って倒れている使用人なんだからさ。

 ちなみに、昨年の十歳の誕生日に気持ちだけも社会活動に参加しようと口調を「私」に変えたらしい。どうでもいいけど、社会活動したいなら茶会か夜会に行けよ。お披露目は五歳だぞ。遅刻しすぎだろ。


「……そうなのか?」


「いえ。飛んできたのは制御がきいていない火属性魔術でした。そこに焦げ跡があるかと思います。僕もメイドさんを助けるのに必死で火属性の赤色が見えてとっさに避けたことしかできませんでした。すみません」


「そんな! 制御がきいていないなんて嘘です! 魔術系の職業を持っているんですよ!?」


「……僕はこれから職業をもらいに行くんですけど……。伯爵様、そうですよね?」


「…………そうだ」


 馬鹿なのか? 墓穴を掘るどころか妹を売り渡したぞ。まさかこれを狙って……ないな。

 顔が驚きに満ちているし、顔が赤くなったり青くなったり忙しそうだ。


「でも自分専属のメイドがいるのに魔術を放つなんて……」


 このとき「敷地内で」とは言わない。俺も敷地内で魔術を使っているからだ。

 自身に仕えてくれている使用人ごと傷つける行為に心を痛めているということを、従者を失って傷ついている伯爵に訴えかけるように大げさに伝える。


「怪我をしているのは使用人ばかりだな。怪我をした者は治療を受け、大人しく療養していろ。イブには事情聴取したあと、王都行きの準備をさせる」


「そ……そんなぁ……」


 さすが養父。


 火属性持ちの魔術職なら伯爵家として有効な手札になる。手放す手はない。今回のことで何かしらのペナルティーがあるだろうけど、利に聡い実母が請け負うだろう。

 問題はそそのかした者とこれからも一緒にいさせることの方が問題だ。なるべく早く引き離して教育をし直してから学園に通わせるだろう。

 幸い王都には現当主を始め、戦力と教育のどちらにおいても主力級の者たちが揃っている。人によっては地獄に感じるだろうよ。


 さらに被害を受けた上、王都行き目前でメイド交代は使用人の不信を招く行為であるから、養父は忠臣メイドを続投させて王都到着後に要職か待遇の良い仕事を与えるだろうよ。


 これで義理は果たしたぜ。



お読みいただきありがとうございます。

あと1話更新します。

お付き合いいただけると幸いです。

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