第十五話 建築からの魔物騒動
本日3話目です。
領域に帰って最初にやることは建材の準備である。
「水よ、《乾燥》」
短縮詠唱の習熟効果で、生活魔術は属性への呼びかけと術名だけで魔術を発動できるようになっていた。
詠唱破棄も可能だとは思うが、詠唱せずに発動しようとすると不快感が体を襲うため、現状が最良なのだと確信している。
「地よ、《掘削》」
樹皮や葉っぱを捨てる穴を作り、廃棄処分用のボロ小屋の建材と一緒に捨てていく。あとはスライムを放り込んでおけば勝手に処理してくれる。
「家の基礎と周辺の一部は石造りにするか。また壊されたら溜まったものじゃないからな。ってか木の家から石造りの家に移り住むとか、俺は豚かよ!」
次に使うのは生活魔術ではないため魔力を練り上げイメージを固める。
詠唱してもいいのだが、短縮詠唱のスキルがステータスに加わっているのなら上げておけば後々楽ができると踏んで、できるだけ短縮詠唱での発動を行っている。
まぁ詠唱が恥ずかしいっていうこともある。隙が生まれて困る状況でもないし、言わずに済むのなら言わないで発動したい。ただそれだけだ。
「地よ、《大地隆起》……からの、《硬化》」
整地を兼ねた地形操作系の魔術と石状に固める《硬化》の魔術で囲いの内側、九メートル四方を石畳状に変化させた。模様もしっかり出てオシャレになっている。
小屋の広さは変えないが、今まではなかったお風呂やトイレなどの設備用に土地を確保し、基礎工事を済ませたのだ。
そうでなければ、あと二年しかいない場所に豪邸などいらない。
今回はやりすぎを心配せずに行えるからある意味楽ではある。というのも、普通に考えたら三歳児が新築の許可を求めるわけがないのだ。
許可以前に不可能だと切り捨て家なき子になるしかない。それでも養父が許可を出したということは、多少やりすぎても目をつむるということで、なんの気兼ねもなく持てる力を全て注げるのだ。
「まずは寝るところをなんとかしないとな」
乾燥させた巨木を角材や板材などに切り分けていく。こういうとき木工スキルがあると本当に便利である。寸分違わず切り分け、前世のリフォーム番組で得た知識をフル活用する。
木組みという構法だ。
まぁほとんどは石造りだから、木造部分は住居スペースである小屋の骨組みくらいなんだけどね。さすがに内側は木造の方が落ち着くからなぁ。
ちなみに断熱材は平民用の格安断熱材を使用するらしい。小屋に高級断熱材は使わないか。
この断熱材の素材はスライムの体液にスライムの魔核を混ぜ合わせて、植物の繊維を絡めたものらしい。本格的な工事を始める前に確認に行ったら使用人から渡されたのだ。
材料も揃ったことだし本格的な工事を始めよう。まずは浸水対策兼腐食対策で住居設置部分の基礎をさらに持ち上げる。
小屋の本来の用途は物置小屋であるため、床下に強度を持たせるよう支柱を追加しておく。建築学など持っていないのだから仕方がないが、ケチをつけられないように徹底するところは日本人らしいと言えるだろう。
次に基礎の上に土台を敷き固定する。そこから骨組みを組み、床下や内壁に断熱材を敷き詰めていく。
壁には魔術で作ったなんちゃって石膏ボードも張り、急いで外壁を貼り終えたところで初日は終了である。
三歳児が一日で造った割りには早いが、魔術やスキルをフル活用して食事も休憩も取らず一心不乱に作業した結果である。
それでも扉や窓などの細々したものから、内壁材や床材を終えるには時間が足りなかった。
「今日どこで寝よう……。とりあえずオークちゃんを迎えに行こう」
◇◇◇
「父上! 魔物……魔物が侵入してきました! 先ほどの振動を感じましたでしょう!?」
「……ノア。寝不足か? 夜中に何かしていたのではないか? 最近起床が遅いと報告を受けているぞ?」
「父上! 今はそのような些末なことはどうでもいいのです! ぼくの部屋から巨大な魔物が見えるのです! それなのに兵士達ときたら対応もせずに放置しているのですよ!? 信じられますか!?」
次期当主であるイグニス・フルリオ・ピュールロンヒ伯爵の質問をどうでもいいと言い捨てる人物こそが、今代の神子であるノア・フォン・ピュールロンヒである。
彼はアクナイトが言っていたように臆病な気質で、伯爵は常々この者こそが不貞の子どもではないかと疑っていた。
武門の一族であるピュールロンヒ本家からは戦闘狂よりの人物が多く排出されており、臆病な性格で戦闘には向かない者は文官の一族である分家の方に生まれることが常であったからだ。
絶対生まれないということではないが、それでもごく稀くらいの確率であった。
むしろ報告で聞いているアクナイトの性格の方が一族寄りの性格であり、容姿を見ずに資料だけで判断していたら確実に間違えていたことだろう。
「父上! 聞いているのですか!?」
「聞いているから少し落ち着け。振動についてはすでに報告を受け、問題がないことと判断した。魔物というのは、お前の部屋から見えるもののことか? それなら大丈夫だ。私も見たからな」
「で、ではなんだったというのですか!?」
「その前に私の質問にはいつ答えるのだ?」
振動は小屋の建築許可を出したあとすぐに起こった出来事で、木材の申請に来ていないのに断熱材の申請に来たと聞いた時点で全容は判明している。
木像については、兵士長から報告を受けていたから魔物の侵入などないことは明確だった。
それに長い間魔の森にのすぐ側に住み、戦場で活躍してきた伯爵が魔物の気配に気づかないはずないのだ。
「質問……?」
「起床が遅いそうだが、遅くなるようなことを夜遅くまでやっているのかと聞いたのだが?」
「お……遅くなどありませんっ! 食事に間に合わないのは具合が悪かったからです! それに夜も早く寝ているので何があったのかなんて分かりません!」
伯爵は何かしていたのではないか? と聞いただけで何かあったとは言っていない。
さらに今回は何かしていたのは夜で、何あったのは早朝である。焦りすぎておかしな事を言っているのだが、彼は知らない。今回はすでに事実確認を終えていることを。
さすがにボロ小屋でも伯爵家の持ち物であり、倒壊した場合は現在の当主に報告をしなければならないのだ。
この一族の就任方法は変わっていて、他の家は爵位の継承後に当主も変わる。しかし国王の護衛をになっている一族は国王が譲位するか、当主に異変があるまでは代わらないのだ。
さらに自身が活躍したことで複数の爵位を持っていることもある。イグニスの場合は後者であるが、現在の村は現当主のものであるためもみ消しはできないのだった。
「……そうか。夜中に投擲術の研鑽を積んでいるという報告を受けていたのだが、ノアは何もしていないのだな?」
この答えはノアのプライドをくすぐる質問である。普通に何もしていないと答えたら、努力をしない者と答えることと同義だ。
逆に研鑽を積んでいたと答えると、答え方によっては犯行を認めることになる。
武門の一族でありプライドが天より高いノアには何もしていないと答えることはできなかった。
「バレては仕方がありませんね。投擲術は本当に難しくて、ついつい夜更かしをしてしまいました」
加えて、誤魔化す言葉も持ち合わせていなかった。
伯爵はアクナイトならば、「訓練場を使っていたところを見られていましたか」と白々しくも言ってのけるだろうなと思い、神子に対して初めて不満を覚えた。
「……はぁ。今回はマズかったな。これは父上に報告をあげなければいけない案件になってしまったからな」
「……えっ? 何かあったのですか?」
今さら遅いのだが一応惚けてみせるノアに伯爵は苛立ちを募らせる。
「建物が一棟倒壊した」
「えぇぇぇ! ついにあのボロ小屋が倒壊したのですか? 死傷者は出たのですか?」
喜びを抑えるために頬を引きつらせているノアだが、自分で墓穴を掘ったことには気づいていない。
「私は建物と言っただけだが、今まで知らなかったはずのお前が何故小屋が倒壊したことを知っているんだ? それと二年間も投擲術の研鑽を積み重ねてきたのだろう? スキルは習得できたのか?」
「……そ、それは……。使用人たちが噂していましたので。それからスキルはまだです……」
「使用人? それはおかしいな。使用人たちはずっと振動の調査をしていて、噂話をしているのならそのことについてだと思うが……まぁいいだろ。報告することには変わりはないのだから。それともう夜中に訓練をするのはやめろ。やるなら昼間に行い、場所も訓練場限定で許可する。分かったらもう部屋に戻れ」
「……分かりました……」
苛立つ伯爵はノアを部屋から追い出そうと早口で話し終え、視線を書類に移して興味がないという姿勢を取ることで退出を促す。
それに対して不満そうに口を尖らせたノアは「ぼくは神子なのに。答えも聞いていないんだけどなぁ」と、ボソボソ文句を言って部屋を出て行くのだった。
◇◇◇
お読みいただきありがとうございます。




