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チートな私は友達が欲しい。  作者: 骨の色。
2/2

チートであるということ。

朝、日本でも寝たことないくらいのふっかふかな高級感のあるベッドで目を覚ました。


「懐かしい夢だ」


あれは今から5年くらい前だったか。


意識を取り戻したのは森の中で、5メートルはある熊の魔物に襲われたものの、怖くてその場に座り込んでしまった。


「情け無い」


思わず笑ってしまう。


あの程度の魔物だったら、今の私であればデコピンで吹き飛ばせるというのに。


いや、正しくはその当時もデコピンで吹き飛ばせるほどのポテンシャルはあったのだが。


「喉が渇いた」


今は日本で言うところの、10月頃だろうか。


朝は肌寒い。


棚からコップを取り出して、市販のココアの粉を投入する。


ウォーターサーバーからお湯を注ぐと、なんともいい香りが漂ってきた。


ちなみに私はコーヒーが好きではない。


朝はコーヒーだろという方には申し訳ないが、苦味がどうもダメで。


なんて、言い訳を一人でしながら食パンをオーブンで焼く。


ふわっふわのもっちもちであり、近所の人気なパン屋で購入したものである。


ココアを口に運びながら、冷蔵庫から同じく近所のパン屋で購入したジャムを手に取った。


ピー。


「焼けたか」


無駄に大きなテレビを観ながら、ぼんやりとジャムを塗る。


このジャムはイチゴのような、みかんのような、不思議な味の果物でできている。


こちらの世界に来て5年が経つのに、未だに不思議な味だと思ってしまう。


ピコン。


「ん?」


テレビの端にメールの受信を確認した。


マウスくらいの大きさのリモコンを握り、メールを見ようと意識を向ければ、メール受信画面が開く。


「こういうの日本より便利だよなぁ」


夢の影響だろうか。


なんでもない出来事に今更感心しながら、メールを読んでいく。


11時までに出社してくれとのことらしい。


昨日は夜更かししなくてよかったとほっとする。


久しぶりの出社である。


「風呂入るか」


今は朝の8時過ぎであり、転移すればいいため11時五分前までは家にいても問題なく間に合う。


手元のテレビに使用したリモコンに向けて風呂を沸かすよう意識を向ければ、テレビに風呂を沸かすと表示された。


「やっぱ便利だよなぁ」


5分ほど経っただろうか、テレビに風呂が沸けたとアラートが表示された。


無駄にふかふかなソファから立ち上がり、風呂場に向かう。


これまた無駄に広い風呂場は、いつも通りピカピカに光り輝いている。


永続的なクリーンの魔法がかけられている特別製である、まあ風呂場に限らず家全体がそうなのだが。


別に風呂に入らずとも、魔法で清潔にしているのだが、今日はなんとなく入りたい気分だった訳で。


歯磨きはめんどくさい私はクリーンの魔法を口内に使用した。


鼻唄を歌いながらシャワーを浴び、いい香りに包まれる。


「あ、リモコン忘れた」


机の上にリモコンを忘れてしまったことに気づいたものの、そういえば声だけで指示可能だったことを思い出した。


「最近流行りの音楽流して」


おもむろに、一人で喋る私は決して変な人ではない。


現に、全方位から若者の好きそうなジャカジャカした音楽が流れ始めた。


「知らないやつだなぁ」


湯船に浸かりながら、最近はこんなのが流行っているのかなんて考えながら、やっぱり自分の好きなやつが聴きたくなってくるのはいつものことであった。


「ドライ」


脱衣所で一言呟くだけで、髪を濡らしていた水分も、皮膚を伝っていた水滴も一瞬で消え去ってしまう。


最近開発されたらしい、最新の設備で、まだ一般の家庭には普及していないらしい。


別に私は魔法で何とでもなるので不要なのだが、できた家を見てみれば付いていたのだ、使わない手はない。


裸でそんなどうでもいいことを考えながらリビングへ向かう。


虚空に手を伸ばして意識すれば、パンツとシャツが現れる。


これは私の収納のスキルであり、発達しすぎた技術の結晶とは別物であることをここに宣言しておく。


パリッとした埃一つ付いてないスーツを身に纏い、ネクタイを締め、これまたピカピカの革靴を履く。


無駄に高い時計を装着すればこれで完全装備である。


時刻はまだ9時前。


「11時までにって言ってたし、確か出社時刻は9時だったような」


自分の務め先の出勤時刻も朧げであるが、ひと月ぶりであるのだからしょうがない。


「転移」


呟けば、目の前には高いビル、それも宙に浮いている。


何回見ても不安になるそのビルを見上げる。


「一番上だっけか」


魔法を使って最上階に向かう。


本当は、部屋に直接転移してもいいと許可は貰っているのだが、いきなり目の前に現れたら驚くだろう。


最上階まで空を飛び、扉まで到達したと同時に扉が開く。


「よ、ようこそいらっしゃいました!」


「あ、ども」


いい歳したダンディな仕事できそうなおじ様、ドゥランダさんが、おでこに汗を掻きながら出迎えてくれる。


11時までにって言ってた筈だが、朝からずっとここで私が来るのを待つつもりだったのだろう。


何度迎えは要らないと言っても、頑なに扉の前で待機しているため、最近はもう諦めてしまった。


「本日は、お、お忙しい中、お呼びいたしましたこと、誠に恐縮に御座います!」


「いえいえ」


おかしい、ここは私の勤務地であるのだが、これではお客様ではないか、といつも思う。


それに私が忙しい筈がない。


忙しかったらそれは世界の危機だ。


「実は、先日、黒級の魔物が複数徒党を組んでいることを確認しました」


黒級の魔物といえば、上から二つ目の危険度であり、黒級1匹だけで国一つ消し飛ぶほどの脅威とされている。


そんな魔物が複数体というのは今まで聞いたことがなかった。


「それはどこでしょう?」


空中に地図が現れると、ドゥランダさんが指を指した。


「ここに御座います」


「いってきます、転移」


幸い、近くに転移の可能なポイントが存在していたため、急げば5分もかからない。


というか、何が11時までに出社してくださいだろうかと首をひねる。


黒級複数など、わかった瞬間に知らせるべきだろう、そもそも電話で知らせるべきだと思う。


確かにこの付近には人里は存在しないものの、黒級である。


変なところで私に気を使うというか、恐れているというか。


「...9もいるのかぁ」


感知のスキルによって敵の位置、強さは手に取るようにわかる。


確かに黒級は脅威ではあるが、それは一般的な意見であり、私はそういう意味では一般的でない。


なぜなら


「ほいっ」


「っ」


跡形もなく消え去った黒級の魔物、その数9。


一瞬にして命を奪い、そして収納した。


黒級ともなると、生命力が凄まじく、生死の判断が非常に難しい。


殺したと思ったら、不意を突かれて逆に命の危機、なんてこともザラである。


私の場合、収納のスキルで生命を収納することができないため、跡形もなく消え、収納できたということが確実に殺したことの証明になる。


依頼を受けてまだ10分経っていないが、国の危機ともいうべき黒級複数体を撃破したのである。


こんな私が忙しかったら、もう世界は手遅れだろう、なんてことを思いながらドゥランダさんの元へ戻る。


「全部で9、他引っかからなかったから問題ない筈ですが、一応明日、もう一度確認してからの完了ということで」


「は!いつも素晴らしい対応、心より感謝申し上げます!」


ちらほらと顔を出す職員達の顔には、尊敬の感情以外にも畏怖、嫉妬、様々なものが映っていた。


「...いえ、ではまた明日同じ時間に向かいます、転移」


そんな視線を向けられたくなくて、私は返事も聞かずに家に帰宅した。


「...ただいま」


もちろん、私に応える声などない。


「音楽流して、明るいやつ」


朝流れたものと同じ筈の曲は、まるで別物のような、そんな錯覚を覚えた。

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