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その少女、黒歴史製造中につき取扱注意!7

「いやぁ、よかった! その決断は次世代まで語り継がれる英断だよ」

 手を叩く真似をしながらはやしたてる荷渡がむかつく。

「語るな。これこそ黒歴史の始まりだ」

「よし、さっそくBHEの拠点の紹介とチュートリアルに行こう」

 荷渡は立ち上がり「犬のようについてきてよ」と言った。

「チュートリアルってなんだよ。僕は入るだけだからな。僕はあくまで監視対象なんだろ。仕事はしない」

「人手不足の解消も目的に含まれてるって言ったよね。働いてくれないと困るよ」

 ニマニマと笑っていた荷渡の口元がへの字に曲がる。

「君は往生際が悪いね。なら、ボクも切り札を出すことにしよう。日ノ下くんは中学二年生の頃に<正義の味方物語>を書いていたね?」

「ッッ!?!?」

「その一個のタイトルが<汚れた右腕では君を抱きしめられない>だね。うわぁ、読んでるボクもゾクゾクしてきた」

「なぜッッそれを!?!?!?!?!?」

 日ノ下の全身から冷や汗が噴き出し、ボディブローを食らったかのように呼吸が乱れる。永久に黒歴史を抹消するために中学校の中庭に埋めたはずだ。

「中庭に隠そうとしてのはまずかったね。残念ながら、見ちゃったんだよねえ。これをバラまかれたくなかったら、従順な子犬のようにボクに従って、BHEで働くことだね」

「黒歴史を抹消する役割のやつが人の黒歴史を使って脅すっておかしくないか!?」

「つべこべ言わない。その時々によって毒にも薬にもなるんだよ」

「毒としてしか使ってねえだろうが! 猛毒で脅してんだろ!」

 右耳がストレスを感知しておりジンジン痛む。

「関係ないね。で、返事は? 仕事を手伝うの? 手伝わないの?」

 この問いにもはや否定はなかった。RPGで<はい>でしか物語が進まない状況に陥った気分だ。

「……手伝います」

 今度こそ日ノ下はそれこそ台風の暴風にみまわれた傘のようにぽっきり折れて、BHEの傘下に組み込まれた。満足気に頷いた荷渡は、「ワンちゃんみたいについておいで」と言って歩き出した。年老いた老犬のように彼女の背中を追って廊下に出た。生徒とすれ違うことはほとんどなかった。二人の足音に遠くから響いてくる吹奏楽部の演奏が混じる。

「BHEは、具体的には何するんだよ」

「君が中学生の頃にやっていた正義の味方ごっこと同じだよ。大枠はね」

「……」

「おや? シュールストレミングの匂いでも嗅いだような凄まじい形相だね」

「荷渡、一つ確認しておくが、お前は黒歴史を抹消する役割なんだよな」

「もちろんさ」

「だったら僕の黒歴史をいちいち掘り返さないでくれるか?」

「正義の味方ごっこも黒歴史だったの? <正義の味方物語>はどうしようもなくて哀れになるほど黒歴史だけどさ、正義の味方ごっこは黒歴史じゃあないと思うよ。あのごっこ遊びで救われた人は大勢いる。それを知っている人も大勢いる。誇ることであっても恥ずかしがることはないでしょう」

「……あれは自己満足なんだよ。他のやつがどう思おうが、僕にとっては黒歴史なんだ」

「ふーん。そういえば君はある時期を境にやめたらしいね」

 三階の廊下の窓から見える中等部の校舎の屋上へと日ノ下は目を向ける。中高一貫の空野河学園。中等部の校舎は少し遠いが、青い空の中でくっきり見える位置にある。

 高校生の日ノ下が見上げる空は真っ青で運動日和だが――<あの時>は確か地域一帯が火事になって炎に包まれてしまったかのような赤い空だった。


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