その少女、黒歴史製造中につき取扱注意!19
天津の誘導で日ノ下と浮雲は無事に外に脱出できた。住宅街の中に敷かれた道路で日ノ下は伸びをして、空気を吸い込む。外の空気がやたら新鮮に感じられた。クローゼットの中で甘い香りを吸いすぎた――あの香りは脳によろしくない。下手すると洗脳されてしまいそうだ。
洗脳の原因を作った荷渡は日ノ下の気なんて知る由もなく、相変わらずニマニマと笑っている。
「天津さんが言っていた物は無事確保したぞ」
よくよく考えれば外に持ち出す必要なんてなかった。外に脱出するのに必死で忘れていた。
手に持っていたクッションを天津に渡そうとした。その時、カバーのチャックが開いていたようで中に入っていた原稿がバラバラと落ちてきた。
「あ、すまん」
拾い上げようとしゃがむと、天津が書いた漫画が目に入ってしまう。
ああ――なるほど。確かにロリ系の漫画だ。話しに聞いてた通りエロい……。ってモデルが荷渡じゃねこれ!?
「……天津ちゃん」と、荷渡の声は小動物が威嚇する時に出すように低かった。幼怪は怒ると真顔になるというのがわかった。
「は、はい」
「ボクをモデルにするなって言ったよね?」
「……荷渡さんの恵まれた体を思い描くと手が勝手に動いてしまったんです」
「言い訳はいらないよ。これ、出版社に提出するために書いたわけじゃないんだよね? ボクが没収するから」
「わかりました……」
「ロリコンの日ノ下くんもいつまで見てるの」
言われて日ノ下は手に持っていた漫画から目を反らす。
誤解しないで欲しいが、けっしてロリコンではない。ないのだが――モデルが目の前にいるエロ漫画は想像力が二倍にも三倍にもなって破壊力が凄まじかった。
荷渡は日ノ下から原稿をむしり取る。
「あーあ、今夜のおかずを提供しちゃったよ」
「おかずにするわけないだろぅ」
最後の方は声が小さくなってしまったのがくやしい。
「いや、別にいいんだよ。諸悪の根源は天津ちゃんにあるし、日ノ下くんも男の子でロリコンだからね」
「ロリコンじゃない!」
自分の体型を把握し、それを武器として使ってくる相手は厄介だ。真顔は終わり、例のニマニマとした笑みを浮かべ日ノ下を見てくる。
自分がモデルのエロ漫画見られて相手をなじれる女子なんて日本にどれだけいるだろうか。
さっきズボンのすそを握られたのは、びびっていたからではなさそうだ……。きっとそうだ。こんなに荷渡は図太いのだから。
一刻も早く荷渡の前からとんずらしたかった。その意思が届いたのかわからないが、荷渡の号令が響く。
「よし、今日はお疲れ様。BHEの活動はおしまいだよ。解散!」
こうして日ノ下のBHE参加初日は幕を下ろしたのだった。