その少女、黒歴史製造中につき取扱注意!16
夢に向かうその真剣さに、真摯さに少しだけ――敬意を払えた。
天津が口を押さえて驚き、荷渡は肩をすくめた。
「よーし、行こうか」
荷渡がサイズの合っていない制服を腕まくりしながら、ゴーサインを出した。
天津が玄関に入ったのを見送り、日ノ下と荷渡は裏口に向かった。
「スパイごっこみたいで面白くない?」
「心臓握られてるような感じだな」
「緊張してるんだ。そのゴキブリみたいな触覚はやしてるから隠密行動は得意だと思ってたんだけど」
日ノ下の前髪は、一部分だけやたら伸びやすく元気がいい。常にぴょんと跳ねた状態になっているのを荷渡はごきぶりの触覚と称した。
「ゴキブリじゃない! 大体一本しか伸びてないだろうが。触覚なら二本生えてないとおかしい」
「お静かに。隠密行動中に声を荒げたらダメだよぉ」
「後で覚えてろよ……」
すでに天津家の敷地内でこそこそ行動しているのが見つかったら不審者扱いされてしまう。よく手入れの行き届いた庭を通り、裏口から天津に借りた鍵を使って家に入る。
「いやぁ、相変わらずいい家に住んでるね」
荷渡は自分の家に上がるかのように靴を脱いで廊下に上がる。
「日ノ下くんは三階を探してね。ボクは二階に行くからさ。あ、もちろん痕跡を残したらダメだよ。ルパンのようにエレガントに漁っていこう」
「漫画原稿の物色なんてルパンも落ちたもんだな。はぁ……。胃が痛い」
「心臓の次は胃なの。君の内臓はボロボロだね。将来が心配だよ。まぁ安心しなよ日ノ下くん。失敗してもボクがカバーするからさ」
情けないけれど、荷渡の小さな体に頼もしさすら感じてしまった。
言い訳させてほしい。初めてこんな泥棒まがいのことをして不安にならずにいられる人間がいるだろうか? いたとしたらそいつを解剖して肝っ玉がどうなっているのか見てみたい。
日ノ下は言われた通りに三階に上る。心臓が脈をうち、酸欠にでもなったかのように呼吸が早まる。見つかったときのことばかり考えてしまう。
BHEの活動が正義の味方ごっこと似ているって荷渡が言ってたがかけ離れてるよな……。
「三階の隠し場所候補は両親の寝室と物置でよかったか?」
「そうだね。愛の営みをし――」
「それ以上言うな」
「日ノ下くん初心ぅ」
一応天津も聞いてるというのにとんでもないことを言うやつだ。それに、日ノ下も探し辛くなる。
「僕はお前の余裕が羨ましい」
三階にある部屋は天津の部屋、両親の寝室、それと物置だ。予め天津から間取りと部屋の特徴は聞いていたので迷うことはなかった。
日ノ下はまず物置を物色する。バーベキューセットやキャンプ用具、アルバムなど普段使わないアイテムが統一感なく段ボールにしまわれていた。小部屋だが段ボールが大量に山積みにされているので全て探すとなると手間だ。
が、逆に言えば隠す手間もかかる。天津が言うにはかなりの量のアイテムが没収された。おそらくあるとすれば一番上の段ボールだ。よっぽど見つかっては困る物を隠そうとしない限り、わざわざ入れ替えるような手間がかかる行為はしないだろう。
五分ほどで物色を終えたが、その時間がとても長く感じられた。