その少女、黒歴史製造中につき取扱注意!15
今回の仕事場になる天津の家の前まで日ノ下達は移動した。
閑散とした住宅街には似合わない三階建ての家を日ノ下は見上げた。高い屋根の上に広がる空は茜色に染まりはじめている。
「でかいな……うちの家の三倍はあるぞ」
ここら辺で一番大きな家で一番値も張るだろう。それが天津の住居だ。大金持ちではなくとも、裕福な家庭であるのは間違いない。
見上げていると首が痛くなってきたので日ノ下はパートナーになる二人を見た。全員学校から直接この場まで来たので、制服姿だ。天津は相変わらず荷渡を包み込むようにして立っている。
ただ、変人という先入観をなくしてみれば、なるほど天津はちょっとしたお嬢さんに見える。
髪の毛にへばりつく埃が残念ではあるが……。
「作戦は簡単。天津ちゃんが現在家にいるお母さんを玄関で足止め。その隙にボクと日ノ下くんが複数ある隠し場所の候補を分担して漁る。オーケー?」
荷渡は家ではなく、日ノ下を見上げながらそう言った。
「……ノーと言ってもやらせるんだろ」
「よくわかってるね。連絡は随時、これで取ろう」
荷渡の小さな手のひらにはマイク付きのワイヤレスイヤホンが乗っかっていた。日ノ下と天津はそれを受け取る。BHEではこういう小道具まで用意済みらしい。
「日ノ下くんはスカイブを入れてる?」
「入れてるが……」
「なら、ID交換しよう。これから先、スカイブの通信機能はいろいろ必要になるからねえ。」
作戦中に通信を取るために互いにフレンド申請をする。それが終わった後に、日ノ下はイヤホンを左耳に装着した。ただでさえ聴覚に難があるというのに、左耳をふさがれて周囲の音がさらに聞きづらくなってしまった。通話がはじまるまでは、二人の会話を聞き逃さないように交互に唇を注視する。
「もし家の中にいるのが見つかったときは――マジで助けてくれよ」
「わかってます! けど、二人とも見つかった場合は荷渡さんのロリータな体の確保と救助を優先しますのでご了承ください。もちろん、二人とも助けますよ! 安心してください!」
眩しくなるような笑顔を浮かべる天津にでこぴんをしたくなった。
露骨な荷渡贔屓だ……。最終的に助けられるというなら別にいいのだが。
「私は表の玄関でお母さんを引き留めておきますので、裏口から入ってください。鍵は渡しておきます。もし、もし仮に私の作品が見つかってしまえば、私の夢である漫画家人生が始まる前に終わってしまいます……」
この時の天津の表情は真剣そのものだった。
漫画に賭けている情熱が日ノ下にも伝わってきた。人の夢はそれぞれだ。天津春香の夢の形は、普通の人から見たらジャンルが歪かもしれないが漫画家になることなのだ。
「私の命運――お二人に託しました」
「任せてください」と、日ノ下の口から敬語が出てきた。