その少女、黒歴史製造中につき取扱注意!12
更衣室を出て移動を開始する。荷渡の一歩後ろをついて行き、廊下を経由して二つの階段を上がり、屋上へ向かうために階段に差し掛かる。
「日ノ下くん、スカート中を見たいからって後ろを歩いたらだめだよ」
「ちげえよ。ふらついたとき支えられるから――とかでもないが」
階段一段分の差で荷渡の頭はようやく日ノ下と同じ高さになるのに、スカートの中が見えるわけがない。
三階から屋上へと続く階段の中ごろに差し掛かった時、一段先を歩いていた荷渡がくるりと振り返った。
「見てないぞ」
「見てるよ」
反論しようと思ったが、雲のかかった夜空のような荷渡の瞳が日ノ下を捉えていないのに気づく。日ノ下のいる地点のさらに下を見ている。
日ノ下もつられて下を見ると――踊り場に化物がいた。
それは床に這いつくばってこちらをじっと見ている。一応この学校の女子生徒の形をしているのだが、長い髪が顔の前に垂れているせいで異様に恐ろしい。井戸から出て来たり、このまま四足歩行で階段を上がってきても不思議ではない迫力だ。
その化物をニマニマ笑って見ていられる荷渡はさすが幼怪である。
「幼怪と化物に挟まれた!」と、日ノ下は思ったことを呟いてしまった。映画によくある化物VS化物シリーズに巻き込まれるというレアな気分を味わえた。いつだって一般人は化物の戦いに巻き込まれて理不尽な目に合うだけに、すぐにでも逃げてしまいたい。
「ボクは人間だよ」
下にいるやつが化物であるのを否定しない荷渡だった。
「やぁ天津ちゃん。屋上が待ち合わせだったから、大方<そういうこと>をすると思ってたよ」
よくよく見ると、長髪の間から見える眼鏡の奥にある瞳が荷渡のスカートの中を脳内に焼き付けようとしている。男がやっていたら警察にお世話になるのは間違いない。
「ッッ! スパッツとはやりますね! けど、スパッツはスパッツで細い足が強調されてエロスを感じます!」
これを言ったのは、下にいる天津と呼ばれた女子生徒で、日ノ下はどうやら化物と変態を取り違えていたようだった。
「待ち合わせは屋上だったね。さ、行こうか日ノ下くん」
まるで取り合わずに、荷渡は屋上まで歩いて行った。天津が四足歩行で階段を上がってきたらどうしようなどと考えながら、日ノ下も屋上に出た。
天井の灰色が海のように透き通った青に塗り替わる。春風が心地よく、今日は運動日和だ。
ちゃんと二足歩行で上ってきた天津が、最後に屋上に出てきた。