その少女、黒歴史製造中につき取扱注意!10
「日ノ下くん?」
いつの間にか日ノ下の足は止まり、物思いにふけってしまっていた。数歩先を行っていた荷渡が、その黒い瞳で不思議そうに日ノ下を見上げていた。
「結局、自分を救えるのは自分だけなんだって気づいたんだよ」
「ま、結局はそうなのかもね。でもさ、赤の他人でも手助けができるのは間違いないよ。初めから最後まで救うのが正義の味方ってわけでもないでしょ」
荷渡の言い分も確かに合っていた。日ノ下は単にあの時、味わった無力感に負けただけなのかもしれない。そうだとすれば、黒かった思い出がさらに黒くなるだけだ。
「そんなことより、さっさとBHEの拠点に行こうぜ」
消してしまいたい過去に違いなかったので、日ノ下は話を逸らす。
「立ち止まってたのは君なのにね。話を逸らしたいのが見え見えだね」
幼怪のニマニマとした笑みは馬に顔を舐められるかのような不快感がある。
高等部には新旧二つの校舎があり、新校舎の方が主に授業で使われている。旧校舎の方は、大体文科系の部活に部室として教室が割り振られている。
二人は新校舎から旧校舎の一階に移動した。掃除はこまめにしているはずなのだが、廊下は薄汚れている。部活の人間がいくつか教室を使ってはいるが、廊下には人はいない。この学校では運動部の方が活発で文科系の部活は数が少ない。おかげで旧校舎の教室は余りがちだ。
一階のもっとも端っこにあり、出入り口からもっとも遠い場所で荷渡の足が止まる。
「ここだよ」
「……? 拠点っていうからには部屋なんだろ? ここに教室はないぞ」
「これこれ」
荷渡が指さしたのは、更衣室――しかも女子の。扉には使用禁止の張り紙が張られている。
「いやいやいやいや、冗談きついぞ荷渡。考えてみろ。もし僕がここに入っているのを見られたとする――僕の評価が地に這うだろう」
「日ノ下くんならたとえ女子更衣室で女の子の下着を嗅いでいようと昔の功績で許してもらえるさ」
「僕はどんだけ偉大な功績残したんだよ! 残してねえから! 残したの黒歴史だからな!」
「つべこべ言わない。見つかりたくないなら君にできるのは入るとき誰かに見られてないか気を付けるくらいだよ。あとこれは役得じゃないの? 日ノ下くんは男の子なら誰もが妄想する夢を一つ叶えられるんだよ。もう使われていないとはいえ、女子更衣室に入ってみたいくない?」
「……そりゃあ正直に言えば入ってみたいが」
「なら何の問題もないよ」
そう言って女の荷渡はまったく周りを気にせずに更衣室に入っていった。