第96話
騎士の宿舎を後にした俺たちは、それからすぐにギルドへと向かった。
「……ギルドで何をするんですか?」
「情報を集めます」
「……リン様がいなくなったことは誰にも言えないんですよ? どうやってですか?」
「別にリンに関して聞くんじゃなくて……どこに勇者様たちが向かったのか、それを調べるんです」
「えーと、どういうことですか?」
「今日、リンたちが何を討伐したのか、それを聞けば、俺たちもそこへ調査に行けますよね?」
「あ、ああそうでしたね! そういえば、どこで依頼を受けたのかも聞いていませんでした!」
リスティナさんが感心したようにこちらを見てくる。
「それなら、騎士にそれとなーく聞けばよかったんじゃないですか?」
「……いや、絶対教えてくれませんよ。俺たちに何かあったらって向こうも思いますし」
「……あ、そうですね……」
というわけで、ギルドについた。
ギルドの受付に聞くと、すぐにその情報は手に入った。
……この街から西にいったところで魔物が発生していたらしい。
今はもう大丈夫なようだが、危険はまだあるかもしれないから近づかないでほしい、という話だった。
「それじゃあ、行きますか」
「はいっ」
「ヴァー」
俺たちは西門を抜け、そのまままっすぐに進んでいく。
「……このあたり、らしいですね」
俺は購入した地図と今いる場所を照らしあわせる。
……といってもだ。
戦闘の後と思われる大地の陥没があちこちにあったので、まず間違いようがなかった。
魔石で作られた明かりを手に持っていたリスティナさんが、すっと周囲を照らすように持ち上げた。
「この辺りで、リン様は黒い渦に飲まれた……ですよね?」
「……そうですね。少し、周囲を探索してみましょうか」
「そうですね、何か見つかるといいですね!」
「……はい」
リスティナさんが俺を元気づけるためにか、笑顔とともにそう言ってくれた。
……何か見つかれば。
そう思いながら俺は周囲を歩いていく。
リスティナさんのほうに、ヴァルをつけた。……魔物と戦うとき、ヴァルがいたほうがいいだろうと思ったからだ。
俺も手に持っていた明かりを使って、周囲を探していく。
リン……無事でいてくれ。
勇者、にならなければ……リンは今もきっと宿の看板娘だったんだ。
そんなリンの命を奪うようなことだけはしてほしくなかった。
もしもリンに何かあったら、もう一度神様を恨むことになるかもしれない。
そんなことを考えながら、何かリンに繋がる証拠を探していた俺は……そこで、足を止めた。
「黒い……渦」
そいつは、目の前にあった。
……あった、のだろうか? それとも、いま現れたのか?
分からない……だが、これが、リンを飲み込んだ黒い渦なんじゃないだろうか?
俺はごくりと唾を飲み込む。
その時だった。リスティナさんがやってきた。
「先輩……っ! ってそれ、黒い渦じゃ――!」
「……は、はい。たぶん、リンを飲み込んだもの……と思われます」
騎士たちでも見つけられなかった黒い渦……。
まさか、騎士たちがこれを見逃すとも思えなかった。
……ということは、今ここに現れたんだろう。
……何が原因で発生したんだ?
騎士たちと状況で変化しているのは、人くらいだろう。
俺に反応したのか? それともリスティナさんか? ……それとも、ヴァルか?
理由は分からないが、この黒い渦の先にリンがいる……っ!
「リスティナさんは、この渦を騎士団に報告してください」
「れ、レリウス先輩はどうするんですか!?」
……そんなもの、きまっている。
「この渦に入ろうと思います。もしかしたら、リンに会えるかもしれませんからっ」
「い、いや待ってください! 危険ですよ!?」
「その危険な場所にリンがいるかもしれないのなら、助けないと!」
「いや、先輩だって危険じゃないですか! ていうか、勇者に危険なものが、先輩にどうにかなるんですか!?」
「そ、そうかもしれませんけど……っ」
……なら、このままこの渦を見張っていろというのだろうか?
俺は唇をぎゅっと噛んでから、リスティナさんを見る。
「……お願いします。俺、ちょっと様子を見てきますから!」
「もう! レリウス先輩! ダメですって!」
リスティナさんが俺の腕をつかんできた。
だが、俺のほうが力は強い。
俺はリスティナさんの制止を無視するように、掴む手を振り払って黒い渦へと足を踏み込んだ。
俺の体が黒い渦へと入り……そのまま体が、落ちていく。
辺りを見回す。
……ここはどこだ? 周囲は黒い空間で何もなかった。
やがて、俺の意識が遠のいていった。
〇
目を覚ますとそこは……見たこともない大地だった。
落ちて来た……と思うのだが、俺の体に傷はない。
体を起こしてみる……怪我なども一切していない。
……ここは、一体どこなのだろうか?
周囲を見ても、リンの姿はない。
「リンー!」
声をあげたが、どこからも返事は戻ってこなかった。
俺は明かりを持ち上げ、周囲を照らしてみる。
だが、やはり何も見当たらない。
……リンも俺と同じようにあの渦に飲まれ、この大地に来たのなら……周囲の散策をしているかもしれない。
「リンー!」
声を張りあげながら、俺はその大地を歩きだした。
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パーティーを追放された雑用係の少年、実は滅茶苦茶有能だった件 ~新たなパーティーで最高の仲間とともに最強を目指します~
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