表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

97/115

第94話


 次の日の朝。

 ……一応、眠りにはつけたが、それでもまったく緊張しなかったということはない。

 ……むしろ、かなり緊張した。


 それでも睡眠をとっておかないと次の日に堪えるからな。

 何とか無理矢理眠った感じだった。

 起床と同時、リスティナさんは顔を枕に押し当てていた。


「……先輩、寝起きの顔を見られたくないので一度外に出てもらってもいいですか?」

「……そんな気にすることなんですか?」

「乙女にとっては大問題なんです! お願いですから、外に出ていてください!」

「ヴァー」


 こくこく、とヴァルも頷いている。

 ……ヴァルも一応メスだからわかるのかもしれない。


「ヴァルも外に出ていてくださいっ」

「……ヴァー」


 ヴァルは寂し気に鳴いて、俺たちは揃って廊下に出た。

 俺は外に出て、水魔石の水道があったのでそこで顔を洗う。

 顔を洗って部屋に戻ると、リスティナさんが扉を開けてくれる。


 準備はできたようだ。いつものリスティナさんがそこにいた。


「ありがとうございました」

「いえ……それじゃあ朝食でもたべましょうか」

「そうですね」


 俺たちは揃って部屋を出て、一階の食堂へと入った。

 食堂に入った俺たちは、そこで朝食を食べていた。


 食べていたのだが……冒険者たちの残念そうな声が耳に届いた。


「……勇者様、朝早くに出発されたそうだぜ?」

「そうなのかぁ……一目でいいから見たかったんだけどなぁ」


 ……出発?

 まさか、すでに町を出発したのか?

 いや、でも魔物狩りをするという話だったからな……。


「まあでも、また帰りに見られるかもしれないしな。その時を狙おうぜ」

「そうだな!」


 ……良かった。どうやら、魔物狩りに行くだけのようだな。

 それにしても、朝早いんだな……。リンが出発したときは、まだ俺は寝ているところだっただろう。


「先輩も帰りに見に行くんですか?」

「……そのつもりですね」

「それなら、午前中は町を見て回りませんか? 私、何度か来たことありますから、紹介できますよ?」


 どうせやることもないしな。


「それなら、お願いします」

「はい、お任せください!」


 びしっとリスティナさんが敬礼をする。

 ……相変わらず、元気だな。

 そんなことを思いながら、朝食を終えた後、宿を出た。


「先輩はどんな店に行きたいとかありますか?」

「……特にはないですね。あっ、一応ギルドとかは見てみたいですね」

「えー、可愛い後輩と行きたい場所がそこだけなんですか?」

「逆に、どのような場所を要求するのが普通なんですか?」


 可愛い後輩、とやらができたことがないので聞いてみた。

 リスティナさんは顎に手を当てたあと、眉間を寄せた。


「……どういうところに行くのが普通なんですかね?」

「えぇ……。リスティナさん、つきあっている人とかいるんじゃなかったんでしたっけ?」

「い、いますよ! え、ええいますとも! もう、男の人のデートとかばっちりですから!」

「……それなら、お任せしますよ」


 デートじゃないんだけど……といってもからかわれるだけだろう。

 リスティナさんは、なぜか慌てた様子で続けた。


「ど、どういうところに行きたいんですか?」

「え、話戻っているんですけど……」

「いや、だって! わ、私もそんなにたくさんの経験があるわけではないのでっ! そ、そんな遊んでいるように見えますか!?」

「……わ、わりと」

「が、がーん……っ」


 リスティナさん、何やらショックを受けている。

 ……とはいっても、見た目からして遊んでいるようにみえるしな。


「……とりあえず、ギルドに行ってから色々考えますか?」

「そう……ですね。はい、じゃあまずはギルドに行きましょうか」


 リスティナさんがそういってから歩きだす。

 俺も彼女とともに歩いていくのだが、どうにも人が多い。

 人にぶつからないように歩いていたのだが、それでもあまりに人が多く、俺はリスティナさんの手へと手を伸ばした。


「リスティナさん、これ迷子になりますから手をつないでもいいですか?」

「も、もうつないでいるじゃないですか!」

「……すみませんっ。ていうか、本当に見失いそうだったので!」


 まるで祭りだ。

 リスティナさんが手をぎゅっと握ってきた。


「も、もう先輩は……そんなに私と手を繋ぎたかったんですか?」

「ええ、まあ……」


 それで納得してくれるのなら、そうしておいたほうがいいだろう。

 そんな投げやりな気持ちで頷くと、リスティナさんは目を見開いて耳まで真っ赤にしてしまった。


 ……照れているようだ。そんな反撃に弱いのなら、初めから攻撃してこなければいいのに。

 とりあえず、ヴァルは一緒についてきている。

 俺たちは人をかきわけるようにして、ギルドへと向かった。


 通りを抜けると、さすがに人も減ってきた。

 ギルドに到着したのはそれから数分後だった。


 ひとまず、目的だったギルドへと入る。

 ギルド、といってもどこもそう造りは変わらない。

 ギルドの依頼などを見ていると、リスティナさんが隣に並んだ。


「何か、依頼でも受けますか?」

「……いや、さすがに今はいいですかね」


 お金に困っているわけでもないしな。

 リスティナさんもいるわけだし。


「先輩、ここでの用事が済んだら冒険者通りを見て回りませんか?」

「ええ、いいですよ。それじゃあ、行きましょうか」

「もういいんですか?」

「はい。他の街のギルドを見てみたかっただけですので。それじゃあ、行きましょうか」

 

 そういってギルドの外に出た。

 出たところで、俺の右手が掴まれた。

 見ると、わずかに頬を染めながらからかうようにこちらを見てくるリスティナさん。


「また、手を……繋いでも良いですか?」

「え、ええ……いいですよ」


 嬉しそうに、どこか恥ずかしそうに微笑んだリスティナさん。

 ……からかう様子がないようなので、それが俺をまたドキリとさせた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ