第91話
俺が仕事をしている宿があるカルラスの街へと戻ってきた。
久しぶりに宿に戻ってきたのだが……俺がいなくても随分と仕事は回っている様子だった。
……リンの時もそうだったが、誰かがいなくなってもそれが誰かに代われるような仕事だと、案外すぐに居場所というのはなくなってしまうんだよな。
自分の部屋へと移動する。
部屋で待っていたヴァルの頭を撫でながら色々と考えていた。
俺も……何か自分にしかできないことでも探していこうかな。
俺にしかできないこと……それは、鍛冶だろう。
色々なものを造れる俺の能力なら、その道で生きるというのも悪くはないだろう。
そんなことを考えながら、自分の能力を確認していたときだった。
レベルが30に到達していることに気づいた。
……最近、あまりレベルを意識してはいなかったが、そんなものもあったな。
レベル30、か。かなり高くなってはいるが、これで果たしてできることが何か増えたのだろうか?
そんなことを考えていると、眼前に文字が表示された。
『レベル30に到達したのを確認。新しい能力を獲得可能になりました』
……新しい能力?
気になってその文字をさらに見ていく。
『転生可能。転生しますか?』
……転生? 一体どういうことだ?
転生という言葉自体は知っている。
宗教の一つの概念としてある。
善行を積んだ人には来世があるというものだ。
……神に背くようなことをしなければ、その人間は救われる、というものだ。
だが、ここでの転生というのはどういうことなんだろうか?
非常に、気になっていた。
俺はごくりと唾を飲みこみ、転生について調べていく。
……どうやら、眼前に文字などを表示させることで色々と調べられるようだった。
転生を中心に調べていった俺は、そこで――一つの文章を見つけた。
『転生することで新しい能力を獲得できます。また、レベル上限の解放が行われます』
……新しい能力。
さらに文章を読み進めていく。
『転生で獲得可能な能力は神器の製作になります』
「神器の製作!?」
思わず、声をあげてしまう。抱えていたヴァルが驚いたように首をこちらに向けてくる。
悪い悪い……驚かせてしまったよな。
頭を撫でながら、俺はさらに文字を読み進めていく。
『ただし、転生することで以下のデメリットも発生します。レベルが1に戻る。これまでに作製可能となったもののすべてを失う。これまでに付与可能となったスキルなどもすべて失います。また、レベルに依存して作製できるものが変化していきます』
……なるほど、な。
転生することでレベルが1に戻る。
今迄に作れたものもすべて失う。
だが――それらを天秤にかけても、この神器の製作が可能という部分に大きな魅力を感じた。
俺がどうしても手に届かないほどの力を手に入れることができる神器。
これさえ手に入れば、リンを助けることもできるかもしれない。
……ただ、問題はこの転生だ。
転生が……本当に新しい人生を歩むことであるのなら、俺は絶対に選択することができなかった。
だって……俺はリンを助けるために今鍛冶の能力を高めているのだ。
転生によって強い力を手に入れても、そこにリンがいないのであれば意味がなくなる。
転生についてさらに調べていった時だった。
新しい文章が出現した。
『転生。レベルが1に戻ることをさします。一度死に、新たな人生を歩むものとは同義ではありません』
……転生についての解説がそこで現れた。
……まるで、こちらの疑問に対して『鍛冶師』が答えてくれたようだった。
これならば、またレベルをあげれば作れるものも増えていくだろう。
ならば――転生して、レベルを1に戻しても大丈夫なのではないだろうか?
俺は眼前に現れた転生、という文字に指を伸ばす。
これを押せば……確実に何かが変わる。
本能がそれを理解する。
俺は抱えていたヴァルをぎゅっと抱きしめる。
「ヴぁー?」
「ヴァル……転生を押しても大丈夫かな?」
「……ヴァ!」
ヴァルは考えるように首を傾げたあと、こくりと首を縦に振った。
……ヴァルは俺が作り出した存在だ。
だから、俺の望む答えを用意しているとも思った。
……だが、それでも勢いの良いヴァルの返事を聞いて、少しだけ悩みが軽くなったのも事実だった。
やる、か。
さらに上の能力を手に入れるには、ある程度の犠牲も必要だろう。
そう思った俺は、眼前に表示された『転生』という文字に指を伸ばす。
ぽちっと、押した感覚があった。『転生』という文字が沈む。……まだ、転生は完了していない。
この指を離せば、恐らく『転生』するのだろう。
俺は文字から指をすっと手放した。
その瞬間だった。
どくん、と胸が一度大きく脈打った。
息苦しさに襲われる。
すぐに胸に手をあて、何度も荒く息をついた。
心配そうにヴァルが俺の顔を見てくる。
そんなヴァルに、苦笑とともに片手を向け何とか痛みをこらえる。
痛みはやがて、すっと消えた。
だが、同時に俺の意識も強制的に落とされるような感覚――。まるで、部屋の電気を消すかのように俺はその場で倒れてしまった。
ベッドがあってよかったな。
そんなことを思いながら、俺はベッドに体を沈めるようにして、目を閉じた。
ヴァルの鳴き声だけが、遠くに響いていた。
短編書きました! サクッと勇者をざまぁする物語です!
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ユニークスキル『セーブ&ロード』持ちの俺は、何度やり直しても勇者パーティーを追放されるので、いっそ開き直ります 〜不遇扱いされた俺は勇者をざまぁ〜
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