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第87話

書籍発売しました!


書籍では、各ヒロインとのより密なエピソードも書き下ろした他、レリウスの大活躍などもあります! WEB版とは随分と変わっています!


試し読みもありますので、そちらで挿絵なども少しみられますので気になった方は見てみてください!





 フィーラさんが屋敷で暮らしているのだから、出会うかもとは考えていた。

 荷物の納品を行った際には、一切そんなことはなく、それからはリスティナさんのことしか頭になかったので、忘れていた。

 

 フィーラさんが微笑んでいる。どこか嬉しそうに見えた。

 夕焼けに、彼女の金の髪が良く映える。以前と違って、少し前髪は整えたのだろうか? それがまた彼女に良く似合っていた。


 さすが、貴族だなぁと思いつつ、彼女に出会えたことを俺は純粋に喜んでいた。


「お久しぶりです、フィーラさん。あれから体の調子はどうですか?」


 俺がフィーラさんと出会ったのは、不眠を解消するためだった。

 その時のことについて聞いてみたのだが、フィーラさんは嬉しそうに微笑んだ。


「ばっちりよ、レリウスのおかげでね」

 

 それならよかった。

 彼女の笑顔も、以前のような不機嫌そうな様子はない。


「それでレリウス、何してるのよ? なんでこの街にいるの?」

「それは、冒険者として依頼を受けたからです。今、町の外のテントで休んでるんですよ」

「あっ、レリウス冒険者だったの?」

「ええ、まあ」

「なるほど……けど、それでどうして屋敷に? もしかして、あたしに会いに来てくれたとか?」


 嬉しそうに言ってきたフィーラさん。

 

「その騎士の方にポーションの納品を行うために来たんです。あと、劇団の人に知り合いがいまして、その様子も見てみたかったんです」

「ふーん、そうなんだ」


 しゅんとフィーラさんは一度肩を落とした。

 それから、首を振って微笑んだ。


「あたしにも会いに来てくれたらよかったのに。前に言ったじゃない」

「……ですが、その、会う手段といいますか、門を突破するのも難しいじゃないですか」

「うーん……そうよねぇ。それは後で考えるとして……まだ時間はあるの?」


 一度戻ってクルアさんに報告をするべきかもと思ったが、リスティナさんに会うことも伝えていた。

 多少、時間が遅くなるのは、クルアさんも分かってくれるだろう。


「大丈夫、だと思いますね。何かあるんですか?」

「ええ、ちょっとレリウスと話したいことがあるのよ。相談ともいうわね。だから、屋敷まで来てくれない?」

「相談、ですか」

 

 一体、フィーラさんが俺に何を相談するのだろうか。

 フィーラさんなら、だいたいのことは叶えられる立場にあるはずだ。

 また、俺にしかできないようなことだろうか?


 フィーラさんとともに屋敷の方へと歩いていく。


「フィーラさん、簡単にお話を聞いてもいいですか?」

「レリウスなら、あたしがこれからやる仕事の手助けになるかなって思ったのよ」

「……俺なら、ですか?」

「ええ、そうよ。レリウスなら、適任だったし依頼も出そうか考えていたのよ」 


 俺が適任の仕事?

 そこで思い出したのは、フィーラさんには俺の鍛冶師の能力を見せたんだった。

 それが適任の仕事なのだろうか?


 フィーラさんにも内緒にしておいてくれとは言ったが、あれからも黙っていてくれているだろうか?

 フィーラさんと共に入ったのは、以前俺がベッドを作製した彼女の部屋だ。


「ほら、レリウス。こっち座って」


 彼女が椅子をひき、その対面に座る。

 俺は一度礼をしてから、席へと座った。


「そういえば、フィーラさんはたまたま俺を見つけたんですか?」

「使用人が教えてくれたのよ。レリウスみたいな人がいた、って」


 ああ、それで。

 フィーラさんが庭に出て、たまたま俺を見つけたというわけではなかったのか。

 彼女も席に座ると、まもなくしてメイドがやってきた。


 ……俺たちが屋敷に入った瞬間には動いていたようだ。

 飲み物と茶菓子を用意していた。

 伯爵家の使用人はここまでできないといけないのか。


 俺は驚きながら紅茶を頂いた。フィーラさんが肘をテーブルにつけながら、首を傾げた。


「レリウスって、しばらくあたしに付き合うってできる?」

「付き合う!? ど、どういう意味ですか!?」

「え? あ……っ! ち、ちがうわよ!? 男女のあれが、それがって意味じゃなくて! ……あたし、今度今いる避難者たちが暮らしていた場所の復興作業を手伝うの。お父様の仕事なんだけど、それを引き継ぐって感じね」


 フィーラさんが淡々と語りだした。

 ……なるほど、そういう事情があったのか。

 なのに俺は、変なことを考えてしまっていた。

 反省だ。


「ということは、建物を作ったり、とかですか?」

「うん、そんな感じ。あたしが、それらの指示だしや管理を任されたってことね。将来の花嫁修業の一環みたいなものね」

「花嫁修業、ですか」

「ええ。貴族の奥さんって、領地の管理を旦那に代わって行ったり、または旦那の補助を行わないといけないから。今回みたいな災害が発生した場合とかも対応する必要があるのよ」

「なるほど……」

「まあ、あたしは結婚なんてまだ考えてないけど、将来困らないようにってね。……けど、お父様があたしを花嫁に出してくれるかどうか」


 フィーラはふっと肩をすくめる。

 ……確かに、父親は特に親バカになりやすいよな。

 義父もそうだったなぁ。

 『リンに変な男がつかないように、レリウスが見張っているんだぞ』と、何度も言われたものだ。


 ただ、まあ気持ちはわからないでもない。


「そうなんですね。けど、結婚ですか。早いものですね。良い人と会えればいいですね」


 俺なんてそんなこと欠片も考えていない。

 誰か良い人に出会いたいというのは俺の本心でもある。

 周りには女性が多いが、だからといって皆仕事の仲間や信頼できる友人だ。


 向こうはきっとそう考えてくれているのに、こちらだけ変に意識するのは失礼だろう。


「……うーん、そうねぇ」


 フィーラさんはちょっとだけ頬を膨らませて、そう呟くようにいった。


「それで先ほどの仕事の話ですが……」

「あっ、そうだったわね。レリウスはどう? 受けてくれそう?」

「……元々、自分は宿の仕事をしていまして……そちらの仕事に支障が出ないのを確認できれば、受けられると思います」

「え、本当!?」

「はい。……ただ、その。以前、自分が能力を使ってフィーラさんのベッドを作ったときの状況は覚えていますか?」

「うん、覚えているわよ」

「……あの能力はかなり強力なものだと思いますので、できれば不特定多数の人にばれるような状況で使いたくないんです」

「そういえば、あたしとの……二人きりの内緒にするって言ったもんね」 

「ええ。ですから、隠せるような状況にできれば嬉しいのですが」

「大丈夫よ。そこはあたしが何とかうまくするわ。……それじゃあ、またあとで詳しい話をするためにレリウスのところに行ってもいい?」

「はい、そうですね。それまでに、俺も仕事が受けられるかどうか確認してみます」

「うん、お願いね」


 にこっとフィーラさんが微笑む。

 それからしばらく談笑してから、俺は屋敷を出た。


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