第85話
こちらの作品マガジンポケット様でコミカライズされます!
詳細については今後発表されていきますが、現時点では六月程度の予定みたいです!
また、4月10日……発売日が近づいてきました!
書籍では、各ヒロインとのより密なエピソードも書き下ろした他、レリウスの大活躍などもあります! WEB版とは随分と変わっていますので、気になった方は手に取って頂ければ嬉しいです!
書店ごとに、様々な特典もあります、詳細に関しては以下の下の画像等から公式サイトに飛んで確認していただくと、間違いがないと思います!
街に入るのはこれが初めてであったが、この街には数回程度は来たことがあった。
その時と比較すると、やはりどこか街の人々は落ち着きがないように見えた。
それも、あと数日もすれば落ち着くだろうか?
ホーンドラゴンが討伐されたという情報が街中に浸透すれば、あとは時間が解決してくれるだろう。
問題があるとすれば、今外にいる避難者たちにどう対応していくかという部分だろう。
一体、どうするのだろうか。
アルスゥス家は、その辺りについても考えないといけないはずだ。
……大変だろうな。
その程度の感想しか浮かばなかった俺は貴族街を通り、アルスゥス家の屋敷前についた。
さすがにこの地を任されている領主の家だけあって、他の家々とは比べ物にならない。
門からちらと覗ける庭には、いくつもの馬車が並んでいる。
恐らく、あれが劇団の人たちなのではないだろうか。
門番は二人いる。俺のほうを見ていた彼らの元に近づく。
まずは持っていた箱を下した。僅かに警戒されたが、すぐにクルアさんから受け取っていた許可証を渡す。
一人が俺の前にやってきて、もう一人は箱の中身を確認するために動き出す。
「……確かに、商人クルアの遣いのものだな。よし、入れ」
「ありがとうございます」
荷物を抱えなおした俺は、そのまま中へと入っていった。
……ここまでは問題なく来られたが、そもそも今ここにリスティナさんがいるかどうかという問題もあるんだよな。
俺は騎士に言われた通り、屋敷ではなく離れの建物へと向かう。
そちらで騎士たちの道具を管理しているようだ。
騎士たちも頻繁に出入りをしている。
それだけではなく、商人と思われる人たちも出入りしている。
……確かに、大量のポーションを一人の商人から回収するのは本来であれば難しいからな。
いくつもの商人に声をかけているのは当然だろう。
その一人がクルアさんというわけだ。
俺は近くにいた騎士に声をかける。
「すみません、商人クルアの遣いでポーションの納品に来たものですが……荷物はどちらに運べばよろしいですか?」
「それなら、中まで運んでいってくれ。中にいる奴に聞けばわかるからな」
「……わかりました」
結構な荷物だから早いところ受け取ってほしいが、騎士たちもそれがわかっているからわざわざこうして俺に運ばせているのかもしれない。
中に入ると、騎士が場所を示してくれた。
俺は指定された場所に荷物をおき、それから軽く息を吐いた。
……重たかったな。
軽く肩を回してから、その離れを出た。
さて、あとは劇団の人に声をかけられる余裕があるかどうか、だな。
帰り道、ゆっくりと歩いていくのだが……運が悪いのか、今はいないのか、一人も見かけることはできなかった。
残念だ。仕方ない。今度職場で再会したときにでも、今回のことは聞いてみようか。
そんなことを思って屋敷を出たときだった。
「……あれ、レリウス先輩、ですか?」
声はどこか元気がなかった。
疲労が溜まっている、だけには見えない。
「リスティナさん、お久しぶりです」
「は、はい。……先輩こんなところで何をしているんですか? あれ、もしかして、私に会うために来たとかそんなところですか?」
からかうように微笑んでいたリスティナさん。
俺は苦笑しながら、頷いておいた。
「ええ、まあ半分はそんなところですかね」
「え? そ、そうなんですか? ……けど、半分?」
「はい。もともと、クルアさんの仕事でポーションの納品に来ていたんです」
「あっ、そうだったんですね」
リスティナさんはじろーっとこちらを見てくる。
そんな彼女を見ていた俺は、指摘するかどうか迷っていた質問を投げかけた。
「どうしたんですか?」
「な、何がですか?」
「なんだか元気がないように見えましたので」
「……」
どうやらそれは図星だったようだ。
彼女は口をぎゅっと閉ざしてしまった。
その後、明るく振舞おうとしたのか……一瞬笑顔になるのだが、それでもまた、表情を沈めてしまった。
「……その、ちょっと色々ありまして」
「話くらいは聞きますよ。……元々、リスティナさんが少し心配で来たので」
「……そうなんですか?」
「はい。出発のときにも、劇団の先輩にいじめられていたので、また何かされてないかと思いまして」
「……」
……それも、図星なようだ。
つまり、元気がない理由は、あの先輩――確か名前は、クルッタと呼ばれていただろうか。
「……その、ちょっと私が使っているテントまで来てくれませんか?」
ちょっとだけ、ドキリとしてしまった。
けど、ちょっとだけ。リスティナさんの表情を見て、彼女が冗談で言ったのではないとわかったからだ。
普段のリスティナさんなら、確実にからかうように言うんだろうけどな。
「わかりました」
俺はもう一度敷地内へと入った。一応、友人、ということで問題なく門を突破する。
リスティナさんとともに屋敷の庭に置かれたテントへと入る。
リスティナさんが戻ってきたからか、他のテントにいた人たちが現れた。
「よっ、リスティナ……っ。って……なんだその男は?」
爽やかな好青年といった男性が、じろりとこちらを見てきた。
「彼氏ですよ」
そういうと同時、リスティナさんが腕を組んできた。
いきなり何を!? 右腕に当たる柔らかな感触に思わず悲鳴をあげそうになる。
男性にピースをしていて、男性は目を見開いた。
「なんだと!? ほ、本当なのか!?」
「いや、違いますよ……」
俺は嘆息交じりにそういうが、男性は信じてくれていないのか、口をパクパクと開閉させるだけの銅像と化した。
彼の横を過ぎるとき、リスティナさんがようやく腕を解放してくれた。
「レリウス先輩、ドキッとしましたか?」
「……まあ、多少は」
「やっぱり。良い顔していて良かったです!」
リスティナさんがにこっと微笑んでから、目的のテントへと入る。
俺もそこに入り……その瞬間、おもわず固まってしまった。
テントの中には……劇で使う衣装と思われるものがあった。
泥だらけで、引き裂かれていたそれを見ていると、リスティナさんが振り返ってきた。
「これは、何ですか?」
「私が本番で着る予定の衣装、でした」
でした、といったとき、彼女の表情は悲し気に揺れた。






