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第84話

 朝。

 明るくなる前に目覚めた俺は、それから見張りを交代するためにゴンさんたちを探したが……二人も休んでいた。


 見れば、見張りの数が随分と減っていた。

 同じく、見張りをしていた冒険者に声をかける。


「見張りが減っていますが、状況が変わったんですか?」

「ああ。騎士たちが調査を行った結果、怪しい魔石ってのももう見つからなかった。それと現地に向かった騎士団が、ホーンドラゴンも討伐したらしいんでな。それで、警戒態勢も解除されたってわけだ」

「……なるほど」


 それなら多少は安心できる。

 あとは、あの迷宮クリスタルが一体どうしてこんなところにあったのかが分かればすべて解決するだろう。


 なにか自然的な理由で発生したのか。

 あるいは、誰かが意図的にそれを設置したのか。


 ここから先は、俺たちの仕事ではないだろう。


「ここにいた騎士たちもボチボチ引き上げているみたいだぜ」

「え、そうなんですか?」

「ああ。勇者様はまっさきに帰還命令が出たらしくてな。もうついさっき帰ったそうだぜ」

「勇者様? え、そんな人が来てたんですか?」

「ああ、らしいぜ。オレも姿は見てないけどな。かわいい子だったらしいぜ」

「……へぇ」

 

 ふと、脳内にベニーの姿が思い浮かんだ。

 あの子は可愛い子で、服装も他の騎士と違った。

 もしかしたら、あの子が勇者だったのだろうか?


 特に深い話をしたわけでもなかったので、彼女の詳しい状況は知らなかった。

 ……もしも勇者だったら、リンのことなど聞けたかもしれない。

 惜しいことをしたものだ。


 手紙では元気にやっている様子だったが、実際はどうかわからない。

 同じ勇者だし、色々と知っているかもしれなかったよな。

 俺は他の見張りとかわり、魔物たちの警戒を行っていった。



 〇



 その日の夕方。

 俺の仕事もひとまず休みとなり、夜までやることはなくなった。

 次は夜間の見張りを少し行うというのだが、それにしたって精々三時間程度になるということだった。

 まだ警戒こそ行っていたが、今日一日を見ても魔物との交戦は一切なかった。


 俺は街を歩いていた。

 クルアさんと合流するためにだ。

 彼女は街の広場にいるそうで、今はそこへ向かっていた。


「あっ、クルアさん」

「レリウスさん。冒険者のほうは大丈夫なんですか?」


 ちょうど商品の出し入れを行っていたクルアさんを見つけた。


「ええ。もう魔物の姿も見えなくなって、今は落ち着いていますね。こちらの商品は初日に持ってきたものですか?」

「はい。納品は済ませましたが、他にも冒険者用に持ってきたポーションなどがありますからね。それらの販売を行っていました」


 確かに、別れる前に俺は色々なものを用意しておいた。

 

「何か追加するものはありますか?」

「……そうですね。どうやらポーションの在庫が減っているようですので、お願いしてもいいですか?」

「わかりました。馬車の荷台で作製しておきますね」

「お願いします」


 冒険者がこれだけいれば、皆がポーションを購入していくだろう。

 そして、ポーションが少なくなっているとなれば、一般の人の手にも届きにくくなる。

 家庭にいくつかポーションを用意しておくのは、いざというときに便利だからな。


 切り傷はもちろん、火傷などに対してもポーションは使える。

 それらの傷は速やかに処置しないと残ってしまうからな。

 俺はクルアさんから伝えられたポーション、合計300個をまとめて製作して、すべて箱にしまっておいた。


 それから荷台を降りた俺はクルアさんの元に戻った。


「指定された個数のポーション、作製しておきましたよ」

「……本当に、凄い能力ですよね」

「最近は良く痛感しています」


 なんでも作れる万能な能力であることは自覚している。

 

「そういえばクルアさん、劇団って今どこで活動しているんですかね?」

「そうですね……この街の領主が宿を用意してくれたそうですから、そちらにいるのではないでしょうか? 日中は広場や避難者たちのもとで劇を披露していましたが、夜間は領主邸で行うそうですから」

「……なるほど。それじゃあ、さすがに俺はいけませんね」


 リスティナさんの様子でも見てこようと思ったのだが、そういうわけにはいかないようだ。


「リスティナさんに会いに行くんですか?」

「まあ、一応後輩ですから。うまくいっているのかどうか、確認だけでもしてみようと思いまして」

「それでしたら……こちらの荷物を領主邸に届ける際に少し様子を見てくるというのはどうでしょうか?」


 クルアさんが荷台から一つの箱を持ってきた。

 その中には、様々な「アクセサリー」が入っていた。

 俺が作製したものもそこにはある。何に使うのか聞いた時、そういえば領主に渡すものだとか話していた気がした。


「俺が運んでもいいんですかね?」

「大丈夫です。遣いの者に行かせるかもしれないとは伝えてありますので。こちらを持って行っていただければ、大丈夫なはずです」


 クルアさんが一枚の紙を取り出した。

 それには領主のサインが印されている。

 ちらと見ると、紙は大きなものを半分に切ったように見えた。


「これを門番に見せる際に、私の名前を伝えれば中に通してもらえますから」

「……わかりました。ありがとうございます」

「いえ、このくらいは別に。こちらこそ、納品のほうお願いしますね」


 クルアさんがすっと頭を下げてきた。

 ここの領主であるアルスゥス家なら、伝えれば通してくれるかもしれないが。

 それでも、やはり正規のやり方のほうがいいだろう。


 俺は箱を持ち上げ、それから領主邸を目指して歩き出した。




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