第81話
それから、三十分ほど、俺たちは戦い続けた。
魔物が発生する魔石を破壊したことで、魔物が増加するということはなかった。
だからこそ、魔物たちを倒せば確実に数は減っていき――最後の魔物を切り伏せたところで、俺は剣を鞘へとしまった。
「おおお! 俺たちの勝利だぁぁ!」
雄たけびが響き渡った。
……まだみんなそんな声を出せるだけの元気があったんだな。
俺も連続の戦闘を繰り返したことで、随分と疲れてしまった。
鞘に剣をしまった俺のもとへ、冒険者が飛びついてきた。
「おい! おまえ! 名前なんていうんだよ!?」
「え、えーと……レリウスですけど……」
な、なんだ?
俺は突然飛びついてきた冒険者に驚く。
というか、ずっと体を動かしていたせいで、ちょっと汗臭いんだけど……。
「凄かったなおまえ! みんな助けて回ってよ! 滅茶苦茶強いな!」
「本当にな! オレたちも助けられたしよ! ありがとな!」
声をあげる冒険者たち。
……確かに、俺は苦戦している冒険者たちを助けて回るように動いていた。
怪我人が出ては困るからな。
「おまえ、ランクはいくつなんだよ!?」
「……Eランクです」
俺がそういうと、冒険者たちはそろって目を見開いた。
それから、大声をあげて笑い、俺の背中を叩いた。
「将来有望だな! Cランクまでは余裕でいけるぜ、そんだけの実力があればな!」
「そうそう。なんたって、こいつでさえCランクあるんだからな!」
「うるせぇ!」
冒険者たちは元気だなぁ。
それでも、戦闘で怪我を負った人たちもいた。
俺はそんな人たちのほうに向かい、ポーションを取り出す。
「傷の手当はしましたか?」
「い、いえ……その、持ってきたポーションが尽きてしまって」
「それでしたら、こちらを使ってください」
「……い、いいんですか!?」
「はい」
……目の前で倒れられても困る。
俺がポーションを渡すと冒険者は嬉しそうに頭を下げた後、それを一気に飲んだ。
次の瞬間、彼は目を見開いた。
「す、凄い……っ! このポーション、すぐに傷が治った!」
「……ほ、本当か!? す、すまない! こっちにもくれないか?! 俺の仲間が怪我をしてしまって!」
「わかりました、すぐにもって行きますね」
……全員にタダで配るというのは、あまり良くないのかもしれない。
ただ、まあ、人に良いことをすればいずれは自分に返ってくるともいうしな。
これだけの規模の戦闘のあとで、金を要求してまわるのもな。
俺がポーションを渡していくと、冒険者たちは泣いて喜んでくれた。
「必ず後で礼はするからな!」
「ああ、そうだ! これで良かったら受け取ってくれ!」
「何かお礼がしたい! え、魔物の素材で余っているものがあったらそれでいい!? ああ、わかった!」
……ときどき、お金をおいていく冒険者もいたが、お金を用意できなかった冒険者もいた。
そのときに、魔物の素材でも何か余っていたらと言ったら、色々と置いていかれるようになった。
これまでに手に入れたことのない素材も手に入った。
ある意味ラッキー、だったな。
「……その数のポーションが入っているというのは、もしかしてアイテムボックスか?」
「はい。レアアイテムみたいですね。たまたま、迷宮に入ったときに手に入ったんです」
「なるほど、運が良いんだなぁ」
冒険者たちにはそれで誤魔化しておいた。
これほど効果の高いポーションは、すべて知り合いに作ってもらったということにしておいた。
あとで紹介してくれ、と言われたが、まあうまく誤魔化そう。
とにかく、すべての冒険者たちの傷は癒えた。
それが終わったところで、ゴンたちに呼ばれた。
「おい、レリウス。これから、なるべく実力のある連中で高ランク冒険者たちの様子を見に行くつもりだ。おまえも来られるか?」
「……はい、わかりました」
つまり、俺も実力がある側の人間と評価されたのだろう。
他の人たちはDランク冒険者たちであったので、場違いなのではと思ったが、俺の参加に誰も文句をつけることはなかった。
「それじゃあ、向かおうか」
まだ、高ランク冒険者たちの状況はまるで分かっていない。
俺が視覚強化を発動してみると、人々が動いているの分かった。
「……皆さん、まだ大丈夫なようですね」
「何? レリウス探知ができるのか?」
「似たようなものになりますね」
高ランク冒険者たちがいるのは、森林地帯だ。
そのためまばらにしか人の状況は分からないが、魔物と戦っているようだった。
「……ってことは強力な魔物がいやがるってことか?」
「……かも、しれませんね」
「厄介だなぁ、おい。まあ、六人で動けば、なんとかいけっかね?」
ゴンがちらとこちらを見てくる。
期待するような目を向けられたので、俺も頷いておいた。
しばらく歩き、森に到着する。
……あちこちで、戦闘の音が聞こえるな。
「レリウス、ふと疑問に思ったんだが」
ゴンさんがこちらに聞いてきた。
「なんでしょうか」
「……こっちにも魔石があるんじゃねぇか? それをどうにかしない限り、魔物の出現を押さえるのは難しいんじゃねぇか?」
「……そう、ですね。ただ、現状自分の探知では見つけられません。合流して、状況を確認するしかありませんね」
「……そうか。どっちにしろ、人を探すぞ!」
そう、ゴンさんが言った時だった。
魔物が俺たちのほうへと近づいてきた。
ぴんと背筋を伸ばした四足歩行のサソリのような魔物だ。
暗闇の中でもわかるほどに真っ赤な装甲を持っている。
両手と思われる鎌のような腕には血が付着していた。
視覚強化で、そのサソリが過ぎてきたと思われる方を見てみると、人が倒れていた。
冒険者たちだ。虫の息ではあるが、まだ生きている。
「マグマスコーピオンじゃねぇか! Cランク相当の魔物だぞ!?」
「怯むな! 全員でかかれば――!」
ゴンさんが斧を構える。他の冒険者たちが飛びかかる。
真っ先に仕掛けたのは、ギャルベロッサさんだ。その実力は、先ほどの戦いで十分にわかっている。
ギャルベロッサさんはクールな表情を険しくしながら、槍を振りぬく。
マグマスコーピオンは、その一撃をあっさりと受け止めた。
同時に、ギャルベロッサさんへと鎌を振りぬき、その左腕を跳ね飛ばした。
「ああ!?」
……恐ろしい一撃だった。
落ちた腕とともに、ギャルベロッサさんが後退する。
「大丈夫か!? ポーションで、止血、接着を行っておけ!」
効果の高いポーションであれば、一時的な切断などであれば、接着できる。
俺はすぐにギャルベロッサさんにポーションを投げ渡し、彼は汗をだらだらと流しながら治療を行い――。
次の瞬間には、ゴンさんの悲鳴が――仕掛けた別の冒険者たちの悲鳴があがっていく。
「に、逃げろ……っ! か、かなう相手じゃねぇ……っ!」
まさに、一瞬の出来事だった。
俺は驚きながらマグマスコーピオンを見据える。
マグマスコーピオンが飛びかかってきた瞬間にあわせ、剣を振りぬいた。






