第80話
打ち上げられた魔法の玉が、小さな太陽のように周囲を照らしていた。
暗闇の中でも戦闘が行えるように、誰かが放ったスキルなのだろう。
魔物と人間の雄たけびがぶつかりあう。それにあわせ、金属音が響いた。
あちこちで、魔物と人間が戦っていた。
凄まじい戦闘だ。すべての冒険者たちが魔物と一対一で戦っているような状況だ。
これほどの戦闘になるとは思っていなかった。
これでは前線で警戒していた高ランクの冒険者たちはどうなっているのだろうか。
……いや、今は考えても仕方ないか。
心配ではあったが今は自分たちのことを考えるべきだ。
と、冒険者を弾き飛ばしたゴブリンが、俺たちのほうを睨んできた。
とびかかってくる。
この場にいる魔物は多種多様だ。
ゴブリンやスライムのようなのもいれば、俺が見たことのない魔物や、ある程度名前は想像できるが戦ったことのない魔物もいた。
とりあえず、ゴブリンがこちらに向かってきているのはラッキーだった。
「とにかく近くにいるやつの魔物から倒すぞ!」
ゴンが叫ぶ。
俺達も剣を持って魔物へと突っ込んでいった。
この戦場で、パーティで動くというのは難しいだろう。
連携よりも、個人が力で魔物を押し切るしかない。
剣を振り抜く。突っ込んできたゴブリンをあっさりと切り裂くことができた。
さすが、ミスリルソードだ。だが、休む暇はない。
次の瞬間にはまた別の魔物がいた。それも倒し、奥からとびかかってきたウルフの攻撃を転がってかわす。
体を起こしたところで、メアさんの神器が火を噴いた。一瞬でウルフの体を飲み込んで焼き飛ばした。
俺が体を起こし、メアさんに背後を任せるように魔物と戦っていく。
……魔物たちも、俺たちを厄介な敵と判断したのか、さらに魔物がやってきた。
「これではキリがないな!」
メアさんが剣を振り下ろすと同時、そんなことをいう。
……確かにその通りだ。
しかし、これだけの魔物が一体どこにいたのだろうか。明らかに、この周辺に姿を隠していたとは考えられない量だった。
「メアさん、これほどの魔物が出現するような状況ってあるものなんでしょうか?」
「普通は、ありえないぞ……わけがわからない、なっ!」
話している余裕もないな。
俺も魔物を切り伏せながら、視覚強化を発動する。
魔物が発生している原因……それが分かればと思って発動したのだが、俺の目がある地点を見つけ出した。
禍々しい魔力を放つ魔石だ。
外観は普通のどこにでもあるような魔石だったが、スキルのおかげか強い魔力を感じ取れた。
その魔石の近く――地面から魔物が湧き上がっている。
……それをどうにかすれば。
そうは思ったが、その周囲を魔物が囲んでいる。まずは、あれをどうにかしないといけないだろう。
「……メアさん! ついてきてもらってもいいですか!」
「……わかった! おまえを信じるぞレリウス!」
俺が走り出すと、メアさんが背後から近づいてきた。
「レリウス、メア! 何かわかったのか!?」
俺たちの隣に、ゴンさんとギャルベロッサさんが並んだ。
俺はこくりと頷き、ある一点を指さした。
「あの魔物たちが陣取っている場所に、魔物を生み出す魔石のようなものが埋め込まれています!」
「なんだと!? そんなものがあるのか! なら、あいつらを潰せばいいんだな!?」
「はいっ!」
ゴンさんとギャルベロッサさんが顔を見合わせたあと、それぞれの神器を構える。
「オレたちで道は切り開くぜ! 頼むぜ!」
ゴンさんが叫ぶと同時、持っていた斧を振り投げた。
風を巻き込み回転する斧は、魔物の一団を切り裂いた。
「ギャン!?」
巻き込まれたゴブリンが悲鳴をあげ、そばにいたウルフなどが声をあげ、こちらへと突っ込んできた。
その集団へ、ギャルベロッサさんが槍を投げる。
槍が地面に突き刺さると、雷が周囲を切り裂いた。
俺たちはその横を抜ける。
あと少し。そこで魔石が怪しい光を放った。
現れたのはオークだった。手に斧を持っていたそいつは、勢いよく振り下ろしてきた。
俺はそれを横に跳んでかわす。メアさんがちらと俺を見て、顎を前に挙げる。
「こいつは私が倒す、任せてくれ」
そういうと、彼女の剣に火が集まる。一度振り上げたメアさんが、それを振り下ろすと勢いよく火がオークへと向かった。
その体を食い破るように火が貫いた。
オークが膝をつき、倒れる。
俺はとびかかってきたゴブリンたちを一瞬で切り伏せ、魔石へと近づく。
「これを破壊すれば――!」
俺が勢いよく剣を振り下ろしたが、壊れなかった。
なんという頑丈さだ。
普通にしていてはまず破壊できないだろう。
俺は仕方なく、ハンマーを取り出した。
今迄、こいつで破壊できなかったことはない。
思い切り振り下ろす。
一瞬魔力の壁に阻まれたが、それはあっさりと壊すことができた。
……よしっ。
これで魔物が無限に出現するのを止めることができたな。
俺は体を起こしながら、周囲へと視線を向ける。
魔石は破壊できたが、まだ戦いは終わっていない。
その証拠に魔物たちが俺たちを取り囲んでいた。
俺はすっと、視線を向ける。
先ほど破壊した、『迷宮のクリスタル』。これについて気になってはいたが、それについて考えるのは後回しだな。
「メアさんっ! 目的のものは破壊できました!」
「……そうか! あとは魔物を仕留めればいいのだな! さすがだなレリウス!」
メアさんが剣を持ち直し、周囲の魔物へと斬りかかる。
俺も、メアさんに負けていられない。
剣を持ってとびかかった。
俺の剣は魔物たちをあっさりと切り伏せる。
ほかの冒険者たちを見てみる。
……皆が神器を使っているのに、俺よりも戦うのに苦労している者が多い。
魔物の皮膚を破れず、剣を何度かふるう姿も見られた。
ミスリルソード、だからだろうか?
俺の剣は、そこらの神器よりも切れ味だけで見れば勝っているようだった。
「た、助けてくれ!」
そんなことを考えながら魔物と戦っていた俺の耳に、悲鳴が届いた。
見れば、冒険者が魔物に襲われていた。
戦った跡は見えたが、それでも力及ばず勝てなかったというところだろうか。
大地を蹴りつけ、一瞬で魔物――ゴブリンの背後へと回る。
ゴブリンは即座に俺に反応した。……戦っていて思ったが、やはりここにいる魔物たちは普通よりも強い。
振り返ったゴブリンが持っていた棍棒を振りぬいてくるが、しゃがむようにしてかわす。
その足を斬りさき、喉に剣を突き立てた。
「大丈夫ですか!」
「た、助かったよ!」
「疲労しているのであれば、他の人とともに行動して戦うといいですよ」
「そ、そうだなっ!」
見れば、長時間の戦闘もあって疲れが目立ち始めている人もいるようだ。
……とにかく、今は援護に徹するしかないな。






