第78話
ルッコスの街へと向かう商人たちの馬車が出発した。
その馬車の周囲を囲むように、護衛の馬車も出発する。
外の馬車に乗り込んでいるのは、依頼を受けた冒険者たちだ。
俺もそちら側に乗る予定だったが、クルアさんの方に乗せてもらった。
……というのも、冒険者たちの馬車は詰めるように人が乗り込んでいるため、結構居心地が悪いそうだ。
俺だって、わざわざそのような場所に乗りたくはなかった。
相談したら、クルアさんはあっさりと了承してくれたのもある。
俺とクルアさんは御者台に座っていた。
クルアさんが馬の手綱を握り、馬車は進んでいく。
今のところ、魔物に襲われるということはなかったが、油断はしていられないだろう。
「クルアさん、現地についてからの動きってもう決めているんですか?」
「私はひとまず、街に食糧の納品を行う予定ですね」
「搬出の際に、俺の能力を使って多めに荷物を運ぶんですよね」
「はい。すみませんが、お願いします」
「分かっています。そのあとはどうするんですか?」
「私は現地にて、支援活動に参加しようと考えていますが……まあ、必要がなければ別の手段も考えています」
「別の手段ですか?」
「はい。何度かの納品を繰り返すことですね」
それなら俺もそちらを手伝ってもいいかもしれない。
冒険者に出された緊急依頼では、細かく何かをしろとは記載されていない。
冒険者たちとともにルッコスの街に入り、そこで支援活動を行うことが条件だ。
ならば、商人の手伝いをすることも間違いではないだろう。
と俺たちが御者台に座っていると、幌からすっとリスティナさんが顔をのぞかせる。
「どうしたんですか、何かありましたか?」
「外の状況はどうかなーって思いまして」
「まだ特に変化はありませんね。しばらくは、平和な旅が続くと思いますよ」
「本当ですか、それならよかったです」
リスティナさんがにこっと笑った。
そういえば、あの先輩劇団員とはどうするのだろうか。
「リスティナさんは、ルッコスの街についてから劇団と合流するんですよね」
「そーですね」
「あの絡んできた嫌な先輩は大丈夫ですか?」
「どうにかしますよ。私は、実力を示すしかありませんから」
拳をぐっと固め、笑う。
すっかり調子もあがってきたようだ。
今の彼女なら、大丈夫だろう。
「何かありましたら相談してくださいね」
「えっ、なんでも相談していいですかぁ?」
「……なんでもはやめてください。面倒そうなので」
「えー先輩酷いですよー」
リスティナさんが口元を緩める。
俺たちの話を聞いていたクルアさんがちらとこちらを見てきた。
「お二人は仲がよろしいですよね」
「だそうですよ先輩! よかったですね!」
俺たちのどこが仲がいいんだ。
「クルアさん、変なこと言わないでくださいよ」
「変なことってなんですか。あっ、もしかしてレリウス先輩、恥ずかしいんですか?」
にやにやと口元を緩めるリスティナさん。
……まったく。
俺たちの馬車はルッコスを目指して進んでいく。到着予定では明後日となっていた。
今日中にどこまで進むのだろうか。そんなことを考えながら、俺は二人と談笑していた。
〇
移動日初日。
レリウスたちの馬車は途中で足を止め、拠点を作っていた。
あちこちで焚き火を囲み、人々が談笑していた。
このあたりは魔物が少ないこともあり、皆比較的落ち着いていた。
その中に、リスティナとクルアの姿もあった。
だが、ここにレリウスはいない。
冒険者として依頼を受けていたレリウスは、夜間は見張りにあたるため今はリスティナとクルアの二人きりだった。
夕食としてレリウスが作ったシチューを二人は食べ終えた。
ぽつりぽつりとした会話はあったが、二人はレリウスを通しての友人であり、突っ込んだ話はなかった。
「今日はもう寝ましょうか。明日も早いですし」
「そうですね。あっ、寝袋を貸していただいてありがとうございます!」
「大丈夫ですよ、余分に持っていましたので」
元々は二つ分しか用意していなかったが、レリウスが冒険者と合流する前に作製しておいていったものだ。
リスティナがその寝袋を用意していく。
クルアはしばらく周囲を見ていた。リスティナの近くを見て、それから遠くを見る。
考えるように顎に手をあてたあと、リスティナの隣に寝袋を敷いた。
二人はすぐに横になって、目を閉じる。
「……あの、少しいいですか?」
そんなとき。先に切り出したのはリスティナだった。
クルアが目をあけ、リスティナのほうを見る。
リスティナもまた、クルアを見ていた。
「どうされたのですか?」
「……いやぁ、ずっと気になっていたんですけど、クルアさんってレリウス先輩のことどう思っているんですか?」
「……え? え、えーと」
リスティナの質問を受けたクルアは、露骨に表情が変化した。
リスティナがそれを見て苦笑する。
「やっぱり、ある程度男性として意識しているって感じですか?」
「……えーとまあ、そうですね。なんだか放っておけないといいますか……、ちょっと抜けているところもありますからね」
「あー、確かにわかるかもしれないですね。けど、頼りになるときもありますよね」
「……はい。……リスティナさんも、意識しているんですか?」
「まー、それなりには、ですかね。でも別に、一緒にいて楽しいなーって程度ですよ」
リスティナはとぼけるような顔でそういった。
クルアは小さく息を吐く。
「……そうですか。けど、意識はしているんですね」
「ええ、まあ多少はですね」
にっとリスティナが笑い、クルアは唇をぎゅっと結ぶ。
「リスティナさん、素直に自分を出せて凄いですね」
「素直じゃないですよ、別に」
リスティナがそういってから、口元を緩める。
「そうだっ。馬車、乗せてくれてありがとうございますね!」
「……はい」
そういって、二人は目を閉じた。






