閑話 勇者たち2
二人はまさに、対極に位置する存在だったからだ。
ベニーは小柄で、生まれはスラム。
対して、ルーヴィは女性らしい体つきに、生まれは貴族。それも公爵家の三女だ。
二人は睨み合っていたが、それからルーヴィはふんとそっぽを向いた。
「ていうか、そもそもそちらは三人でこちらは二人ですわ。この勝負、意味なんてありませんわ!」
「それだって初めに確認したじゃない! ニーナをそっちに貸し出してもいいって言ったでしょ!?」
「え? わ、私!?」
「いりませんって言ったでしょう! ニーナ、わたくし相手だとビビッて何もできませんもの!」
「……うぅぅぅ、すみませんんん!」
ニーナが目尻に涙をためた。
ニーナの家は子爵の貴族だ。ルーヴィのことはよく知っていて、失礼な振る舞いが絶対に出来ない相手だと理解していた。
勇者、ということで立場の差はないが、幼い頃からそう教えられたニーナにとって、ルーヴィは決して口出しできる相手ではなかった。
そんなニーナの頭を撫でてから、ティルファがベニーとルーヴィの間に入った。
「まあまあ。ボクたち勇者なんだからそんな喧嘩しないの」
「ええ、もちろんですわ。ベニー以外とは仲良くしますもの」
「な、に、をー……っ!」
ベニーが腕を振り回し、ティルファが苦笑しながらその体を押さえる。
勝ち誇ったように腕を組み、胸を見せつけるルーヴィに、ベニーはますます顔を赤くする。
「もうまたすぐそういうこと言うんだから。ごめんねベニーちゃん」
ティルファがそういうと、ベニーは少しだけ落ち着いた様子でこくりと頷いた。
それから、二人の喧嘩もひとまずは落ち着き、五人並んで学園内のギルドへと向かう。
ここでは、学園迷宮で討伐した魔物の納品を行うことができる。
ルーヴィとベニーがアイテムボックスから取り出した素材に、受付は頬をひきつらせていた。
びっしりと受付に並べられたのはワーウルフの素材やCランク相当の魔石だった。
この学園で、それらを短時間で大量に討伐できる人間は極めて少ない。
というのも勇者たちは、同じ年代の子からすればずば抜けた力を持っていた。
ギルドカードのランクでも、すでに勇者たちはみなCランクになっていた。
彼女らの能力は、今もなお成長していて、Bランク、Aランクにだって届くかもしれないと言われていた。
そのときだった。
二人の喧嘩をおろおろとした様子で見ていたギルド職員に、ニーナがいち早く気づいた。
ニーナはちらちらとギルド職員を見る。
ギルド職員が助けを求めるようにニーナを見ていた。
ニーナも職員の気持ちが痛いほどわかってしまったようだった。
彼女は珍しく、二人の間に割って入った。
「ちょ、ちょちょちょちょちょっといいいですか!?」
「なんですのニーナ」
「何よニーナ?」
「ひぃぃぃ、すみません、すみません……っ! おえっ……」
二人ににらまれ、吐きそうになりながら、ニーナはリンの腕を掴んだ。
そこでリンとティルファも職員に気づいた。
「なんだか職員さんが話があるみたいだよ?」
リンがそういったところで、二人もさすがに顔を見合わせたあと、嘆息をついた。
「なんですの?」
「そ、そのですね。国のほうから、緊急依頼を受けていまして……勇者に最低でも一人参加してほしいそうなのですが」
国からの、依頼という部分でリンが顔を顰めた。
リンはそういった誰かに強制されて戦うのがあまり好きではなかったからだ。
反対に、ベニーは目を輝かせた。
「国からの依頼ってことは、結構重要な依頼よね!? あたしの名前を売るチャンスよね!?」
「……え、えーとまあそうですが。参加人数には制限ありませんが、その現地の人たちに勇気を与えるためにも勇者を参加させてほしいということになっています。依頼の詳細に関してはこちらに記載していますので、確認してください」
「あたし、受けるわ!」
きらきらと目を輝かせたベニーに、ルーヴィがふっと笑った。
「依頼の内容もみずに決めるなんて浅はかですわね」
「うっさいわね」
「少し貸してくださいまし……うーん、難しいですわね、読めませんわ……っ」
依頼書を受け取ったルーヴィが眉間を寄せる。
ちらとリンは依頼書を見たが、別段難しい言葉は使われていなかった。
ルーヴィはこの中で一番馬鹿だった。
「ティルファ、これはどういった依頼ですの?」
「簡単にいえば、魔物の被害が出たところに行って、勇者が元気づけるって感じかな? ボクはちょっと別の用事があるからいけないかなぁ。ベニーちゃんに任せるね」
「ええ、任されたわ。あと二人はどうするの?」
ベニーがとんと胸を張ってから、リンとニーナを見た。
「わたくしもパスですわ」
「あんたは聞いてないわよ」
そこでまたひと悶着が起きそうになったが、リンが割り込んだ。
「私もちょっと……難しいかなぁ」
「わ、わわわ私も無理です!」
ニーナとリンも首を横に振った。
「わかったわ。それじゃあ、あたしが行ってくるわ」
「不安ですわね。勇者の代表がこれで大丈夫ですの?」
「あんたが代表よりもよっぽどいいでしょうが」
「なんですの?」
「やるっていうの?」
二人がにらみ合い、ティルファがルーヴィを。リンがベニーを背後から抑えた。
「はいはい。周りに迷惑かけちゃうからこの辺りでやめようね。それじゃあ、職員さん。そういうことでお願いしてもいいかな?」
リンが小首をかしげていうと、職員はこくりと頷いた。
「はい、任せてください」
「それじゃあ、私たちは帰ろっか」
「うー、放しなさいよー!」
「暴れないって約束してくれたらね。それじゃあ、ルーヴィ、ティルファ、また明日ね」
「ええ、またですわ」
ルーヴィはティルファに運ばれていく。
リンも同じようにベニーを連れて行った。






