第74話
ゴブリン六体と戦うのは、自分への試練でもある。
以前、ラビットカンガルーとの戦いであれだけ動けた。
今なら、もっと上のレベルにまで到達できるのではないだろうか。
そんな思いとともに、俺は剣を握りしめる。
「ヴァル、少し様子を見ていてくれ。俺一人で戦ってみたいんだ」
「……ヴァー」
ヴァルも戦いたそうにこちらを見てきた。
ただ、俺の気持ちを理解してくれたのか、少し離れたところで待機してくれていた。
「次見つけたら一緒に戦おうな」
「ヴァッ!」
ヴァルがこくりと強く頷いた。
俺はヴァルを一瞥してから、ゴブリンに視線を戻し……そして近づいていく。
ゴブリンも俺の登場に気づいたようだ。ゴブリンはじっとこちらを見てくる。
魔法や遠距離から攻撃してくる奴はいないようだ。
全員が俺のほうに突っ込んでくる。
一番先頭のゴブリンへ俺が迫ると同時、固まっていたゴブリンたちが別れた。
それぞれが俺を囲むように動いている。
俺が彼らを一瞥している間に、先頭にいた二体が、突っ込んでくる。
この二体を囮に、俺の死角や対応が難しい場所へと攻撃するという算段なのだろう。
俺は正面にいたゴブリンにミスリルソードを振り下ろす。
ゴブリンは棍棒を持っていたが――悪いがその程度はあっさりと切り裂いた。
まるで抵抗なくゴブリンの体に剣が刺さる。
ゴブリンが驚いたような顔をしたのも一瞬。ミスリルソードは何の抵抗もなく、ゴブリンの腕を切り落とす。
それほどあっさりといったために、俺のほうが驚いてしまう。
……やんちゃなくらいに、力強い剣だな。
取り扱いを少し間違えれば、扱う俺にまで被害が出そうなほどだ。
剣をすぐに戻し、さらに一体へと振りぬいた。
右斜めに振り上げた剣がゴブリンの首を一閃。
血を噴き出し倒れたゴブリンから距離をとっていると、慌てた様子で周囲を囲んでいたゴブリンが突っ込んできた。
……遅いな。
ラビットカンガルーの動きについていけた今、スキルを大量に所持した今なら問題なく戦えた。
ゴブリンの攻撃をすべてかわしきり、隙を見せたゴブリンから次々に剣を振り下ろしていく。
……やみつきになるくらいの軽さと切れ味だ。
これに慣れてしまうと、これまでに作ってきた剣が恥ずかしくなるくらい、性能の差があった。
これが、ミスリルの力か。
ミスリルはスキルの威力を高めてくれるといわれていて、アクセサリーとして加工されることが多いと聞いたことがある。
ならば、ボーンショットの威力はどうなっているだろうか。
逃げ出したゴブリンへ剣を向け、ボーンショットを放った。
瞬間、放たれた魔力で作られた骨が、ブーメランのように回転してゴブリンの背中を捉えた。
……これまでよりも、威力はあがっている、と思う。
ミスリルのおかげなのかもしれないが、こちらは取り上げて賞賛するほどのものでもない気がする。
あったほうが、良い、なくても構わないくらいだろう。
残っていたゴブリンは、腰を抜かしてこちらを見ていた。
……そう、怯えられるとこちらもやりにくいが――相手は魔物だ。
最後を仕留めたところで、すべての解体を終えた。
「ヴァー!」
と、遠くで見ていたヴァルが俺のほうに跳んできた。
受け止めて、頭をなでる。
「ありがとねヴァル。見守っててくれたから動きやすかったよ」
「ヴァルー」
「わかってるって。次からは一緒に戦うぞ」
とりあえず、ミスリルソードの性能は確かめられた。
確実に、これまでの武器とは違う。
強力すぎる武器なのはもちろんだが、それを使いこなすには俺自身がもっと強くならないといけないだろう。
次の戦闘からは、スキルを外した装備品で行う。
今現在の俺の素の力を確かめておきたかったからだ。
また、スキルを一つだけつけた状態など、細かい部分を確かめていく。
ひとまず、今の俺はスキルが一切ない状況でもゴブリン相手で問題なく戦えることが分かった。
集団相手でも立ち回れるようになっていたのは驚きだ。
そして身体強化系のスキルは、数が増えていけばやはり性能が落ちるということ。
まあ、これは分かっていた。
一つだけつけた状態と、二つ目以降ではそこまで変わらない。
体の変化を確かめながら、ゴブリンを倒し、自分のスキルを見直し終えるころには、夕方になっていた。
討伐した魔物たちを売却するためにギルドへと向かう。
ギルドにつくと、何やら騒がしかった。
ちょうど、掲示板に依頼が張り出されていたところだった。
この時間だと珍しい。
緊急依頼となっていたそれを見に行く。
「……ホーンドラゴンと大量の魔物が出たみたいだぜ?」
「うわ、マジかよ。それで被害が増えたから冒険者の援軍が必要ってか」
内容としてはそのようなものだった。
現在、ここから東に数日行ったところに大量の魔物が発生してしまったらしく、近隣の村や町に被害が出ているそうだ。
ただ、被害の規模的に恐らく騎士団も出ているのではないだろうか? 必ずしも、冒険者だけで対応するということでもないだろう。
よく見ると、魔物と戦う以外にも依頼は出ていた。
それは、避難者への支援だそうだ。
現在、避難者を受け入れる場所がなく、町の外にテントを張ってどうにか対応しているところだそうだ。
主にいえば、夜間などの見張りなどが仕事のようだ。
とにかく、人手がほしいようだ。
近くの冒険者が口元を緩めていた。
「報酬は結構いいな。受けようかな」
「……いや、こういうの結構大変だぜ? 一度似たようなのをやったことがあるけど、現地の人は余裕がないから結構嫌な絡まれかたするしな」
「そうなのか?」
「そうそう。食料とかも制限されているからな。オレたちが飯を食っているのをみたら、文句つけてくる奴だっているんだからな」
「なるほどなぁ……」
食事、か。
避難者たちを受け入れられるだけの食糧なども用意されていないだろう。
だからこそ、冒険者たちを使い迷宮の魔物を狩って食料の確保などもしてほしいようだった。
周囲の冒険者の話を聞いていた時だった、肩を叩かれた。
「あっ、やっぱりレリウスだ」
俺が振り返ると、シイフさんがいた。
その隣にはウォリアさんもいる。
「二人とも、どうしたんですか?」
「いや、なんだかギルドに来たら騒がしくてね。ウォリアとはついさっき入り口で会ったんだ」
「おう、オレは今日の稼ぎの精算に来たんだよ。いやぁ、下っ端だとこういうのがあって辛いぜ」
パーティーでの役割みたいなものがあるのだろう。
「どうやら、結構大変な依頼があったみたいですよ」
俺がちらと依頼書に視線を向ける。
二人もそちらを覗きこむ。
その隣で、簡単に依頼内容について説明すると、シイフさんとウォリアさんは首を振った。
「さすがに、この依頼はきつそうだなぁ。オレはパスかな」
「僕も、かな。困っている人がいるなら協力したいけど、中々ね。レリウスは受けるの?」
「俺も受ける、まではいかないですかね。色々ありますからね」
俺たちは掲示板の前から離れた。
いつまでも見ていてもしょうがない。
ギルドを出たときだった。シイフさんがぽんと手を叩いた。
「あっ、そうだ。レリウス、ちょっと頼みたい事があったんだけど……聞いてもらえるかな?」
「なんですか?」
「その。僕にもいくつか投げナイフを作ってもらうことは可能かな? もちろん、料金は支払うつもりだけど……」
「……え? 武器をですか?」
俺が聞き返すと、シイフさんが頷いた。
「中距離を詰めるときに、使えると思ってね。レリウスが戦っているのを見て、便利だなって思ったんだ」
「……そうですか。いいですよ。何本用意しましょうか?」
「本当!? それじゃあとりあえず五本お願いできる!?」
「はい、任せてください」
シイフさんが嬉しそうに微笑んだ。
……まさか、武器の注文がされるとは思っていなかった。
もちろん、こうなってほしいとは思っていたんだけどな。
「あっ、レリウス! オレもいいか!? オレも斧だけじゃなくて小回りが利く武器も欲しかったんだよ!」
「そうですか? わかりました。剣とかも必要ですか?」
「おうっ! できるなら頼む!」
ウォリアさんも両手をあわせ、頭を下げてきた。
もちろん頼まれたのだから作るに決まっている。
……二人の武器か。
頑張って作らないとな。






