第73話
部屋でヴァルの体を撫でながら、俺はミスリルソードの作成を行っていた。
素材を手に入れたことで、ひとまずミスリルを使用することで武器の作成を行うことはできるのだが――。
これがなかなか思うようにいかなかった。
どうやら今の俺のレベルではミスリルソード作成が困難、なようだ。
できないわけではないのだが、ランクDからE程度のミスリルソードばかりになってしまっていた。
現在レベルは20。
まだプラチナ魔鉱石の装備も作れないため、仕方がないのかもしれない。
ただ、それでも低確率ではあるが、ランクBなどのミスリルソードを目撃することもあった。
つまり、まったくできないわけではない。
俺は毎日寝る前に魔力を全部消費して、作成していく。
今日の最高ランクはCランクだった。
……Bランクの時にやめればよかった。
〇
そんな日々が一週間ほど続いた。
レベルは22まであがった。ミスリルソードの作成が難しいからだろうか?
成長が早い気がした。
とはいえ、一向にミスリルソードSランクが出来上がる気がしない。
これほど作成が大変だとは思っていなかった。
レベルがあがったからか、Bランクをちらほらと見かけるようになった。
ただ、Aランクさえまだ一度もない。
レベルによるランクの制限があるのだろうか? Bランクで妥協しようか?
またあとで造りなおすことだってできるんだしな。
ただ、ここまでくると意地みたいな部分もある。
さらに繰り返して二日が経ったその時だった。
すっかり流れ作業になっていた俺は思わずハンマーで素材に戻そうとして、手を止めた。
「Sランク!?」
Aをとんでいきなり出てきて思わず声をあげる。
俺の膝の上で尻尾を揺らしていたヴァルが驚いたように尻尾を振りぬく。
俺の頬をすかんと打ち抜いた。
……いきなり声をあげてしまったことを反省しつつ、俺はミスリルソードSランクを手にもつ。
青い刀身の片刃の剣だ。
鞘から抜いたそれを何度か確認する。
スキルの付与ポイントは300と余っている。能力強化系のスキルをひとまず付与してから、その剣を何度か振ってみた。
軽い。
本当にこれで敵を斬れるのか。そんな不安が浮かぶほどに軽い剣だ。
……試してみたい。
そう思った俺は、すぐに部屋を飛び出した。
もともと今日は休み。
ヴァルも俺のあとをぷかぷかとついてきた。
〇
ギルドに入った俺はヴァルを抱えながら依頼を探していく。
「おっ、レリウス。今日は宿のほうじゃないんだな?」
こちらにやってきたのはウォリアさんだ。
彼はほかの冒険者とともにこちらへとやってくる。
ウォリアさんが一緒に行動しているというパーティーだ。
数は四人で、ウォリアさんともう一人がEランク。
残り二人がDランクなのだそうだ。
ギルドに来ると、以前一緒に戦った人たちとは時々こうして会うことがあった。
軽い会釈をすると、彼の仲間たちは掲示板のほうへと向かう。
ウォリアさんだけが俺の前に残った。
「はい。ウォリアさんたちは今日は依頼ですか? 迷宮ですか?」
「オレたちは迷宮の予定だぜ。まあ、何か旨味のある依頼があれば話は別だけどさ」
その日の状況によって依頼か迷宮かはわけるものだ。
「ただ、朝一じゃないってことはもう迷宮でほとんど確定しているってことですよね?」
「まあな」
依頼は基本的に朝一で張り出される。
良い依頼――いわゆる報酬がよかったり、依頼者がよかったり(かわいいとかっこいいとか)そういうのは大体すぐに取られる。
だから残っている依頼というのはあまりみなが受けたがらないものが多いのだ。
俺が今みた限りでもそんなものが多かった。
「レリウスは相変わらず一人で行動してるのか?」
「ヴァルー!」
「ハハハ、悪い悪い。ヴァルもいたよな」
俺の腕の中でむかーっと声をあげるヴァル。
ヴァルは何度か俺とギルドに来ていて、以前一緒に組んだ四人はすでに知っていた。
竜ということも知っていたが、この街では珍しいがそれでもペットとしては決しておかしくはない程。
竜の卵を見つけられた、という点で運のよい男としてまたギルド内で小さく話題にはなっていたそうだ。
「けど、ヴァルとの二人……一体と一人でのパーティだろ?」
「基本的にはそうですね。俺の場合は宿で仕事をしたい部分もありますしね」
「あー、そうだよなぁ。冒険者一本にすればもっと上にいけるんじゃないか?」
「どうでしょうかね? けど、俺は今のペースでゆっくりと活動していければいいと思っていますね」
別にそれほど急ぐ必要があるというわけでもない。
ただ、少しだけ気になっていたのはもう少し別の種類の魔物とも戦ってみたいということだ。
ランクEになったからといって、俺の冒険者生活がこれまでと大きく変化するということはなかった。
ただ、今のままだと、新しい魔物の素材が手に入らない。
というのも、ここ最近街は平和だ。良いことなんだが、魔物が移住してくるとかもないため新しい素材が手に入らないんだ。
魔物素材の組み合わせで、武器が強化されるというのもあるだろう。
もしかしたら、組み合わせ次第では今よりも強いものができる可能性だってある。
ただ、このあたりだと、メアさんと挑んだEランク迷宮くらいしかない。
数日かかるような遠出の依頼を受けることになるだろう。
ウォリアさんの仲間たちが依頼書を持ってやってきた。
ウォリアさんがそれじゃ、と笑って言ってパーティに合流した。
パーティかぁ。
俺もヴァルと一緒だけど、彼らのようなもっと多くの人と一緒に行動するというのにあこがれがないわけではない。
俺は依頼を確認してから、外で簡単に達成できそうなものだけを確認してから街の外へと向かった。
しばらく歩くと、ゴブリンの群れを発見した。
数は6体。
さすがに少し厳しいだろうか。
現在の装備に付与されているスキルは搦め手の毒攻撃などではなく、身体能力を強化するもので固めていた。
ウォリアさんたちと組んだときに使っていたものだ。
安全第一に、スキルの切り替えを行っておこうか?
ヴァルもいるし大丈夫か。
それに。この数を相手にしてみて、ミスリルソードの力を試してみたい気持ちもあった。






