第67話 昇格試験4
「すみません……」
しきりに頭を下げていたのは、チユだった。
彼女は先程の戦闘で、大きく混乱していた。
ちらと、ラシンさんを見ると、彼女は申し訳無さそうに頬をかいていた。
「みんな、ごめんね。チユは人見知りがすごくて……緊張しちゃっていたみたいだわ。でも、ヒーラーとしての腕は確かよ」
ラシンさんがはっきりとそういうと、チユさんはさらに申し訳無さそうに頭をさげた。
「まあ、初めはな……」
「そう、だね。さっきは別に戦闘に参加しなくても、周りの警戒をしてくれればそれでよかったからね」
とはいえ、だ。
このままでは彼女のためにもならないだろう。
「次は大丈夫そうですか?」
俺の問いに、チユさんは唇をギュッと結んだ。
「が、がんばります!」
「……はい、お願いしますね。もう一度、ゴブリンと戦いましょうか。今度はなるべくお互いに合わせて動くように心がけて、ですね。どうですかウォリアさん?」
俺の問いにウォリアさんが頷いた。
「ああ、それでいいぜ。次はチユの先制攻撃に合わせて動こうか」
「……が、がががんばります!」
チユさんがまったく動けないとなれば、大問題だ。
……例えチユさんが原因で依頼が達成できなかったとしても、連帯責任となる。
それがパーティというものだ。
俺が視覚強化を発動し、ゴブリンを探していく。
ゴブリンはすぐに見つかった。
俺たちはそちらへと移動し、ゴブリンを発見する。
「それじゃあ、チユ。頼むな」
ウォリアさんがそういうと、チユさんが杖を握りしめた。
同時に魔力が集まったのがわかった。
チユさんの魔力が十分に周囲を満たした所で、ゴブリンがこちらに気づいたようだった。
「ガアア!」
ゴブリンたちが同時に吠える。数は六体。
その声にびくりと、チユさんの肩が跳ねた。
その肩に、とんとラシンさんが手を置くと、チユさんの表情から恐れが抜けた。
「ふぁ、ファイアーボール!」
叫ぶと同時、火の玉がまっすぐにゴブリンへと向かう。
こちらへと向かっていた一番前にいたゴブリンの顔を捉える。
ゴブリンがごろごろと地面を転がっていく。
ゴブリンたちを巻き込み、何体かは足を止めたが、それでもすぐにゴブリンたちは動きだした。
こちらも、準備は出来ている。
「行くぜ!」
「ええ!」
好戦的なウォリアさんとラシンさんが突っ込んでいく。
それに数歩遅れてから、シイフさんが続いた。
俺も様子を見ながら攻撃に参加しよう。
ゴブリン六体が、同時に飛びかかってくる。
ウォリアさんが一番前に立って、攻撃を受け止める。
二体の足止めをしたのだが、さらに奥からゴブリンが飛びかかってくる。
これではウォリアさんが危険だ。
それに合わせ、ラシンさんが槍を振り抜いた。
ゴブリンの一体がそれをかわし、ラシンさんへと斬りかかる。
ラシンさんの槍を小さな動きでかわし、すぐに斬りかかってくる。
……今回のゴブリンたちは中々の連携だな。
俺は少し離れた場所から攻撃に参加しようとしているゴブリンへ、ナイフを投げた。
よろめいたゴブリンが俺を睨みつけてくる。
あくまで敵の連携を邪魔するための攻撃だ。
「お、おいラシン! 邪魔だって!」
「それはこっちのセリフよ! ちょっと!」
前衛で戦っていた二人がぶつかった。
ゴブリンたちがうまく誘導したのだろう。その隙を見たゴブリンたちが嬉しそうな声をあげる。
二人に飛びかかった一体へナイフを投げる。
さすがにずっとナイフを投げていたこともあり、ほぼ百発百中だ。
「ウォリアさんにその場は任せて、ラシンさんは一度下がってください!」
俺だって別に指示ができる人間じゃない。
だが、前衛のウォリアさんに任せるよりは俺のほうが周囲が見えている。
今も視覚強化を使いつつ、状況を確認している。
「よし、任せろ!」
「ウォリアさん、その場でとにかく暴れてゴブリンの注意をひきつけてください。隙が生まれた所で、全員で攻撃しましょう!」
さすがに、熟練の連携は無理だ。
とはいえ、相手に隙を与えたあとに仕掛ける、ある程度の連携は案外すぐにできる はずだ。
俺の意図を理解したようで、ウォリアさんがその場で斧を持ち回転した。
ゴブリンたちは慌てた様子で逃げたが、避難が間に合わず一体の体が切断される。
ウォリアさんの回転が止まった所で、ゴブリンたちが仕掛けようとしたが――そこにラシンさんとシイフさんが斬りかかる。
隙だらけだった二体の背後から、首元を一突きした。
残りは三体だ。
ウォリアさんから、ラシンさん、シイフさんにも視線を移したゴブリンたち。
数の不利を悟ったのか、逃げ出そうと背中を向ける。
「チユさん、逃げた先にはずしてもいいのでスキルをお願いします」
「わ、わわかりました!」
すでに新しいスキルの準備は出来ているだろう。
チユさんのスキルが飛び、狙い通りゴブリンたちの逃げた先に落ちた。
一体を巻き込み焼き切った。
残りの二体が怒りを示すように吠えたあと、斬りかかってくる。
だが、残りは二体だ。
この中でもっとも近接戦闘が得意なウォリアさんとラシンさんが相手する。
俺とシイフさんはゴブリンたちの視界で動く程度に留める。
そうすることで、ゴブリンたちは俺たちにも注意を払う必要がある。脳裏に一瞬でもそう浮かべば、それが隙となる。
それを見逃すほど、ウォリアさんとラシンさんは甘くない。
ウォリアさんが両断し、ラシンさんが心臓を貫いたところで、戦闘は終了となる。
死体をチユさんが焼いて処理する。……いらない魔物の素材はこうするのが基本なんだな。
そりゃあ、スキルを持っていなくて燃やせないこともあるだろうけどさ。
ラシンさんとウォリアさんがちらとこちらを見てくる。
「……レリウスって指示出しかなり的確だったけど、経験あるのか?」
「本当よね……最初の動きは明らかに駄目だったけど、レリウスの指示が出てからスムーズに戦えたわね」
二人の称賛に俺は苦笑する。
「指示を出したのは初めてですね。ただ、神器についている探知のおかげなのか多少人よりも視野が広いみたいなんですよ」
「なるほど。だから、あれほど完璧な指示が出せたんだね」
納得するようにシイフさんも頷いている。
こちらに近づいてきたチユさんもどこか嬉しそうだった。
「わ、私も……っ! 外してもいいって言ってもらったので、気楽に撃てました!」
それに関しては本当にたまたまだ。
……チユさんの性格から、難しいだろうなぁとか思っていたから口をついてでてきたにすぎない。
「それに、あのナイフ完璧だったな」
「ウォリアさんも、前衛での魔物を引きつけるの、完璧でしたよ」
「そ、そうか?」
嬉しそうにウォリアさんが頭をかいている。
ちらと、ラシンさんとシイフさんを見る。
「二人も、ウォリアさんが生み出した隙にうまく入り込めましたよね。あれのおかげでだいぶその後が楽になりましたね」
「そうかな? けど、指示が的確だったのもあるよ。あの場でスムーズに指示出しをやってくれて助かったよ」
シイフさんがそういうと、ラシンさんも頷いていた。
「そうね。戦闘の際は、レリウスに中距離で戦ってもらって、指示を出してもらうっていうのでいいかしら?」
「おう! オレは構わないぜ!」
「僕も」
「は、はい……! レ、レリウスさんにお願いしたいです!」
……全員でそういったのなら、拒否することはできないだろう。
「わかりました……頑張りますね」
まあ、頼られて悪い気はしなかった。
その後、何度かゴブリンと戦い、俺は指示の練習を、他の人達は連携の練習をしてから森に入っていった。






