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第65話 昇格試験2

 


 街を出て北へと進んでいく。

 このまま進んでいけば、ラビットカンガルーがいる森につくことになるだろう。


「二人とも、村から出てきたんですね」

「そ。今は武者修行の期間って感じね。村で戦える人がいないから、だったらあたしたちが用心棒になろうっ! ってね」

「う、うん」

「できたら、強くて若い冒険者でも見つけて――っていうのもあるけどね!」

「……うぅ」


 ラシンさんが冗談めかしていうと、チユさんは顔を真っ赤にしていた。


 ラシンさんとチユさんは、あまり人が訪れないような村出身なのだそうだ。

 村では冒険者を雇い、魔物の処理などをお願いしているが、その冒険者ももう随分な高齢なのだそうだ。


 新しい冒険者がなかなか見つからず、なら自分たちが! ということでラシンさんとチユさんは冒険者を始めたそうだ。


「確かに。いい旦那さんが見つかったら自分たちで戦う必要もなくなるかもしれませんもんね」

「そういうこと。チユなんていいもの持ってるんだからね」

「きゃああ! やめてよラシンちゃん!」


 ラシンさんがからかうようにチユさんの胸をゆする。

 ……た、確かにいいものを持っているようだ。

 俺は視線を外し、シイフさんとウォリアさんも困ったように笑っていた。


「それで、三人はどうなんですか?」

 

 次は俺たちの番だ。 

 俺は肩を軽くすくめるようにして、答える。


「あー、俺は将来暇なときに稼げるようにっていう感じですかね。お二人のような立派な考えは持ってないですよ」


 夢はある。

 最強で最高の鍛冶師になるために、というものだ。

 ただ、それをわざわざ口にする必要もないだろう。


「いやいや、十分でしょ。あたしたちだってそれに近いしね」

「は、はい」

「そう言ってもらえてよかったです。ウォリアさんはどうですか?」


 俺がウォリアさんに振ると、彼はばしんと胸を叩いて微笑んだ。


「オレはSランク冒険者になるためにっていう夢があるんだ! そのために強くなろうってな!」

「Sランクかぁ。やっぱり男の子の憧れなの?」


 ラシンさんの問いにウォリアさんが強く頷く。


「そりゃあそうだろ! な、レリウス、シイフ!」

「いや、僕はそうでもないかな」

「俺も……そこまで、ですかね」


 もちろん、Sランクに上がれるのなら上がりたいが、優先してというものはない。

 そもそも冒険者にあこがれていたのも――いや、憧れとは違うか。


 両親を殺した魔物を殺したいという気持ちが昔はあった。

 ただ、それも今はそれほどではない。

 義父と義母のおかげもあって、今はその二人に恩を返したいという気持ちのほうが強かった。


「どうやら仲間外れみたいね」


 にやり、とラシンさんが言うと、ウォリアさんが俺たちをじーっと見てきた。


「な、なんだよ! そんじゃあシイフは何かほかに目標とか夢とかあるってわけか?」

「……うーん。そうだねぇ。みんなのように立派な夢はない、かな。僕は、今は自由に動いてみたいかなって感じなんだ」

「自由に、ですか?」


 シイフの言葉に、チユさんが首を傾げた。


「うん。僕、生まれつき病弱だったんだけど、職業と神器をもらってからは凄い体が軽いんだ。だから、今は夢を探している途中って感じ、かな?」


 あはは、と微笑むようにシイフが言った。

 彼の言葉に、みんなが感心したような声をあげる。


 ……なるほどなぁ。

 神器や職業をもらって、そういう変化もあるんだな。

 俺も感心していたのだが、その時、視覚強化で魔物たちを捉えた。


 ゴブリンたちだ。


「あー、すみません。お話し中のところ申し訳ありませんが、ゴブリンを見つけました」

「え? 本当か!?」


 ウォリアさんが驚いたようにこちらを見てくる。


「はい。このまま進むと交戦しますが、どうしますか?」

「よく、わかったな」

「自分の神器に、探知系のスキルがついていますので」

「おお、マジか!? そりゃあいいな!」


 ……よかった。これで十分通じるようだ。

 鍛冶師の力や異常さは隠すつもりだが、だからと言って面倒な手間をかけたいわけじゃない。

 神器についている、で誤魔化せる部分に関しては誤魔化すつもりだ。


「それなら、魔物を探すのもラクそうね! 羨ましいわ!」


 ラシンさんも嬉しそうに微笑んでいる。

 ほっとしたように息を吐いたのはシイフさんだ。


「魔物からの不意打ちが一番恐ろしいからね。それを警戒しなくて済むのはありがたいよ。それで、リーダーどうする?」


 呼ばれたウォリアはうっとりとした表情を浮かべている。


「リーダー……いい響きだな」


 いや、そうじゃなくて対策を練らないと。

 ウォリアさんがはっとした様子で首を振ってから、俺たちを見てくる。


「そういや、お互いどんなことができるか分かってないよな? 今のうちに確認しておくか」


 そういえばそうだった。


「ウォリアさんは、近接で力を活かした戦い方で間違いありませんか?」

「お、おう! その通りだ! この斧で敵を粉砕してやるんだよ!」


 ウォリアさんが嬉しそうに言う。

 それは全員の共通認識だったようだ。


「シイフさんは、足を活かした戦いが得意ということで間違いないですか?」

「そう、だね。よくわかったね」

「装備品でおおよそわかるんですよ。ラシンさんはその中間というところですか?」

「え、ええ……そうよ。それも、見ただけでわかったの?」

「はい。それで、チユさんは遠距離攻撃と回復というところでしょうか?」

「は、はい。す、すすごいですね!」


 俺がそれぞれに確認して、すぐに情報の共有は終わる。

 皆が驚いたようにこちらを見ていたが、それを説明するために俺が自分の紹介をする。


「俺は職業が鍛冶師なんですよ。鍛冶師って武器を作れるじゃないですか? だからかわからないですが、なんとなく相手の装備しているものでどんな攻撃を繰り出すのかが想像できるんですよ」


 どうせそのうち職業に関しては話をするだろう。

 隠す必要はない。

 皆が驚いたようにこちらを見ている。


「……なるほど。けど、鍛冶師っていえば……その、えっと、アレよね?」


 言いにくそうにラシンさんが言う。

 ほかの人たちも困った様子だ。

 不遇職、というのはやはり全員が認識している。


 戦闘が終わったあとに伝えた方が良かっただろうか?

 そう思っていると、ウォリアさんが笑った。


「鍛冶師でも昇格依頼受けられるくらいには戦えるってわけだよな?」


 ウォリアさんの言葉に皆がはっとした様子でウォリアさんを見ていた。


「そうですね。俺は、この剣を使っての近接もできますが、ナイフを投げての援護もできます。パーティーの動きに合わせていきたいと思います」

「そのナイフって、鍛冶師だから作れたのか?」

「はい」

「……なるほどなぁ。わかった。そんじゃとりあえず、それぞれの力でゴブリンと戦ってみようぜ!」


 ウォリアさんがそうまとめ、他の人たちも頷いた。

 とりあえず、鍛冶師という部分は伝えられた。


 後は実戦で足手まといにならないよう動ければ問題ないだろう。


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