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第56話 便利



 スキル検証をする上で、やはりお世話になるとすればゴブリンだろう。

 それほど強くなく、しばらく放っておけばいつの間にか増殖している魔物だからだ。


 ヴァルも一緒についてきて、俺の背後でパタパタと飛んでいる。

 街の外に出た俺たちは、いつもの通りしばらく道を進んでいた。


 最近は、街付近でゴブリンを見かけることが少ない。

 そのため、結構歩く必要があった。


 それでも、以前と比べれば苦ではない。

 今はヴァルと一緒に行動できるからな。


「ヴァルー」


 時々ヴァルが俺の前にやってきて楽しそうな鳴き声をあげる。

 それを見ているとついつい口元が緩んだ。


 獣道を人々が歩いて出来上がった道を歩いていく。

 道はいくつかに別れている。迷宮を目指すもの、別の街を目指すもの。

 別の街の方角には、馬車の轍が見える。


 土の乾き具合から、まだ通ってそう時間が経っていないようだ。

 だからだろうか。そんな馬車を狙ってやってきたと思われるゴブリンの姿が見えた。


 醜悪なその顔で、ゴブリンはこちらをじっと見ていた。

 その数は三体。


 俺たちを見つけたゴブリンは嬉々とした声をあげ、それぞれの持っていた得物を振り上げる。

 武器を持っているゴブリンか。


 それも、錆びた剣、斧、槍だ。

 ……とりあえず、ヒールアタックだけは試しておきたい。

 まず取り出したのは普通のハンドガンだ。


 一番速く動いていた剣を持ったゴブリンの腹を狙う。

 引き金を引くと同時、放たれた弾丸がゴブリンの腹に直撃した。

 威力は抑えておいた。今回の目的はヒールアタックを試すこと。


 よろよろと起き上がる剣を持ったゴブリンに俺は左手で抜いたハンドガンを放った。

 そちらにはヒールアタックが付与されたハンドガンだ。

 放たれた銃弾はまっすぐにゴブリンの眉間を打ち抜いた。


 今のは通常時なら一撃で仕留められる程の威力を持った銃弾だ。

 これまでに、何度かゴブリンの体を貫通した銃弾だったが、今だけは何も起きていなかった。

 それどころか、弱っていたゴブリンが元気良く起き上がった。


 ……ヒールアタックの効果が発動したようだ。

 確かにこれは、気づかず使用していたらデメリットの武器だ。

 特に、低ランクのヒールアタックなんて引いたら最悪ではないだろうか?

 

 大して回復しないのに傷をつけることができない。

 戦闘中には中々気づきにくいだろう。


 俺はヒールアタックの付与されたハンドガンをしまいながら、後退する。

 槍のゴブリンが近づいてきていた。

 俺はすかさず後退して、ハンドガンを放った。

 

 槍のゴブリンは機敏な動きで横にとんだ。

 先程仲間がやられたのを見ていたからこそ、何かが跳んでくると予想して横に跳んでかわしたのだろう。

 

 それなりの賢さを持ったものだ。


 槍のゴブリンが体勢を直そうとしているときには、斧のゴブリンが突っ込んできていた。

 この中では一番体が大きいゴブリンだ。

 振り下ろされた一撃をかわし、俺は腰に差した剣を斧のゴブリンに突き刺した。


 ゴブリンがよろめきながら、刺さった剣を抜こうとする。


「ウェポンブレイク」


 つぶやくように言うと同時、斧のゴブリンの体に刺さっていた剣が爆発した。

 衝撃に、近づいていた剣のゴブリンが弾かれた。

 俺は倒れていた剣のゴブリンに向かって、剣を投げる。

 

 それも、ウェポンブレイクが付与されている。

 剣のゴブリンを巻き込むようにスキルが発動し、またたく間に二体が死んだ。


 仲間をやられて怒りを覚えたのだろう。

 槍のゴブリンが顔を真っ赤にして突っ込んできた。

 だが、その隙だらけの体に俺は銃弾を放った。


 ゴブリンの顔色が悪くなる。毒攻撃だ。

 よろよろと起き上がった槍のゴブリンだったが、すでに体力をかなり使っていたのだろう。

 がくりと倒れた。


「……とりあえず、ヒールアタックは便利だな」


 仲間の回復に使えるし、即時発動する。

 どれほど傷が癒えるかまではわからないが、それなりに癒せる様子でもある。

 ただ、狙いが外れて敵に当たってしまわないように注意する必要はあるな。

 

「あとは、ポーション範囲拡大かぁ。これだけはよくわからないな……」


 疲労を回復する意味でも、俺はポーションを一口飲んでみる。

 ……うーん、特に効果はわからないな。

 回復量があがっている、という様子もない。


 考えていたが分からない。とりあえずは、小腹がすいたので、食事にしよう。

 俺はできたてのパンを一つ作る。ほかほかのパンで、素手で持っているには少し熱い。


 次に、とろけたチーズを作り、パンの上にかける。

 熱々のパンとチーズが混ざり合う。とろりとチーズがこぼれ、俺は慌てて口に運ぶ。


 熱い……けど、うまい! チーズとパン。普段であれば、ここまで温かいものは中々食べることができない。

 外でこれだけの物を食べるなんてまず無理だ。


 これらはすべて魔力で生み出したものだ。

 ヴァルに餌としてあげていたのを見てから、俺は特に気にしないでスキルで作製した物を口にしていた。

 体に問題が発生したということはなかった。


 それでも、やはり家での賄いも好きだったので、今も俺は賄いも口にしていた。


 魔力さえあれば自給自足ができる。

 これほど便利な職業は他にはないだろう。

 早い所、司教にあって話がしたいものだ。


「ヴァ、ヴァルー!」


 そのときだったヴァルが何かを訴えるように声をあげた。

 ……俺のパンが食べたかったのだろうか。

 

 ヴァルは結構熱いものが苦手だ。

 温度を調節してから食べさせてやらないと、以前スープをつくったところ、熱くて涙目になってしまったのだ。


「ちょっとまってろ、ヴァル。もう一つパンつくってあげるからな」

「ヴァルー!」


 ぶんぶんと首を振る。チーズパンではなく、肉を挟んでほしいのだろうか?

 あれはあれでうまかった。

 パンに肉をはさみ、チーズやトマトなども一緒に合わせるんだ。


 そこに専用のタレやソースをかける。それらの調味料はなかなか庶民の手には届かないが、俺は一度破壊しているので作れる。


「待ってろ。肉も入れるからな」

「ヴァルー!」


 違う違う! とばかりに首を振る。

 ……なんだなんだ?

 それからヴァルは、パタパタと俺の眼前に跳んできて、腰に前足をあてる。

 それからもう一つの前足で何かを飲むような動きをしてみせた。


「喉乾いたのか?」

「ヴァル!」

 

 バカ! とばかりに尻尾を振り抜いてきた。

 頭に当たって、少し痛い。

 ヴァルは俺のポーチに視線を向け、飛びかかってくる。


 そこには何も入っていないが、誰かと狩りをするときにポーションを取り出すために使う。

 ……ポーション?

 俺がさっきポーションを飲んだときは、先程のヴァルのような動きをした。


 まさか、それか?

 俺がポーションを取り出すと、ヴァルはこくこくと頷く。

 それからヴァルは俺のネックレスをじとっと見てくる。


 ネックレスには、ポーション範囲拡大が付与されている。

 ……ヴァルが俺のネックレスを奪い取り、同時に尻尾でポーションを掴み上げる。


 ヴァルは器用にポーションを口に運んだ瞬間、俺の体が回復した。



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