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第49話 罠



 地下水道の入り口には、鍵のかかった門があった。

 リニアルさんがその鍵を開け、門を開く。

 入ってすぐ、内側から鍵を閉め、門をしっかりと閉ざした。


「この鍵はあなたにも一つ貸しておくから」

「ありがとうございます」

「全部終わったら、返却して」


 渡された鍵を受け取ると、作製可能という文字が出た。

 ……なくさないにこしたことはないが、アイテムボックスにしまうためにも、一度破壊しておいたほうがよさそうだ。


 鍵をこうして渡せるのも、ギルドカードがあるからこそだろう。

 ギルドカードの個人情報は、すべての妖精が共有しているらしい。

 一体どのような仕組みになっているかわからないが、一度でもギルドカードに登録した人はよっぽどのことがない限り妖精の追跡から逃れることはできないらしい。


 鍵を受け取った俺は、リニアルさんとともに地下水道につながる階段を下りていく。

 地下水道は薄暗く、魔道具のライトを使用してようやく先が見えるようになった。

 リニアルさんが用意していたライトを一つ受け取る。


 それなりに高価な魔道具だ。

 貴族の家や、旅をする商人が持ち歩いているのはよく聞くが、一般家庭にまではまだまだ普及していない。

 まだまだ、量産できるほどの技術はない。

 ただ……どうやら作製可能なようだ。後で、こっそりと破壊しておこうか。


「魔石は持ってる?」

「えーと……はい、ありました」


 俺は後ろのポケットに手をいれ、アイテムボックスから魔石を取り出した。

 

「持ち手部分の後ろがあくから、そこに魔石を入れれば使えるから」

「わかりました」


 言われた通り、持ち手部分後ろをあける。

 それから、魔石を中に入れると、何度か明滅を繰り返した。

 あれ、この魔石ではダメだろうか?


 俺が覗き込んだ瞬間、強い光を放った。

 目に直撃して、思わず身をひねっていると、リニアルさんの小さな笑い声が聞こえた。

 視界が回復した時、リニアルさんはすでにむすっとしたようなどこかやる気のない表情に戻っていた。


「り、リニアルさん今笑いました!?」

「少し」

「……もう、酷いじゃないですか」

「それは自爆したのが悪い」


 思い出したのか、リニアルさんはまた少し口元を緩めた。

 ……まあ、少しは距離が縮まっただろうか?

 俺とリニアルさんは、ライトを使って地下水道脇の道を歩いていく。


 俺とリニアルさんで並んで歩いて、ぎりぎりといった道だ。

 戦闘を行うことまで考慮すると、二人で行動するのは動きを狭めそうだ。


「リニアルさんの戦闘スタイルってどのようなものですか?」

「私はこの杖で殴る」

「……ええ」


 リニアルさんのやる気にあふれた言葉に、俺は驚いてしまう。

 彼女は背負っていた杖を軽く回してから、腰に差した。

 

「私の神器はこれだけど、私は近接での戦闘が好きだから」

「……そうなんですね」

「うん。だから、近接戦闘は任せて」


 ……神器が自分の夢見ていたものとは違う人もいる。

 俺だってそうだ。

 本当はリンのような、バリバリに戦える組み合わせを俺は欲していた。

 

 だけど、現実は鍛冶師だった。……いや、今ではこの職業にも悪い気はしていないんだけどな。


 世の中には、そうやって自分の意図したものとは違う神器や職業を手に入れた人もいるだろう。

 ……武器、か。

 本当に鍛冶師の武器作製は必要ないものなのだろうか?


 戦いたいのに戦えない人に、その人にあった武器を用意してあげられるのは鍛冶師だけなのではないだろうか?

 ただまあ、神器が優秀すぎて、普通の武器では足りないのは重々承知だ。


 神器に並ぶほどの武器が作れれば、あるいは話は変わってくるのかもしれない。


「これが、罠……かかってるね」


 リニアルさんが口元をゆがめる。

 そちらには、四角の結界のような障壁が展開されていた。

 障壁の中で必死に暴れているブラッドマウスが一体いた。


 床には、ブラッドマウスを捕まえるための餌が置かれている。

 ブラッドマウスはそれを食べていたのだろう。

 床に食べかすが転がっている。


「これが、罠。餌の下に置かれたこの魔石をブラッドマウスが踏むことで、小さな結界が作動する」


 リニアルさんが道に置かれた平べったい魔石を指さす。

 ……なるほど。

 あの結界装置も量産できるようだ。さすがに、サイズが小さいのでそこまで使い道はないだろうが、あとでこっそり貸してもらおうか。


「あとは結界を解除して、ブラッドマウスを倒すだけ」

「……わかりました。中々大変そうですね」


 リニアルさんが結界装置に手を向ける。

 俺は剣を抜いて、ブラッドマウスを見る。

 結界装置が解除された瞬間、ブラッドマウスが逃げ出した。俺はその先に回り、剣を振り下ろした。


 ブラッドマウスの体を切断した。

 さすがに、それで動かなくなったブラッドマウスを見て、リニアルさんがほっと息を吐いた。


「やはり、二人いるとずいぶん違う」

「……リニアルさんが一人でやっていた時って、結界解除してから倒しにいっていたんですか?」

「うん。だから、たまに逃げられた」

「それは、かなり大変でしたね……」

「……うん」


 リニアルさんは軽くため息をついてから、こちらを見てきた。


「この調子ですべての結界装置を確認に行く」

「わかりました」


 その後、リニアルさんとともに残りの結界装置を確認しに行き、無事五体のブラッドマウスを仕留めた。

 それでもまだ、ブラッドマウスはあちこちにいるようだ。視覚強化で確認して数えていたのだが、嫌になってやめるほどだ。


「また新しく結界を設置する」

「……それはわかりましたが、そのリニアルさん。俺に一ついい考えがあるんです」

「なに?」

「俺の神器はこのハンマーなんですけど……このハンマーで叩いたものに、強力な毒を付与できるんです」


 俺は自分の神器であるハンマーを取り出す。

 片手で扱える小さなサイズのそれを見て、リニアルさんが首を傾げていた。


「毒? でも、毒って魔物には効かないんじゃなかった?」

「いや、それがゴブリンなどの魔物には通用したんです。だから、餌に毒を混ぜられれば、もしかしたら……と思いまして」

「……なるほど。どうせ、この方法でも時間かかるし、一度試してみてもいいかも」


 リニアルさんが餌をこちらに渡してくる。

 俺はそれを握ったあと、ハンマーでたたくふりをした。


 もちろん、俺の神器にはそのような能力はないが、神器の力、と言っておけば偽りやすい。

 毒攻撃は握っている間に付与が完了した。


「あとは、これをいくつかの場所に並べてみましょう」

「うん。結界装置もいつものように設置する」


 万が一失敗したときは、通常通りに狩るしかないんだからな。

 ただ俺は、すでに実験している。

 大丈夫なはずだ。

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