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不遇職『鍛冶師』だけど最強です ~気づけば何でも作れるようになっていた男ののんびりスローライフ~  作者: 木嶋隆太


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第42話 慎重に


「鍛冶師だけが、これだけ言われているのはおかしいですね……」


 クルアさんがこくこくと頷きながら言っていた。


「そうなんですよ。先ほど、俺は迷宮に行ってきたと言いましたよね?」

「はい」

「俺が行ってきたのはEランク迷宮なのですが、どこまで攻略できたと思いますか?」

「……一人、ですか?」

「はい」

「レリウスさんの冒険者ランクはいくつですか?」

「Fですね。ただ、以前に一度Dランクの人と二人で入って、十階層のボスまでは倒しています」

「……なるほど。であれば、三から五階層程度まではいけましたか?」


 通常の知識を持ったFランク冒険者がそのくらいなんだろう。

 俺はクルアさんの回答に首を振る。


「最下層、ポイズンスネークを倒してきました」

「え!? 一人でですか!?」

「はい。……一人で戦えるだけの武器を作れるんです。それなのに、鍛冶師だけがこれほど言われるのはおかしいですよね」

「……本当に、そうですね。普通、ありえませんよ……迷宮を一人で攻略するなんて」


 クルアさんは驚いたまま、顎に手を当てる。

 他にだって、微妙な職業はある。


 なのに、なぜか鍛冶師だけは常識として皆が知っているほど、根付いている。

 これは明らかにおかしいだろう。


「一体、どうしてなのでしょうか?」


 クルアさんは分からない、と言った様子で首を振る。


「まだ、分かりません。……俺はそれについて調べてみたいと思っています」

「……調べてみたい、ですか?」

「はい。……ただ、どうやって調べればいいのかは見当もついていませんけどね。だから、クルアさんに何か教えていただければ、と思ったんです」


 世界に根付いた常識なのだ。

 だから、普通に探していては見つからないだろう。


 俺よりもずっと知識のあるクルアさんなら、何かいい提案をしてくれるかもしれない。

 クルアさんが顎に手をやり、独り言のように答えてくれた。


「鍛冶師がこれほど言われるということは、過去に鍛冶師の職業を持っていた人が何かをしたというのは事実のはずです。まずはそれについて調べるしかないですね」

「……過去、といっても調べる手段はあるのでしょうか?」


 俺の質問に「あっ」とクルアさんが声をあげた。


「……遺跡や迷宮から発掘された、過去の文書を解読できれば、可能性はありますね」

「古文書、とか呼ばれるものでしたっけ?」

「はい」


 クルアさんがこくりと頷く。

 ……古文書というのは聞いたことがある。

 ただ、それらは俺の数倍は賢い研究者たちが調べても、未だ解読できていない。


 そのため、昔はそれなりに価値のあった古文書は今ではただの紙切れとして扱われてしまっている。


「私も情報を聞いた場合、集めてみましょうか?」

「お願いできるんですか?」

「任せてください」


 商人のクルアさんならば、俺が地道に探すよりもずっと早く見つけられるだろう。

 

「ただ、古文書を手に入れても読めないのでは意味ないですね……」

「……それは、そうですね。ただ、レリウスさんは見ればその物の性能がわかるんですよね? もしかしたら、何かの古文書、程度にはわかるかもしれませんよ?」


 ……確かにそうだな。


「そうですね。今後、もしも手に入りましたら教えてください」

「わかりました」


 クルアさんはどこか楽しげな表情だった。

 

「なんだか、楽しそうですね」

「そ、そうですか?」


 問いかけると、クルアさんは恥ずかしそうにうつむいた。

 俺が疑問に思って首を傾げると、クルアさんは「あー」と頬をかいていた。


「その、ですね……なんだか、誰も知らないことを調べるみたいで楽しそうって思ってしまいまして……も、もうしわけありません」

「いえ、そんなことないですよ。俺も楽しそうだなって思っていたので」

「……そ、そうですか?」


 クルアさんは微笑み、それから食事に手を伸ばしていく。


「でも、レリウスさんの疑問ももっともですよね。私が聞いたところでいえば、鍛冶師は便利すぎます。……一人いれば、一つの街を支えることだってできるほどですからね」


 できるかもしれないが、死ぬほど大変そうだ。


「それほどの職業なのに、どうして皆が知っているほどに、ハズレ扱いされているのか……何か知られてはいけない理由があるのかもしれませんね」

「……そうですね。便利すぎて、人によっては嫌になってしまった人もいるかもしれませんね」

「過ぎた力、と考える人も多いかもしれませんね。……私も少し、心配ですね」

「そうなんですか?」

「そうですよ……っ。レリウスさん、結構気軽に能力を使いますから、心配、なんですよ」


 クルアさんは視線を外しながら、呟くように言う。

 確かに、クルアさんが言う通り、あまり気にしないで能力を使用しているところがあった。

 ……あまり危険について考えていなかった部分もある。


「……レリウスさんの能力は、正直いって私の想像以上に便利です。ですから、私も最近は少し慎重に納品などを行うようにしているんです。本当は、レリウスさんを職人として誘わないほうが良かったのかもと、考えることもあるんです」


 クルアさんの言葉に、俺は首を振る。

 そこまで、考えていてくれたのか。

 

 俺なんて、自分の納品で誰かが喜んでくれるかな? くらいにしか考えていなかった。

 それに、これまで使用してきたのはすべて信頼できる人だと、思っていたからだ。

 ……勝手に口に出すようなことはしないだろう、なと。

 

 けど、それがクルアさんからすれば不安なのかもしれない。

 ……そこまで俺のことを考えてくれていたことに、感謝の気持ちでいっぱいだ。

 ただ、自由に力を使っていたためにクルアさんとは知り合うことができた。


 それは、運がよかった。


「俺はクルアさんとこうして仕事をしているのが楽しいですよ。だから、間違いではないですよ」

「……そう、ですか? それでも、あまり手広くやりすぎると危険なんですよ?」

「そうかもしれませんね。これからは、気を付けたいと思います」


 相手をしっかりと見極めてから、能力については伝えるべきだろう。

 それまでは、神器の能力だ、とか誤魔化せる範囲の力しか使わなければいい。


「はい……気を付けてくださいね? 何かあったら……その、嫌ですから」


 クルアさんがそう言って微笑んだ。

 今のクルアさんの笑顔が、俺が想像していたよりもずっと魅力的に見えた。

 思わず視線を外し、俺は言った。


「今日はありがとうございました。色々相談に乗っていただいて、助かりました」

「いえ、私も面白そうな話を聞けましたから」


 俺はまだまだ知らないことが多い。

 調べてみないといけないだろう。

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