表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/115

第4話 能力


 リンとの別れはあっさりとしたものだった。

 後日、教会の人間が宿屋に来て、事情を説明した。


 リンの両親はリンがやる気なら、と強く引き留めることはしなかった。

 しても無駄というのは分かっていたからだ。

 

 リンはこれから、学園に入学し、知識、戦闘に関しての指導を受けるらしい。

 一つだけ安心できたのは、今年の勇者が他にも四人いたということ。


 そういうわけで、国の偉い人たちは大盛り上がりだそうだ。

 ……まあ、俺には特別何か関係するわけでもなかった。


 リンに関しての話題は、初めの一週間ほどは盛り上がっていた。

 宿に訪れる冒険者たちが決まって彼女の話題をあげていたが、それだって今はもう落ち着いた。


 俺もいつものように宿屋の仕事を手伝う生活に戻っていった。

 リンがいなくなったことで、少しだけ仕事が大変になったのだが、それも新しいバイトの人を雇ったことで解決した。


 新しく入ったバイトは、女性で名前はメアという。獣人族の子で、年齢は十五歳。

 可愛らしい人で、すぐに宿屋の看板娘になっていた。


 今までリンがこなしていた場所におさまったのを見て、案外替えってきいてしまうんだなと思った。


 今日は非常に忙しい。

 食堂に訪れる冒険者が随分と多い。というのも、リンという勇者がいた宿屋ということで、ちょっとばかり人気になっていたのもある。


 客が帰ったテーブルの掃除をしていた時だった。

 メアさんの悲鳴が聞こえて顔をあげる。


 メアさんが皿を落としてしまったようで、床に皿が散らばっていた。

 急いで掃除しないといけないが、メアさんは慌ててしまっているようだった。


「メアさん、掃除は俺がやっておきますから、あちらのテーブルを片付けておいてください」

「あ、ああ! す、すまないぃぃ!」


 メアさんはぺこぺこと何度も頭を下げ、急いだ様子でそちらに向かった。

 俺が掃除道具を取りに行って、大きな破片を掴んだ時だった。


『クリエイトハンマーを用いて破壊可能。新たに皿を作製可能になります』


 なんだ?

 俺は突如として聞こえた声に、首を傾げる。

 周囲は騒がしい冒険者しかいない。


 わからないが、神器のことだよな? これを使えってことか?

 ハンマーを取り出し、破片を叩いてみた。

 すると、再び声が聞こえた。


『素材、皿の破片に接触、回収しますか?』

 

 俺にわざわざ声をかけた人はいない。

 ……間違いなく、頭の中で響いているな。


『皿の破片を回収しますか?』

 

 わからないが、回収してみようか。

 俺がハンマーで触れると、皿の破片が消えた。

 ……これは、触れれば全部できるのだろうか?


 俺は試しに他の破片にも触れてみる。

 すると、すべての破片がどこかへと消えてしまった。


 ……わけがわからない。

 ただまあ、掃除が楽に済んだのでよしとしようか。

 

 その日の仕事が終わったのは、それから一時間後だ。

 食堂はすっかり静かになり、俺は後片付けをしていた。


 食堂の掃除をしていると、一緒になったメアさんが犬耳と尻尾を揺らしながら、頭を下げてきた。


「れ、レリウス! 今日は本当に助かった! ありがとう!」

「あのくらいは別にいいですよ。ただ、気を付けてくださいね」

「あ、ああ! ……本当に、すまなかった」

 

 ぺこぺこと何度も頭を下げるメアさん。

 ……そういえば、あのときは気にしていなかったが、あの皿の破片たちはどうなったのだろうか?

 

『皿の破片を用いて、皿の作成を行いますか?』


 ……え?

 再び、あのときの声が聞こえた。

 この場にはメアさんしかいなく、彼女は必死になって食堂の掃除をしていた。


 ということは、やはり俺の中にある何かが原因なんだろう。

 皿の作成……よくわからないが、やってみるか。


 俺がその声に従うようにお願いすると、次の瞬間、脳内で一枚の皿が出来上がったのがわかった。

 ……な、なんなんだこれは?


 俺はその皿を取り出せるのか考えてみると、目の前に一枚の皿が現れた。

 ……それは、店で使っている皿そのものだった。

 俺が首を傾げていると、メアさんがこちらに気付いた。


「うん? それはどうしたんだ?」

「あー、いや。その。皿がたまたま残ってたんです。ちょっと片付けてきます」

「あ、そうなのか? それと……残りの掃除は私がしておこう。レリウス。先にあがっても大丈夫だぞ?」

「本当ですか? それじゃあ、お願いします」


 普段なら最後まで一緒にやるが、ちょっと気になることができてしまった。

 俺は道具を片付けた後、部屋へと戻る。


 可能性があるとすれば……間違いなく、この鍛冶師、だよな?

 リンのごたごたとかであれから一切考えることのなかった鍛冶師。


 ……というか、考える必要がないと思っていた。

 だって鍛冶師は世界でもっとも必要ない職業の一つだからだ。

 俺はその鍛冶師について、頭の中で考えてみた。


 『鍛冶師』

 レベル1 1/10

 

 ……なんだこれは?

 今までこんな表記はなかったはずだ。

 数値の意味はよく分からない。


 俺が首を傾げながら周囲のものを見たときだった。


「なんだこりゃ!?」


 思わず声をあげたくなった。

 部屋にあったものに、作成可能、作成不可能の文字が出てきたからだ。

 今座っているベッドなどの大きなものはすべて作成不可能、ただし枕程度なら作成可能。


 他にも基本的に小物はすべて作成可能なようだった。

 ただし、条件が二つあるようだ。


 一つは、すべてクリエイトハンマーで一度破壊する必要があること。

 もう一つは材料となる素材が必要なようだ。


 作成できるものを見ると、必要な素材も書かれていた。ただ、破壊したものを素材として分解することもできるようなので、一度破壊してしまえば問題ないようだ。


 俺は視界を埋め尽くすそれらの文字に頭が痛くなってきた。

  

「……もう少し、見やすくできないのか?」


 俺が作成したいと思ったものだけを認識するとかさ。

 そんな風に思った瞬間、俺の視界から大量の文字が消えた。

 

 まさか――。

 作成しようと思って、手に持ったままの皿に視線を向ける。

 ……作成可能、という文字が出現する。


 さっきよりずいぶんと見やすくなった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ