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第32話 透明化

 階段を降りていくと、迷宮の第一階層に到達した。 

 第一階層に出現する魔物は、ウルフだそうだ。


「この迷宮のウルフは大して強くはないそうだ」


 なるほど。

 メアさんに詳しく聞いてみると、この迷宮の魔物は初心者冒険者向けだそうだ。

 迷宮の一階層は草原のような空間となっている。


 迷宮の構造はおかしいものばかりだが、考えても仕方ない。

 俺よりも頭の良い学者たちが調べても分からなかった世界なんだからな。


 草原を歩きながら、視覚強化を発動する。

 視覚強化の効果はそのままだった。視力を強化、また視界を広げるというものだった。

 俯瞰的に見ることもできるため、魔物の探知には使いやすい。


 いたいた。草原を少し進んだ先にある木々の密集した空間で、ウルフが休んでいるのが見えた。


「メアさん。このまま進んだところにウルフがいますよ」

「なに? れ、レリウス。もしかして探知もできるのか?」

「ええ、まあ。最近できるようになりました」

「……ほ、本当か。相変わらず、凄いなおまえは」


 メアさんが驚いた様子でこちらを見てくる。

 スキルをたまたま手に入れられただけだ。運がよかっただけだ。

 

「そういえば、迷宮って壁から魔物が出てくるんですね」


 ウルフを逃さないように視覚強化を発動していると、迷宮の壁からウルフが生まれるところも目撃できた。

 一応知識としてはあったが、こうして実際に見ると驚く部分があった。


「ああ、そうだ。だから、迷宮内では壁側を歩かないようにするのが基本だな」

「……いきなり魔物に襲われることもありますもんね」


 不意打ちは力の差を埋める手っ取り早い攻撃だ。

 わざわざ、不意を打たれるような場所を歩く必要もないだろう。


 目的の森についた俺たちはすぐにウルフを見つけた。

 数は一体だ。


「メアさん。ちょっと新しいスキルを試してみたいので、いいですか?」

「あ、新しいスキルだと? そういえば、スキルが見えるんだったか」

「はい。この前、市に足を運んだときに、スキルを買えたので」


 俺の言葉に、メアさんは驚いた顔をしていた。


「……そうか。スキルが見えるというのは、そういう利点もあるのか」

「はい、ですから少し試してみてもいいですか?」

「ああ。わかった」


 本当はメアさんと迷宮に潜る前に確認したかったが、あいにく休みがなかった。

 俺はナイフを取り出してから、スキルを発動する。

 

 発動するスキルは透明化だ。

 これは、こちらで意識することによって、付与されたものを透明化することができるのだ。

 ……つまり、人間を対象には使用できない。


 だから、俺自身が透明化する夢はそうそうに絶たれてしまったというわけだ。

 その日は落ち込んで寝込んでしまった。

 透明化したナイフをウルフへと投擲する。


 ナイフがウルフの体に当たったのは、血が吹き出したことでわかった。

 ウルフは驚いた様子で周囲を見る。体にナイフが刺さっているのはわかっているようだが、表情は怪訝だ。


 ……武器を透明化させる利点といえば、これくらいではないだろうか。

 遠距離から不可視の一撃を与えられるというのは、それだけで大きな利点になると思うが、そこまでの強化ではない。


 ウルフがこちらに飛びかかってきた。

 俺はその攻撃を余裕でかわし、蹴りつける。


 ウルフは俺の蹴りで吹き飛んだ。

 数度地面を転がると、素材だけを残して消滅した。

 迷宮では、魔物の死体が残らない。


 素材の一部だけを残して、消滅してしまう。

 普通の冒険者からすれば、解体の手間が省けるとわりと好意的な意見が多いらしいが、俺としては単純に素材が減るだけだ。

 身体能力は十分上がっている。


 というのも、指輪を量産してポケットに入れてあるからだ。

 さすがに指につけて戦うのは邪魔だったのでやめた。

 ただ、指輪などのアクセサリーはそれほどたくさんスキルがつけられない。


 一番出来が良いものでも0/80くらいだった。Sランクスキルをつけるなら、一つで限界といった感じだ。

 もしかしたら、装備品の大きさで限界値というのがある程度決まっているのかもしれない。

 ナイフと剣で比べると、剣のほうがポイントの最大値は多いしな。


 俺が素材を回収していると、メアさんが引きつった表情とともに近づいてきた。


「レリウス……さらに強くなっているな」

「……そうですかね?」


 レベルの上昇も関係しているかもしれない。

 ただ、俺個人としては分かりにくいのだ。


 筋力強化などは、力の出せる限界が伸びている、という感覚だ。

 基本的な力ももちろん向上しているが、うっかりフォークを曲げてしまう、ような力加減ができないような成長ではない。


「けど、メアさんも最近は調子がいいんですよね?」

「ま、まあな……なんだ、誰かに聞いたのか?」

「はい。宿屋にきた冒険者に」


 なんでも今、メアさんは他の人にパーティーから誘われるようになっているらしい。

 今では依頼を百パーセント達成できるほどに、余裕が出ているそうだ。


「メアさんの神器は優れていますから、迷宮攻略も苦労することはないんじゃないですか?」

「もちろん、苦労させるつもりはないさ。私も軽く準備運動がてら、動いておきたい。いいか?」

「はい」


 俺がもう一度ウルフを索敵する。

 ……いたいた。


「メアさん、ウルフ発見しました。このまま真っすぐ進みましょう」

「……探知スキル、便利だな」


 羨ましそうにこちらを見てくるメアさん。


「メアさんの装備にも付与しておきましょうか?」

「い、いや……いい! おまえに頼り切ってしまっては、本当に強い冒険者にはなれないからな!」


 メアさんはぶんぶんと首を振る。

 ……確かに、そうだな。

 今の俺は装備品がなければそれほど戦えないだろう。


 装備を増やすのもいいが、俺自身ももっと成長していかないといけない。

 メアさんの言葉で、改めて思い起こされた。

 

 それからウルフを発見し、メアさんが攻撃を仕掛ける。

 美しい火が、ウルフを焼き払う。

 ……やっぱり、あんだけ戦える神器っていいよなぁ。


 俺もいつかもっと凄い武器を作れるようになるのだろうか?

 神器に並ぶような素晴らしい武器が作れるようになる日を迎えるためにも、もっともっとレベル上げをしていかないとだな。


「私も問題ないな。これなら、最下層まで行けそうだ」

「わかりました。それじゃあ、改めてよろしくお願いします」

「……ああ、よろしく頼む」


 俺たちはそのままの勢いで、迷宮の下層へと下りていった。



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