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第31話 迷宮


 今日はメアさんとともに迷宮に入る予定だった。

 ……迷宮、か。

 神器も持たない俺が迷宮に挑んでも大丈夫なのだろうか、という不安がある。

 

 ただ、挑む迷宮の難易度はEランク迷宮だ。

 最低はFランク迷宮なので、少し警戒したのだが、俺の戦いぶりを見て、メアさんも問題ない、と話していた。


 メアさんが事前に調べた情報によると、出てくる魔物は現在俺が戦っているゴブリンに毛が生えた程度だそうだ。

 実際にメアさんも一人で潜り、大丈夫だと判断したらしい。


 それなら大丈夫かな、ということで了承した。もし無理なら、低階層で引き返せばいいだけだ。

 俺はメアさんとともに、冒険者通りに来ていた。


「メアさん。迷宮に行く準備は昨日しましたよね?」


 俺もメアさんも、必要なものは昨日までに準備している。

 休みは被らなかったので、一緒に準備をしたわけではなかったけど。


 昨日は寝る前に再確認をしていたせいで、なかなか寝付けなかったほどだ。

 

「そうだが……どうやらポーションが大量に入荷されたらしくてな」

「……なるほど」

「最近、薬草がほとんど取れなかったせいで、薬草が値上がりしていたからな。くぅ……知っていれば、あれほど高額な薬草には手を出さなかったのだが」


 メアさんが悔しそうに唇をかんでいた。

 ……ポーションの大量入荷。

 もしかしたら、俺が作成した薬草も関係しているのかもしれない。


 だったら、それとなく、メアさんには教えたほうがよかったかもしれない。

 ……というか、そもそもメアさんには俺がポーションを作成できることも伝えていなかったな。


「メアさん。ポーションなら、俺も大量に用意してありますから安心してください」

「なに? そうだったのか?」


 伝えるか迷ったけど、メアさんなら大丈夫だろう。


「俺の鍛冶師で、ポーションも作成できるんです。伝え忘れていてすみませんでした」

「な、なんだと!? ……やはり、鍛冶師は有能なのだな」

「かも、しれないですね」


 けど、戦闘系の能力はないし、今のところなんでも作れるくらいしか取り柄はない。

 もちろん、レベルが上がったおかげで、魔物との戦いも苦戦することなくこなせているが――やはり地味だ。


 神器のような派手さがない。

 俺もメアさんのように周囲すべてを焼き払えるような力が欲しかった。


「それじゃあ、もしものときはレリウスに頼るかもしれないな」

「はい、任せてください」

「南門から出たところにある迷宮に行こうと思う。準備はいいな?」

「はい。迷宮内では、いろいろと教えてもらうことになると思います。よろしくお願いしますね」

「……ああ、任せろ」


 メアさんとともに迷宮まで歩いていく。

 

「そういえばメアさん。ここ最近シフトが少し減りましたよね」

「……そう、だな。レリウスが装備を見直してくれてから、すこぶる調子がいいんだ」


 メアさんは嬉しそうに尻尾を揺らしていた。


「本当ですか? よかったですね! 冒険者として有名になるのが夢と話していましたもんね」

「ああ! それもこれも、すべてキミのおかげだ」

「……装備を見直したからですか?」

「そうに決まっているだろ! キミに装備をもらってからもう体のキレが以前とは比べ物にならないんだ」

「それはきっかけにすぎませんよ。メアさんの地力があってこそですよ」


 あくまで装備品は装備品。

 身に着けている人に、それを扱える技量がなければ宝の持ち腐れだろう。


「そ、そうか?」


 メアさんは嬉しそうに胸を張っている。

 尻尾もぶおんぶおんと揺れている。


「はい。……ということは、もうすぐDランクにも戻れそうですか?」

「ああ」

「……だから、シフトを減らしていたんですね」

「そう、なるな。今後は冒険者でもそれなりに稼げるようになってきたから、な。も、もちろん、安定するまでは宿でバイトをさせてもらうが……。いずれは完全に離れるかもしれない、な」

「そう、ですか」


 少し残念だ。

 リンがいなくなったときもそうだったが、親しい人が離れていくのは寂しいものだ。

 リンは今頃、学園で訓練しているのだろうか。


 勇者だし、きっと滅茶苦茶強くなっているんだろうな。

 ……俺なんかとは比べ物にもならないだろう。


「キミのご両親にも話はしているんだ」

「それで、新しいバイトを探していたんですね」


 最近また募集をしているという話は聞いていた。

 忙しいから、という理由だけではないようだ。


「……ああ」


 メアさんは申し訳なさそうな顔をしていた。

 ……なぜそのような顔をするのだろうか。


「メアさん。冒険者、頑張ってください」

「……レリウス?」

「俺はメアさんの夢を応援しています。……有名な冒険者になって、それでいつかまた宿に泊まりに来てくださいね。その時は弟子とか仲間とかたくさん連れて、宿を貸切るくらいのつもりで、ですね」

「……レリウス」


 メアさんは唇をぎゅっとかんでから、ふっと笑った。


「わかっているさ。キミのおかげで、迷いを断ち切れたよ」

「迷い、ですか?」

「……私は、あの職場の空気が好きでな。その、なんていうか……ずっとあそこで、細々とした冒険者生活も悪くないかな、と思っていたんだ」


 ……それは、ちょっとわからないでもなかった。

 安心できる場所。

 両親を魔物に殺された俺は、不安だった。


 けど、今の義両親とリンがいてくれたおかげで……それなりに早く立ち直ることができた。

 両親がやられた魔物を討伐できるくらい強くなってやる! という思いもあったからかもしれない。


「夢、なんですよね」

「……ああ」

「なら、頑張ってください。お客さんや新しく入ったバイトにも話しておきますからね。Sランク冒険者が昔はここでバイトしていたんだって」

「ま、まだ私はEランクなんだ! やめてくれ!」


 メアさんは慌てた様子で首を振る。


「そうですね。まずは、今日の迷宮攻略からですね」

「そこはキミにも協力してもらうことになる。頼むぞ、レリウス」

「はい。足を引っ張らない程度には頑張りますね」

「……いや、まあレリウスなら、大丈夫だとは思うがな」


 そうはいっても、俺にはその場を一瞬で蹴散らせるような力はない。

 あくまでコツコツ、一体ずつと戦うくらいしかできない。


 迷宮の入り口についたところで、俺たちは顔を見合わせる。


「準備はいいな?」

「はい。確か、十階層まであるんでしたっけ?」

「ああ。すべての階層の魔物はもちろん、地形も事前に調べてあるから攻略は難しくないはずだ。いざというときは、この魔道具もあるんだしな」


 メアさんは緑色の玉を取り出してみせる。

 それは迷宮から脱出できる魔道具だ。


 俺もそれはすでに作れるようになっている。結構いいお値段だから、お金に困ったときはギルドに持っていくのも悪くないだろう。

 お互い、いつでも脱出できるのを確認したところで、迷宮の入り口である小山に踏みこむ。


 ……ここの攻略がメアさんとの最後の冒険かもしれない。

 そう考えると寂しい気持ちもあったが、同時に今日一日を全力で楽しまなければとも思えた。

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