表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/115

第30話 出会い


 午後は装備を強化するために、市へと向かう。

 現状、俺が手っ取り早く強くなるには、スキルの獲得が必須だ。

 

 装備品に付与できるスキルには、数値の制限があるとはいえ、最近作製している武器であれば、Sランクスキルを最低でも四つはつけられる。

 だから、そこまで意識する必要はない。


 そもそも、ボーンショットなどの攻撃スキルは、一つ持っていれば十分だしな。

 そんなことを考えながら、広場へと向かった。


 噴水広場と呼ばれているここは、噴水を囲んだ落ち着いた場所であった。

 普段であれば、デートスポット……おまけにプロポーズ場所として使われることもあるらしい。

 この噴水前で結ばれたカップルは、未来永劫仲良く暮らせる……なんて噂もあるほどだ。


 ただ今は……とてもじゃないがそんな神秘的な雰囲気など欠片もなかった。

 

「いらっしゃい! こっちは、リテイア名物のマンギョだぞ! 新鮮でうまいぞー!」

「今日はアクセサリーが大量にあるぞ! おっ、そこのカップルさん! どうだ、見ていかないか!?」


 商人たちがあちこちで客引きをしている。

 普段は噴水の流れる音に癒されていたものだが、耳を澄ましても商人たちの野太い声しか届かない。

 時々、女性もいるが、全体でみると少ないほうだった。


 旅を行うまでの女商人は少ないのだろうか。

 そんなことを考えながら、スキルのついた装備品を探していく。


 ……うーん、アクセサリーの取り扱いは多いが、スキルがついているものはまだ見つかっていない。

 これまであっさりと見つかっていたのは、運が良かったのだろう。


 いくつか店を回っていったときだった。

 俺は一本の剣を発見した。

 それは観賞用の剣なのだろう。美しい刀身に、思わず目が奪われる。


「おっ、いらっしゃい! 兄さん、こっちのアクセサリーはどうだ!?」

 

 店員が勧めてきたのは、やはりアクセサリーだ。

 ただ、俺は剣が気になっていた。


 透銘乃剣 Cランク

 視覚強化Sランク 透明化Sランク


 視覚強化はなんとなくわかる。

 魔物の探知などで使えるかもしれない。

 ただ俺は、透明化Sランクについて非常に気になっていた。


 こ、これがあれば――女湯を覗けるのではないか?

 そんなやましい気持ちを片隅で抱きつつ、俺はまずはアクセサリーを見る。


 商人にいきなり剣が欲しいと言っても、足元を見られてしまうかもしれない。

 まずはアクセサリーを眺めていくが、どれもスキルはついていない。

 

「こちらの剣も販売しているんですか?」

「まあ、販売はしているよ。どうだい? 中々良い剣だろう? 五千ゴールドでどうだ!?」


 いやいや。高すぎるだろう。

 払えないわけではないが、この金額で支払うのはバカだ。


「いや、ただの観賞用の剣にその金額を払えるわけないだろ? これまでだって売れ残ってたんじゃないか?」

「いやいや、人気でしたよ? たまたま、持ち合わせがなかったお客さんばかりでしたので」

「そうか」


 この商人、どうしてもその金額で売りたいようだな。


「観賞用の武器を探していたんだが……そういうのであれば他を回ってみようか」

「……あっ、まってくださいお客様。他にもアクセサリーなどもつけましょうか?」

「アクセサリーか。一体どれくらいつけてくれるんだ?」


 別にアクセサリーはいらないんだけどさ。

 しばらく商人と話をした結果、結局3500ゴールドで売ってもらうことになった。

 いくつかアクセサリーもつけてもらった。


 いらない、とは思っていたがつけてもらったのは指輪だ。

 今まで指輪は作っていなかった。

 指輪であれば、身に着けていてもそこまで目立たない。


 両手指すべてにつければ、スキルによる恩恵も受けやすいだろう。

 ……いや、さすがに派手か。

 何か、グローブのようなもので手を隠す必要もありそうだな。


 スキルの恩恵をより多く受けるためには、薄い服を何着も着込むというのも一つの手だ。

 グローブなどもその候補に入るだろう。

 そんなことを考えながらしばらく市を見て回っていく。


 ……うーん。新しいスキルは見当たらないな。

 たまたまアクセサリーにスキルがついていたが、すでに持っている筋力強化のCランクだった。


 そろそろ帰るか、と思っていた時だった。


「いらっしゃいませー!」


 聞きなれた声がしたので、振り返る。

 そちらを見てみると、メイド服に身を包んだクルアさんがいた。

 頬が少し赤いのは気のせいではないだろう。

 

 彼女の豊かな胸が強調されていて、なんとも興奮を誘ういで立ちだ。

 そう感じたのは俺だけではないようだ。

 彼女の登場によって、客たちが一斉にそちらへと集まっていく。


 男たちをクルアさんが笑顔とともに店のほうへと案内していく。

 俺も近くに向かう。と、クルアさんと目があった。


「れ、レリウスさんんん!?」

「はい。こんにちは」


 俺が軽く頭を下げるように挨拶をすると、クルアさんの顔がどんどん赤くなっていく。

 

「な、なんでここにいるんですか!?」

「一応冒険者をしていますので、何か市で掘り出し物でもないかと思いまして」


 先ほど購入した剣は、裏でこっそりとしまってある。 

 すでにハンマーで破壊し、素材として回収を行っていた。

 新しく作製可能にもなっていたので、いずれは作ってみるつもりだ。


 性能までは分からないが、ゴブリン系やレッドウルフ系の装備よりも強そうだし。

 見た目もガラスのような刀身はともかく、それ以外は普通の両刃の剣だしな。


「な、なるほど……あ、あまり見ないでくれませんか?」

「似合っているんですから、そんなに恥ずかしがらなくてもいいんじゃないですか?」

「べつにそんなことは……え、えーとあ、ありがとうございます」


 ぺこりと、クルアさんは恥ずかしそうな様子で頭を下げた。

 周囲のお客が不審げに、あるいは不満げにこちらを見ている。


 ……あまり親しくしていても、彼女と手伝っているお店に迷惑をかけてしまいそうだ。


「それじゃあ、また」

「は、はい!」


 クルアさんにそれだけを伝えて、俺はその場を後にした。

 ……早く家に帰ってスキルを試してみたい。


 俺はいつもは走らないのに、全力で帰宅した。


 部屋についたところで、透明化Sランクが付与した装備品を取り出す。

 さて、新しいスキルを試してみようか。

 ドキドキした心を必死に抑えつけながら、透明化を発動した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ