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第29話 スキル検証


 クルアさんはその後、宿を出た。

 帰る頃には、表情もだいぶ柔らかくなっていたので、大丈夫だろう。

 ……よかった。またこれからも一緒に仕事ができる。


 クルアさん、かなり責任感じていたからな。

 別にそんなに気にしなくてもいいんだ。もう少し、肩の力を抜いてくれたらいいんだけどな。


 俺は部屋の机に置かれた紙を眺める。

 以前、クルアさんに聞いていた商人が街に訪れる日がずらりと書かれていた。


 今日の午後から、市が開かれるらしい。

 今頃、広場はその準備で忙しいだろう。

 クルアさんも手伝うと話していたので、今日は早めに起こしたんだ。


 俺が市について確認したのは、新しいスキルを獲得するためだ。

 いい装備が売られていればいいんだけどな。

 

 市に向かうのは午後からだ。

 午前中は、装備品やスキルについていくつか検証したいことがあったからだ。


 まず、俺が冒険者として活動するときは、大量の武器を装備している。

 というのも、スキルの効果は身に着けていないと発動しない。


 それは知っていたのだが、ではどこまでが装備品という扱いなのかということだ。

 実際、戦闘中に俺の手から離れた装備のスキルも発動していただろう。


 だから、何が条件で装備から外れるのか、また装備していることになるのか。

 それらを調べたかった。

 

 特に、問題は外れるほうだ。

 戦闘中に思いがけないところで装備から外れてしまうと困るからな。


 まず一番最初だ。

 今素材置き場となっているアイテムボックスは……、

 

「さすがに無理、だよな」


 まあ、これは理解していた。今だって、スキルがついたナイフなどは仕舞ってあるが、体には何の影響もないんだしな。

 

 とりあえずスキルのついたナイフを取り出し、検証開始だ。

 俺がそれを握り、十秒ほどが経ったところで、体が軽くなった。


 ……これで、装備したということになったんだろうな。

 次はスキルの検証だ。

 

 一番調べやすいのは、自動帰還だな。

 これはおそらくだが、装備の限界になったところで装備者の元に戻るという呪いの一つだろう。


 一度身に着けてしまえば、二度と外すことはできない。

 まあ本来であれば、使い勝手は悪いが、戦闘に応用すればブーメランみたいに使うこともできる。


 俺はその装備を離れた場所において、秒数を数える。

 ……十秒が経ったところで、スキルが発動したようで、俺の手元に戻ってきた。

 装備扱いではなくなるのが、十秒なのだろうか?


 ほかの装備品でも試してみる。

 筋力強化が大量についたものを装備してから、離れた場所に置く。

 ……あれ?


 しばらくしても、体に変化は出ない。

 ……もしかして、近いからか?


 手を伸ばせば届くような距離に置かれていれば、別に身に着けていなくてもいいのか?

 その時だった。

 部屋の扉がノックされた。


「誰ですか?」

「私だ、メアだ」


 メアさんか。

 俺が気になって扉をあけると、かわいらしい服に身を包んだメアさんがいた。

 ……あれ? なんだろうかそれは。


 うちの制服に似ているが、以前よりも華やかさが上がったような気がする。


「どうしたんですか?」

「な、なんでも新しく採用する制服、らしいんだ。この機会に一新するそうだ」

「……へぇ、凄い似合っていますね」

「に、似合っているか? 私、あまりこういうフリフリのついた服を着てこなかったもので、な……」

「メアさんは元がいいんですから、何着ても似合いますよ」


 メアさんはその瞬間顔がぼんと爆発したかのように赤くなった。

 顔はうつむきながらも、尻尾は嬉しそうに揺れている。


 ……そうだ。ちょうどよかった。


「メアさん。今って休憩ですか?」

「あ、ああ……昼休憩だ」

「それなら、少し付き合ってもらってもいいですか?」

「え? い、いや……そ、そのどこかに出かけるようなほど余裕は――」

「そこに並べてあるナイフを握ってみてもらえませんか?」

「え? ……ああ」


 首を傾げた後、メアさんはベッドに並んでいたナイフの一つを握ってみた。

 

「これでいいのか?」

「……はい」


 それから十秒が経ったところで、俺の体が少し重くなった。

 ……装備品から離れたということだな。

 ある程度までの距離なら、他に所有者が移らなければスキルが発動するということか。


 仮に魔物が滅茶苦茶バカなら、スキルをつけた装備をそこらに転がしているだけで俺の能力がぐんぐん上がっていくわけだ。

 ……とはいえ、そんな状況はなかなかないだろう。


「ありがとうございますメアさん」

「あ、ああ……何をしていたんだ?」

「装備についているスキルの発動条件を調べていたんです」

「なるほど……?」


 メアさんは頷きながらも首を傾げていた。

 俺がそれから簡単に説明した。

 メアさんに協力してもらったおかげで、スキルの調査が少しすすんだ。


 あとは、どれくらいの距離で発動するかだ。


「レリウス。少しいいか?」

「なんですか?」

「今度、近くの迷宮に挑もうと思うんだ。ただ、さすがに一人というのも大変だと思っていて……よかったら一緒にどうだ?」

「……俺で大丈夫ですか?」

「いや、レリウスほどの力があれば申し分ないと思うが……」


 ……そうだろうか?

 今だって俺が倒す魔物はゴブリンだけだからな。

 ただ、メアさんがいる間に、少しでも強い魔物と戦ってみたいという気持ちもあった。


 メアさんには迷惑をかけてしまうかもしれない。

 けど、俺も少し、冒険をしてみたいな。


「わかりました。俺は良いですよ」

「ほ、本当か? それなら、今度の休みに一緒に行かないか!」

「わかりました。確か三日後なら一緒の休みでしたよね?」

「ああ!」

「ではその日に行きましょうか」

「……ああ、よろしく頼む」


 メアさんがぺこりと頭を下げてきたので、こちらも同じように返しておく。

 顔をあげたメアさんはそれから頬をかく。

 表情はなんだか言いにくそうだった。


「どうしたんですか?」

「……いや、そのな。少し聞いておきたかったんだが」

「なんでしょうか」

「昨日連れてきたクルアさんだったか? なんでも商人で、一緒に仕事をしているんだったな?」

「はい」


 そういえば、昨日メアさんに会ってから詳しい事情は説明していなかった。

 メアさんにも色々とお世話になったのだから、話しておくべきだっただろう。


「彼女とは、仕事の関係以上のものは……ないのか?」

「……仕事以上の関係? なんですか?」

「た、例えば……その、恋人……とか?」

「……なっ!」


 なんてことを聞いてくるんだ!

 脳内に、クルアさんの下着姿が浮かぶ。おまけに、ちょっとエッチな感じになって!

 まずいまずい! 消えろ雑念!


「ありませんよっ。クルアさんと俺は商人と職人ですから!」


 クルアさんは商人という夢を追っている人だ。

 その人の邪魔をするようなことは絶対にしない。


「そ、そうだったのか? いやぁ、その……リスティナに聞かれてな! 怪しい関係なんじゃないかって!」

「リスティナさん……あぁ」


 すぐに人をからかってくる新人だ。

 初めの一週間くらいはおとなしかったが、今ではすっかり馴染んだのか、人をからかってくる。

 ……悪い子ではないし、仕事もできるからまあいいんだけどね。


「すまないな。変なことを聞いてしまって! それじゃあ!」

「はい。午後もお仕事、頑張ってくださいね」

「……ああっ」


 メアさんはにこっと微笑んでから部屋を出る。

 俺はそれから最後のスキル検証を行う。


 装備として認識される範囲はおおよそ三メートルほどまでだった。

 思ったよりも短かった。

 ただし、握ってから十秒の間はどれだけ離れていても問題なさそうだった。


 その間に自動帰還が発動すれば、再度装備扱いになるというわけだ。

 

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