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第25話 達成

 レッドウルフの足跡を追っていく。

 一度林を出たところで、レッドウルフたちを見つけた。


 住処を移動しているようだ。子どもと思われる小さなウルフもいた。

 まさに今、狩りを教えているようで、他のゴブリンを襲っている。


 こういうのがあるから、他から移り住んできた魔物を見逃すわけにはいかないのだ。

 合計六体。

 二体が大人で、四体が子どもだ。


「準備は大丈夫ですか?」

「ああ。少し可哀想な気もするが、私も生活がかかっているからな」


 特にメアさんは、今回失敗してしまえば降格となる。

 冒険者ランクというのは、余程のことがなければ降格はしない。

 一度でも経験があるとなれば、恥ずかしいことなのだそうだ。


 これ以上馬鹿にされたくない。メアさんの両目にはそんな意志が見て取れた。

 

「大人のウルフなら、投げナイフも当てやすいので、先に狙います」

「ああ。気づかれたら私が近接をやろう」

「援護が終わり次第、俺も加わりますね」

「ああ」


 といっても、相手のほうが数は多い。

 お互い足を引っ張らないように動くことはできても、二人で一体を追い詰めるような連携は望めないだろう。


 メアさんが軽く深呼吸をしたあと、剣を握った。

 準備が終わったようなので、俺は手当たりしだいにナイフを投げつけた。

 大人ウルフに二本、子どもウルフに一本のナイフが刺さったところで、気づかれた。

 ……ここからは、近接だな。


 メアさんが神器を振り抜く。レッドウルフはすかさずそれを跳んでかわした。

 中々速い。だが、毒のナイフが刺さっているため、段々と苦しそうな表情を見せるようになった。

 レッドウルフたちは休みなく飛びかかってきたが、先に大人のレッドウルフが倒れた。 


 親が倒れたことでか、子どもの動きが止まる。

 その隙に、メアさんの剣が振り抜かれた。

 幅広の剣に火がまとわりつく。近くのレッドウルフを巻き込むように切り裂いた。

 残りは三体。


 俺が一体に剣を突き刺し、蹴り飛ばす。

 俺に飛びかかってきたウルフの攻撃をさけ、自動帰還を発動する。

 すると、最初のレッドウルフに突き刺さっていた剣が俺の手元に戻ってくる。


 その途中にいた、レッドウルフの体を切りさいて、だ。


 自動帰還はこういった使い方もできる。

 よろめいたレッドウルフに、戻ってきた剣を叩きつけた。

 うまく決まったな。


 残りは一体だ。

 逃げようとしたレッドウルフに、ナイフを投げつける。

 走り去ったレッドウルフだったが、やがてその体が倒れた。


 これで、戦闘は終わりだ。

 小さく息を吐いたメアさんが、剣をしまった。


 俺は倒れていたレッドウルフにハンマーを当てていく。

 依頼の達成には、素材が必要になる。

 ウルフの場合は、牙がそれに該当する。


 俺がすべての素材の解体を終えると、メアさんがじっとこちらを見てきた。


「解体しないで済むなんて、楽すぎるな……。その能力だけでも、欲しいものだ」

「まあ、自分にはこれぐらいしかありませんからね」


 むしろ、他の人にこの能力がなくて少し嬉しいと思っていた。

 みんな強そうな神器を持っていて、さらに俺よりもあれもこれも優れていたら羨ましいの言葉だけでは済まないからな。


「もう少しだけ、周囲を見たら戻りましょうか」

「そうだな」


 まだレッドウルフがいるかもしれない。

 もしも、生き残りがいたら問題だ。

 

「普段、レリウスは冒険者としてどれくらい活動しているんだ?」

「……そうですね。冒険者とはいえないと思いますね。ゴブリン討伐しかしていませんでしたから」

「そ、そうだったのか? 身のこなしもしっかりとしていたから、てっきり冒険者としてかなり活動しているのだと思っていたが」

「まったくですよ。俺は所詮鍛冶師ですから」

「……そうか」


 ただ、少しだけわかったこともある。

 どうやらランクE程度までなら、なんとかなりそうかなということだ。

 そこまでは冒険者として活動してみるのも悪くないかもしれない。


 できればランクDの依頼をこなせるようになれば、俺も冒険者として生計をたてていくこともできるんだけどな。

 レッドウルフはもう見つからなかった。


「帰ろうか、レリウス」

「そうですね」


 これ以上探しても仕方ないだろう。

 もしも今後また発見されれば、それは俺たちの責任ではなく、他から移り住んできたやつだろうと思うことにした。


 街についた俺たちは、まっすぐにギルドへと向かう。

 ……メアさんに危害を加えてきた冒険者、ブンスエたちがこちらに近づいてきた。

 いつから待っていたのだろうな。彼らは、ニヤニヤと口元を歪めていた。


「メア、どうだった依頼は?」

「ああ、無事に達成してきたが?」


 そういって、メアさんは袋にうつしておいたレッドウルフの牙を六本見せた。

 ブンスエたちは目を見開き、それから苛立ったような目でこちらを睨みつけてきた。


「……ちっ、生意気な冒険者が」

「てめぇのせいで、俺たちの計画が崩れちまったよ、クソが」


 ……わかりやすいほどに下衆な男たちだな。

 彼らからメアさんを守れてよかった。

 去っていったブンスエたちの背中に、メアさんがべーっと舌をだした。


「よかったですねメアさん」


 依頼達成の報告をするため、レジに並んだときだった。


「……か、勘違いはしないでくれよレリウス!」


 メアさんが突然声をあげた。

 周囲がちらと見てきて、メアさんは恥ずかしそうに声の大きさをさげる。


「勘違いって何がですか?」

「もしも、ランクが落ちるとわかっていてもだ。あいつらにその……そういうことをお願いしてまで冒険者を続けるつもりはなかったからな?」

「……あ、そうなんですか?」

「あっ、ってなんだ! 当たり前だろう! 私がそんな軽い女に見えるか!」

「いえ、見えませんよ。ただ、綺麗な人ではあるんですから、ああいった人には気をつけてくださいね」

「き、綺麗……う、あ……ああ。わかった、気をつける」


 彼女は赤くなった頬をその細く美しい人差し指でかいていた。

 俺たちの順番になり、素材を差し出す。

 袋に入ったそれを自信満々で渡したメアさんに、受付が目を見開いた。


「こ、これ……メアさんは解体していませんね?」

「な、なぜわかった!」

「メアさんであれば、ここまで綺麗にはできませんから……。もしかして、あなたですか?」


 ちら、と受付がこちらを見てくる。


「はい」

「……ギルドカードの記録を見ても、これが初めての依頼ですよね? おうちが、肉屋とかでしょうか?」

「いえ、そういうわけではありませんが……」

「……ということは天賦の才、ということになりますね。こんな綺麗な解体、一流の冒険者でもなかなかできませんよ」


 ……ハンマー便利だなぁ、と思いながら愛想笑いだけを返しておいた。

 ちらと見るとメアさんはまだ落ち込んでいた。


 ……解体は苦手、みたいな話もしていたし、仕方ないのかもしれない。

 報酬は山分けして、俺たちは冒険者ギルドから宿へと戻った。


「……本当に山分けでいいのか? 正直言って、この装備もそうだが、私は助けられてばっかりだったのだが」

「俺も一人じゃ体験できないこともありましたから。今日は一日、ありがとうございました」

「……そう、だな。私のほうこそ、一日ありがとう。……本当に助かった。キミが装備を見てくれなかったら、私はきっと、今回の依頼で失敗していただろう。……ありがとう」


 夕焼けの中で微笑むメアさんに、思わず見惚れる。

 本当に綺麗な人だ。義父が、顔だけで採用しただけはある。

 

「それじゃあ、店に戻って遅番頑張ってください」

「……あっ、そうだった」


 完全休みの俺とは違い、メアさんは夜の忙しい時間に勤務を入れていた。

 


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